■数学と科学と芸術と(その1)

20世紀に数学や科学から導かれた概念を作品の中心に据えて描いた芸術家の双璧といえばスペインのダリとオランダのエッシャーであろうと思われます.ダリもエッシャーも製作に際し,優れた数学者や科学者と密接に協力し,芸術を通じて理解しにくい数学的概念を把握する方法を人々に提供してくれました.

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【1】エッシャーと球面らせん

 われわれが最も慣れ親しんでいる世界地図は,メルカトールの地図と呼ばれるものです.メルカトール図法は,任意の点から任意の他の点までの正しい方向(方位角)を示す地図であって,海図として航海のナビゲーション用に広く使用されています.

 船が羅針盤を頼りに経線・緯線となす角を一定にとって進むことにすると,メルカトール図法ならは経線・緯線は平行な縦横の線として表されるので航路は直線になります.しかし,メルカトール図法は正距図法ではないので,地図上の任意の2つの点を結ぶ線分(航程線)は測地線とはなりません.このような航路が描く線を航海術の用語で航程線というのですが,これを球面上で見れば渦巻き線となります.オランダの版画家エッシャーは数学を深く理解していた画家で,これとよく似た木版画「球面らせん」という作品を製作しています.

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