■整数の表現(その12)

【1】統計力学

分割数は狭い範囲の興味の対象にすぎないと思われるかもしれませんが,もし物理状態がn個の基本粒子の分割に関係しているとすると・・・,驚くほど深い物理学への応用をもっていることが理解されます.

実際,20世紀に誕生した統計力学では,nが大きくなるときどのような振る舞いを見せるか,どのような統計法則が現れるかが重要な研究対象になっていて,整数の分割問題は,現在では統計力学(Maxwell-Boltzmann統計,Bose-Einstein統計,Fermi-Dirac統計)など様々な分野で実際的な問題を解決するのに用いられています.

たとえば,n個の箱にr個の玉を入れる問題を考えます.箱を空間の小領域,玉を気体の分子と見立てて,ボルツマンは統計力学(Maxwell-Boltzmann統計)を構成しました.MB統計では1つの玉の入れ方がn通りで,玉がr個ですから全部でn^r通りの入れ方があると考えます.しかし,このように考えると,黒体輻射の実験がどうしてもうまく説明できませんでした.

 

 そこで,玉は区別がつかないと仮定すると,n個の箱に区別できないr個の玉を入れる入れ方は重複組合せnHr通り=n+r-1Cr通りあることになり,新たな統計力学が構成されます.この統計力学はBose-Einstein統計と呼ばれ,光子や中性子がうまく当てはまります.BE統計にしたがう素粒子はボゾン(boson)と呼ばれます.

 

 さらに,1つの箱には玉は1つしか入らないとするパウリの排他則を仮定すると重複のない組合せnCr通りとなり,Fermi-Diracの統計が得られます.FD統計にしたがう素粒子に電子や陽子があり,それらはフェルミオン(fermion)と総称されます.

 

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素粒子にはフェルミ粒子とボーズ粒子の2タイプがある.フェルミ粒子(電子やクォークなど)は物質を作り上げている粒子であり,ボーズ粒子(光子など)は力を運ぶ粒子である.数年前に,ジュネーブの大型ハドロン衝突型加速器で発見されたヒッグス粒子もボーズ粒子のひとつである.これら2種類の粒子には根本的な違いがある.2個のフェルミ粒子は同じ状態を同時に占めることはできないのに対し,ボーズ粒子は同じ状態を同時に何個でも占めることができる.

別の言い方をすると,宇宙を作っている粒子には2種類あり,物質の素になる粒子がフェルミオン(陽子・中性子・電子やクォークなど),力の素になる粒子がボゾン(光子など)なのですが,ボーズ粒子には集合する性質があり,それを利用してレーザーに使われています.逆に,フェルミ粒子には離散する性質があるため原子には電子軌道があるというわけです.

宇宙はひもから構成されているというのが「ひも理論」であり,フェルミオンのひもとボゾンのひもの2種類からなるのです.

フェルミ粒子とボーズ粒子の振る舞いは余りにも異なっていたため,両者を交換するような対称変換は存在しないものと思われていた.しかし,1970年代に,フェルミ粒子とボーズ粒子を交換する「超対称変換」があっても構わないというアイディアを打ち出された.超対称変換を導入することでいくつもの問題が解消されるという.1990年代にはいると,ひもを拡張して電子やクォークなど質量を与える粒子(フェルミオン)とボゾンを結びつける「超ひも」が考えられるようになった.さらにヒッグス粒子(神の粒子とよばれる)の発見により,質量がないボゾンと質量をもつフェルミオンとのつながり,すなわち「超対称性」がさらに念入りに調べることができるようになったのである.

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