■解析(その14)

ここでは,変分問題の解が曲面になるものを扱ってみます.シャボン玉の丸い形や枠に張られた石けん膜の形の面白さは,どちらも表面積が最小になろうとする傾向のあらわれですが,石けん膜は極小曲面(平均曲率が恒等的に0の曲面),シャボン玉は平均曲率一定(≠0)曲面と呼ばれる異なる数学的曲面となっています.

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【1】石けん膜と極小曲面

 ラグランジュは,与えられた境界をもつ極小曲面(表面積最小曲面)を決定せよという問題を提示しましたが,19世紀のベルギーの物理学者プラトーは,石けん膜に関する面白い実験結果を報告しました.その実験によれば,針金で輪をつくれば,それがどんな形の囲いであっても,必ず石けん膜が張られるというものです(1873年).

 

 物理的には,石けん膜では表面張力によって表面積最小の曲面が実現します.もし,輪をひねって立体的な形にしたものを石けん液に浸して引き上げると,複雑な形の曲面ができることになりますが,その場合でも針金の枠のなかでは最小の表面積をもった膜が実現し,一定の枠のなかにできる最小面積の曲面の形が決定できるわけです.

 

 プラトーによって提起された問題は,いい換えれば,閉曲線を境界とする最小表面積の曲面を求める変分問題にほかなりません.これに対する数学的な問題は「3次元ユークリッド空間の中に任意の閉曲線Cを与えたとき,Cを境界とする極小曲面はどんな閉曲線に対しても存在するかどうか?」というものです.プラトー問題の解は物理的には石けん膜として存在するものの,数学的にはどんな閉曲線に対しても存在するかどうかが問題となるのですが,極小曲面の存在証明が数学的になされたわけではないのです.

 

 やがて,この問題は数学者の興味をひきつけ,極小曲面の存在と一意性を扱う「プラトー問題」として知られるようになりました.そして,1930〜1931年,アメリカの数学者ダグラスとハンガリーの数学者ラドーによって独立に解決されたのです.この業績により,ダグラスは1936年に数学界のノーベル賞にあたる第1回フィールズ賞を受賞しています.

 

プラトーの問題は,変分法の問題となり,実際に解くのは大変難しいのですが,ここでは簡単な例を扱ってみることにします.

(問)互いに平行な2つの円形の枠に石けん膜を張ったとき,その形は?

(答)この問題は「y=f(x)>0のグラフをx軸を中心に回転させてできる曲面の面積を最小にしたい」と等価です.曲面の面積は

  S[y]=2π∫y(1+(y')^2)^1/2dx

で与えられます.懸垂線(カテナリー)の問題を変分法によって解いたのはベルヌーイであったのですが,これは懸垂線で考えた位置エネルギーの2π倍ですから,解は懸垂線を回転させたものであることが導かれます.

 

 懸垂線は与えられた2点を両端とする一定の長さの曲線を,x軸を軸として回転させたときにできる曲面の表面積を最小にする曲線であることがわかります.カテナリーを準線のまわりに回転させてできる曲面は懸垂曲面(カテノイド)と呼ばれます.なお,カテノイドは,唯一の回転極小曲面であることも示されています.懸垂面は極小曲面(表面積最小曲面)の重要な例ですが,常螺旋面(ヘリコイド)など,極小曲面については非常に多くの例と結果が知られています.ヘリコイドとカテノイドは第2基本形式は異なるものの第1基本形式はまったく同じです.

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