■射影幾何(その3)

【3】パスカルの定理

 パップスの定理は直線の固有の性質というものではなく,円でも同様に成り立つことをパスカルが発見する.

  円に内接する六角形の対辺の交点は共線である.

その後,パスカルは,射影変換を行っても定理で述べられた性質は保たれることを見抜いて簡明な証明を与えている.すなわち,円錐曲線定理

 「円錐曲線すなわち楕円,双曲線,放物線に内接する任意の六角形の三組の対辺の交点は同一直線上にある.」(1640年)

は円に対する証明を示せば直ちに得られることになる.実際,問題が簡単な形になったことで,パスカルは古典幾何学的に円に対する証明を与えたが,それで放物線に対しても直接証明することなしに自動的に定理が導かれたというわけである.

パスカルの定理の重要な系が「円錐曲線は任意の5点で一意に定まる」で,パスカルの定理の逆は「6角形の向かい合っている3辺の3組の交点が一直線上にあるとする.このとき,6角形の頂点は1つの2次曲線上にある.」 また,射影平面上では点という語と直線という語を入れ替えても定理は成り立つ.これをポンスレーの双対原理と呼び,射影幾何学の最も美しい特質である.そして,パスカルの定理から150年以上たって,その双対にある共点定理「円錐曲線の外接する6辺形の対角線は1点で交わる」が発見された.それがブリアンションの6辺形定理である.

パップスの定理はパスカルが2次曲線について発見した円錐曲線定理の特別な場合になっている.直線は無限半径をもつ円であるが,円錐曲線が既約でない場合,2本の直線からなる退化した円錐曲線を考えれば容易にパップスの定理にたどりつくであろう.パスカルの定理の特別な場合は古代においても知られていたというわけである.

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