■解析(その11)

【1】ひもの形

[1]懸垂線

重力だけの影響下で,垂れ下がる鎖の形状を求めよ (ヤコブ・ベルヌーイの問題)

 伸び縮みしないひもの両端を固定しぶら下げてできる曲線を懸垂線(カテナリー)といいます.ひもの両端をもちあげたときに,そのひもがどのような形状をとるかは古くからある変分問題のひとつで,長さと端点が固定されている曲線:y=f(x)の位置エネルギーを最小とする関数形を求めよということになります.

 

 ひもの位置エネルギーは高さyに比例しますから,位置エネルギーは,

  U[y]=∫y(1+(y')^2)^1/2dx

で定義されます.また,ひもの長さは

  L[y]=∫(1+(y')^2)^1/2dx

であり,ひもの長さが一定であるという条件下で回転体の表面積を最小とする変分問題に帰着されます.

この問題は条件付き極値問題ですから,ラグランジュの未定乗数法を用いて解くことができます.ここでは問題を定式化するだけで,実際の計算は略しますが,その解は端点の位置に関わらず,双曲余弦関数

  y=a/2{exp(x/a)+exp(-x/a)}

になります.懸垂線はちょっとみると放物線ではないかと思われがちで,ガリレオは放物線と勘違いしていたようですが,変分学の教えるところによると解は双曲余弦であって,放物線よりもずっときつく上昇する曲線です.

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[2]ゴムひもの形

一方,ゴムひものように伸び縮みする素材で作られたひもの両端をもってぶら下げたときに,ひもがとる形状はカテナリー(懸垂線)とはなりません.この場合,ひもの長さは固定されておらず,位置エネルギーだけでなく,張力エネルギーとの和を最小とするような形状をとるからです.張力エネルギーは

  T[y]=∫(1+(y')^2)dx

で定義され,そこで,c1*U[y]+c2*T[y]の変分問題を考えると,その解は放物線となります.カテナリーは代数曲線ではありませんでしたが,ここでまた代数曲線が登場しました.

吊り橋のように自重よりもはるかに重い重力がかかる場合も,ゴムひものように伸び縮みする素材で作られたひもをぶら下げたときの形状と同様に解は放物線となります.

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[3]縄とびの形

さらに,縄とびの縄の形のように遠心力が重力にくらべ十分大きい場合は,回転体の体積が最大とする変分問題に帰着されます.一般に,曲線の長さ:

  L[y]=∫(1+(y')^2)^1/2dx

を固定して,回転体の容積:

  V[y]=π∫y^2dx

が最大になる曲線を考えてみると,この解は楕円関数になることが知られています.

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