■ケプラー問題(その2)

【1】ケプラーの球体充填問題

六花という異名をもつ雪がなぜ六角形をしているのだろうかという問題を考えてみましょう.ケプラーが雪の結晶はなぜ六角形であるのかと考えたのは1611年のことでした.六角形は蜂の巣など現実世界で非常によく見られる形ですから,ケプラーの考えた雪片の構成原理は六角充填の効率性と関連しているというものでした.つまり,物質を構成する粒子は体積を最小とするように自己を組織化するだろうという構成原理を考えたのです.

ケプラーは粒子が球形だと仮定して,さまざまな配置の空間充填率を計算してみました.最初に試みたのは,それぞれの球が6個の球に囲まれるように第1層を構成し,第2層は第1層のくぼみに球を置くという積み方です.これは別の角度からみると,立方体の8個の頂点と6面の中心に球が配置されているところから,面心立方格子と呼ばれている配置ですが,この積み方は八百屋の店先でミカンなどの山を安定に積み上げるために使われている日常的な配置です.この場合の充填率はπ/√18(74.04%)になります.そして,さまざまな配置を調べてみたケプラーは,面心立方格子が最密充填構造であるという結論に達しました.ケプラーといえば,惑星の運行法則で有名ですが,天文サイズばかりでなく,ミクロな世界にまで注目し「神のなせる業」を見いだそうとしていたのです.

 面心立方格子が最も密な球の充填方法だろうという予想は400年近く前のケプラーまでさかのぼります.日常の経験からしても,同じ大きさの球の最も効果的な配置問題は自明なものと考えてしまいがちで,直感的に面心立方格子をなす場合が最大に詰め込んだ配置に思えます.しかしだからといって,無限にある可能性をすべてひっくるめて証明したわけではないので,これは定理ではなく予想にすぎません.ランダムな配置まで含めると,空間充填率が74.04%よりも引き上げられるかもしれないからです.

 ロジャースは「ケプラー予想が正しいことは多くの数学者が信じ,すべての物理学者が知っている」という名文句でも有名ですが,1958年,彼は正四面体配置から空間充填率の上限を3√2(arccos1/3−π/3)=77.96%とはじき出しました.正四面体配置は,3次元で相互に接するように球を配置するときの最大数となる配置ですが,全空間を充たすことはできないので,空間充填率の上限と考えられるわけです.これを74.04%まで引き下げることができれば,面心立方格子が最密充填構造だという証明になるのですが,残念ながら,上限の引き下げは骨の折れる厄介なプロセスであり,遅々として進みませんでした.

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