■微分幾何(その3)

 さて,ガウス・ボンネの定理とは,

  ガウス曲率の積分=2π×オイラー数 で表されます.この定理は,曲面の各点における曲がり具合を知れば,位相不変量がわかることを意味しています.われわれの住む世界にいくつ穴が空いているかは外側からみれば一目瞭然ですが,前述したように,内部に住む人間(曲面人)にはなかなか理解できません.しかし,以上の議論から,面・辺・頂点の数を数えたり,世界の曲がり具合を調べることによって,内部に住む人間も穴の数を知ることができるようになるというわけです.

 

 ガウス・ボンネの定理は,

  微分幾何学的データ=位相幾何学的データ

の形をしています.微分幾何学と位相幾何学の異なる2つの世界を結びつけているところから,リーマン幾何学で最も美しい定理といわれています.

===================================

 ガウス・ボンネの定理に類似の図式は,リーマン面のリーマン・ロッホの定理やディラック演算子に関するアティヤ・シンガーの定理などにも表れ,美しい定理の1つの型となっています.

また,オイラー数を曲率の積分で表すガウス・ボンネの定理は,2次元に限らず,2n次元についても拡張されて成り立ちます.これは,ポアンカレ・ホップの指数定理と呼ばれています.その後,ガウス・ボンネの定理はチャーンによって高次元に拡張されました.また,ガウス・ボンネ・チャーンの定理,リーマン・ロッホの定理,ヒルチェブルフの符号定理など,それ以前に知られていた幾何学の代表的ないくつかの定理を統一したものが,アティヤ・シンガーの指数定理なのです.

 

 このようにして,初期のガウス・ボンネの定理は徐々に複雑なものになっていきましたが,より複雑なものになっても,初期のエレガントさは失われず,ガウス・ボンネの定理と同様の趣旨=美しさは少しも損なわれていないようです.

===================================