■5次方程式(その1)

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2次方程式:

  ax^2+bx+c=0

の根の公式:

  x=(−b±√D)/2a,D=b^2−4ac

は紀元前二千年頃のバビロニアで求められています.この公式は,根を与えられた2次方程式の係数の加減乗除および根号をとるという手続きのみを用いて書かれています.

1次方程式を解くために有理数(分数)を考え,2次方程式を解くために無理数と複素数を考え,実数から複素数へと数の世界は拡大されました.ガウスが1799年に証明した代数学の基本定理によって,n次方程式はnがどんな値のときでも複素数の範囲で根の存在は保証されています.それでは,n次方程式の根の公式の場合も,係数についての加減乗除とn乗根(n≧2)をとるという手続きのみを用いて表すことができるでしょうか? ここでは根の公式の存在証明をとりあげます.

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【1】3次方程式の根の公式

3次方程式は16世紀(1515年〜1540年ころ)になって,フォンタナ(タルタリアというのはどもる人という意味で彼のニックネームだった)によって,根の公式が求められています.

ax3 +bx2 +cx+d=0

に対してx’=x+b /3a と変換するとx2 の項が0である方程式

x^3=px+q

に還元できます.

ここで,因数分解の公式

  a^3+b^3+c^3−3abc

 =(a+b+c)(a^2+b^2+c^2−ab−bc−ca)

 =(a+b+c)(a+bω+cω^2)(a+bω^2+cω)

が使えそうです.ωは1の3乗根:{(-1+√(-3)}/2であり,

  ω^3=1

また,

  x^3−1=(x−1)(x^2+x+1)

      =(x−1)(x−ω)(x−ω^2)

と因数分解できますから,ω^2+ω+1=0を満たしています.

  a^3+b^3+c^3−3abc=a^3−3bca+(b^3+c^3)

a^3=3bca−(b^3+c^3)

として,係数を比較すると,既知の数p,qに対して

  p=3bc,

  q=−(b^3+c^3)

を満たすb,cが求められれば,

  u=−(b+c),−(bω+cω^2),−(bω^2+cω)

より,解

  x=−b/3a−(b+c)

  x=−b/3a−(bω+cω^2)

  x=−b/3a−(bω^2+cω)

が得られたことになります.

その解はカルダノの公式

  x=3√A+3√B

  A=q/2+√((q/2)^2−(p/3)^3)

  B=q/2−√((q/2)^2−(p/3)^3)

で与えられます.カルダノの方法として知られている3次方程式の根の公式は,実はカルダノではなくフォンタナ(通称タルタリア)の発見した解法であるというエピソードはいろいろな数学史の書物に取り上げられているのでご存じの方も多いと思われます.

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【2】4次方程式の根の公式

4次方程式の場合も,フェラーリによって肯定的に解かれ,根の公式が求められています.フェラーリは次数4の方程式は2次方程式と3次方程式に帰着させることができ,したがって平方根と立方根によって解けることを発見しました.この4次方程式の根の公式は荘厳(いかめしい?)すぎて,とても憶える気になりませんし,また,憶えられる代物でもありません.

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