■PCRと2のベキ乗の話

DNAを発見したのはワトソン・クリックだと勘違いしている人は少なくないであろう。1869年、スイス人医師フリードリヒ・ミーシャーが包帯についた膿を分析。膿の細胞の核の中にリンを含む新物質を発見し、ヌクレインと名づけた。現在のDNAである。その後、1874年にはライン川のサケの精子中に大量のDNAを発見。また、ヘパリンの中和剤であるプロタミンを見つけたのも彼である。(なお、彼の名を冠するFMI研究所は分子標的薬TKI開発の中心で、2001年にはCMLに対してGlivecが認可されている)。

50年後、レヴィンが糖とリン酸基と塩基からなることを解明。1950年には生物種によらずA=T,G=Cの等量性が成り立つ(シャルガフの法則)。そして、1953年のワトソン・クリックの2重らせん構造はシャルガフの法則をうまく説明できるものであった。DNAの暗号解読には紆余曲折があったが、1958年にはDNA→RNA→蛋白というセントラルドグマが確立した。その後もサンガー法・PCR法の開発・ヒトゲノム計画など分子生物学は急速に進歩を遂げてきたのである。

PCR法では目的とする遺伝子を2-3時間で100万倍以上に増幅させることができる。

昨今のコロナ禍で,「PCR検査」はおなじみの用語になっているであろう.

ところで、PCR法は一挙に100万倍にできるわけではなく、1サイクルで2倍(実際には使用する機器によって異なるが私の使っているものでは1.82倍)

10サイクル繰り返すと2^10倍〜10^3倍

20サイクル繰り返すと2^20倍〜10^6倍(百万倍)

30サイクル繰り返すと2^30倍〜10^9倍(十億倍)

40サイクル繰り返すと2^40倍〜10^12倍(一兆倍)

通常の扱われる検体では30サイクルと40サイクルの間に立ち上がりが見られる。すなわち、十億倍〜一兆倍に増幅させることによって検出できるようになる。

これで検出できない場合は目的物質が含まれていないか、よほど含有量が低い物質ということになる。

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ここから数学の話に移るが

コンピュータのメモリでは1キロは1024を意味し1000ではないなど、2^10=1024〜10^3=1000は日常的にも定着している規格になっている。

1メガは2^30〜10^6

1ギガは2^90〜10^9

2^1000〜10^300となるが

その際、2^1000〜10^301がいえれば、log10(2)〜0.3010が確定する。

受験問題は限られた時間内に解かなければならないという受験生にとっては災難事であるが.驚いたことに

[Q]10^300<2^1000<10^302であることを示せ

は試験問題として適切なものであるという。

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[A]

2^1000=(1024)^100=(1+24/1000)^100・10^300<(1+25/1000)^100・10^300

=(1+1/40)^100・10^300={(1+1/40)^40}^5/2・10^300

ここで、2<(1+1/n)^n<3より

2^1000<3^5/2・10^300=243^1/2・10^300<256^1/2・10^300

=2^4・10^300

2^996<10^300より

log10(2)<300/996=25/83<0.3013

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2^1000=(1024)^100=(1+24/1000)^100・10^300>(1+20/1000)^100・10^300

=(1+1/50)^100・10^300={(1+1/50)^50}^2・10^300

ここで、2<(1+1/n)^n<3より

2^1000>2^2・10^300

2^998<10^300より

log10(2)>1000/998

これでは精度がよくない。

もっとe=2.718281828に近い値として2.5を選んでみると

2^1000>(5/2)^2・10^300=25/4・10^300=100/16・10^300

2^1004>10^302より

log10(2)>302/1004〜0.3008

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[0.3008<log10(2)<0.3013]

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