■三角形のN心(その1)

平面図形の中で3本またはそれ以上の直線が1点で交わっていることを主張する定理が共点定理です.三角形の5心とは内心,傍心,重心,外心,垂心を指しますが,たとえば,三角形の各頂点から対辺に引いた3つの中線や垂線は1点に会するなど,三角形の5心の存在は共点定理の例となっています.

 一方,3点あるいはそれ以上の点が一直線上にあることを主張する定理は共線定理と呼ばれます.たとえば,三角形の外心と重心と垂心はその順番に一直線上に並んでいて,外心と垂心を結ぶ線分が重心によって1:2に内分されています.この共線はオイラー線と呼ばれています.

 三角形を定めたとき,各種共点が91点あり,それらが103本の直線(共線)に載っているという・・・実はもっと多いらしいのですが,今回のコラムでは幾何学の基本形である三角形の性質について,もう一度見直してみることにします.近年,初等幾何学(古典幾何学)の果たす役割は小さくなってきているといわれていますが,幾何学についてもう一度見直してみることは意味のあることでしょう.

===================================【1】三角形の5心

 三角形の5心とは内心,傍心,重心,外心,垂心を指しますが,内心は内角の2等分線,傍心は1内角と2外角の2等分線,重心は中線,外心は辺の垂直2等分線,垂心は頂点から対辺への垂線が1点に会した共点です.

 このうち,三角形の内心は3辺への距離のうちで一番小さいものが最大となる点(マックスミニ点),外心は3頂点に至る最大距離が最小となる点(ミニマックス点)です.同様に,垂心は三角形に内接する三角形の周長が最小になる点,重心は3頂点に至る距離の2乗の和が最小となる点です.

 外心と重心の中点はフォイエルバッハの9点円の中心であり,フォイエルバッハの9点円は各辺の中点,各頂点から対辺へ下ろした垂線の足,頂点と垂心の中点の9個の点を通る円となっています(1821年:ポンスレとブリアンション).

 このことから,オイラー線(1767年)は外心・重心・垂心・フォイエルバッハの9点円の中心を相互に結ぶ直線ということになりますし,フォイエルバッハの9点円の中心はオイラー線の中点で,その半径は外接円の半径の半分となります.

 さらに,フォイエルバッハの9点円が三角形の内接円と傍接円の各々に接する,9点円には他にも多くの特別な点が含まれているなど,三角形のような簡単な図形が無数に未知の性質を有することはまことに不思議なことです.

 また,ユークリッドは3つの角を2等分することで内心を見つけたのですが,モーリーは3つの角を3等分するとどうなるかを問題にして,モーリーの定理「任意の三角形において,各内角の3等分線の隣同士の交点を結んで得られる三角形は正三角形である」を発見しました(1899年).この驚くべき基本的な定理が2000年という長い間,20世紀直前にいたるまで発見されなかった理由は角の3等分問題は解けないことが判明していたところにあるのでしょう.

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