■和算における最大最小問題(その3)

【2】掛谷の問題

 藤原の論文にある正多角形の内転形の考えは,掛谷に負うところが大きいされるが,卵形線の最大最小問題から自然に生じた問題として掛谷の問題

  「長さが1である線分を1回転させるのに必要な最小面積の図形は何か」

がある(1917年).卵形線という条件の下で藤原はこれが高さ1の正三角形であることを予想し,パルはこの予想が正しいことを証明した(1921年).

 卵形線という制限を外せば,直径3/2の円に内接するデルトイド(面積:π/8)であると予想されたのだが,1928年にベシコビッチがそのような図形で面積がいくらでも小さいものがあることを証明した.彼の示した解答は実に画期的なもので,多くの数学者をあっと驚かせた.掛谷の問題は問題がだれでもわかる単純明快なものでありながら,解析学と深く結びついていて解決には相応な数学の学識と優れた数学的才能を要するものだったのである.

 ところで,多くの数学者を刺激した掛谷の問題はどのようなきっかけで思いつかれたのだろうか.矢野健太郎「ゆかいな数学者たち」(新潮文庫)には,矢野が掛谷に伺ったところ,掛谷が「昔の武士はいつ襲ってくるかもしれない不意の敵に備えて,かわやに入るときでも刀を身から離さなかった.もし襲撃されたら狭いかわやの中で刀を振り回さなければならなくなる.そこで刀を1回転させることのできるかわやの最小体積はどうなるかと考えた」と答えられたという面白いエピソードが記述されている.

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