■解析(その15)
【2】シャボン玉と平均曲率一定曲面
石けん膜の数学的定式化として極小曲面がありますが,石けん膜といえば,シャボン玉を思う浮かべる方も多いと思われます.しかし,シャボン玉は極小曲面ではありません.シャボン玉は中の空気が閉じこめられていて,その容積が変わらないという条件のもとで,面積の変分問題に対応しています.
ところで,シャボン玉はなぜ丸いのでしょうか? 等周不等式
S^3≧36πV^2
に関係していることは直感的に発想できるでしょうが,球面はその自明な解です.また,極小曲面が石けん膜であったとき,膜の両側の気圧は等しい状態にあるのですが,膜の両側に気圧差があれば,シャボン玉の中の気圧と表面張力のバランスで半径が決まることになります.
曲面の各点で曲がり方が最もきつい方向と緩やかな方向がありますが,平均曲率Hとは2方向の曲率κ1,κ2の相加平均で定義されます.
K=κ1κ2
H=(κ1+κ2)/2
κ1=H−(H^2−K)^(1/2)
κ2=H+(H^2−K)^(1/2)
実は,体積固定の表面積の変分問題は,平均曲率一定曲面に対応しています.すなわち,平均曲率が一定(≠0)の曲面は,体積一定のまま表面積を最小にすることによって得られますが,球面はその自明な例です.また,平均曲率が恒等的に0である曲面は極小曲面と呼ばれ,これがプラトー問題の数学的な定式化でした.
(問)互いに平行な2つの円盤に石けん膜を張ったとき,その形は?
(答)アンデュロイド
互いに平行な2つの円形の枠に石けん膜を張ったとき,膜の両側の気圧は等しい状態にあるのですが,平行な円形の枠を円盤に代えれば中に空気が閉じこめられるので,膜の両側に気圧差があり,解は極小曲面とはなりません.この場合は,中の空気が閉じこめられているため,その容積が一定という条件のもとでの面積の変分問題に対応しています.
この問題の解はアンデュロイドと呼ばれるカテノイドとは別の平均曲率一定曲面になります.この曲面は楕円を直線上を転がしたときに,ひとつの焦点が描く波状の軌跡を直線のまわりに回転させたものになっています.
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