■対蹠点までの距離(その198)

 コロナの影響で、向後1年の学会は中止となるようだ。形の科学会に向けた抄録を掲げておきたい。

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問題の設定

ワイソフ多胞体は、1種類あるいは2種類以上のファセットが各頂点の周りに同じ状態で集まってできる凸一様多胞体であって、3次元におけるプラトン立体・アルキメデス立体を統一して、高次元まで拡張した概念となっている。ここでは、ワイソフ多胞体の相対する頂点同士を何本の辺で結べるか、そのステップ数を求める問題を考える。

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固有方程式を用いてステップ数を数え上げる[1],[2]

4次元以上では数え上げは困難になるから、いささか天下り的ではあるが、正多胞体の基本単体の鏡映によって生成される群の固有方程式を考える。An群の固有方程式は第2種Chebyshev多項式Un(λ)=0、Bn群のそれは第1種Chebyshev多項式Tn(λ)=0に帰着され、Un(x)=sin(n+1)θ/sinθ,Tn(x)=cos(nθ),x=cosθであるから、直ちにAn群の固有値λ=cos(iπ/(n+1))、Bn群の固有値λ=cos((2i-1)π/2n)を得ることができる。これをPetrie数hと指数列mを用いてλ=cos(mπ/h)の形で記述するとそれぞれh=n+1, m=(1,2,3,・・・,n), Σm= n(n+1)/2とh=2n, m=(1,3,5,・・・,2n-1) , Σm= n2。ここで、ステップ数はΣm= nh/2で与えられるから、対蹠点に至るステップ数は切頂八面体で6、大菱形立方八面体では9、6次元の{3,3,3,3,4}(1,1,1,1,1,1)のステップ数は36となることがわかる(図1,2)。それ以外の例をあげると、H3/H4群の固有方程式はChebyshev多項式の簡単な1次結合:2τ2Tn(λ)-Un(λ)=0, τ=(1+√5)/2に帰着され、Petrie数と指数列はそれぞれh=10,m=(1,5,9)、h=30, m=(1,11,19,29) となることから、大菱形20・12面体と4次元の{3,3,5}(1,1,1,1)のステップ数はそれぞれ15と60になる(図3,4)。

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投影図を用いてステップ数を数え上げる[3],[4]

次元が高くなるにつれてワイソフ多胞体のwireframe投影図は線分が密集し、6-7次元ともなるとblack outしてしまうことも少なくない(図2)。このような投影図を用いてステップ数を数え上げることは困難であるが、適切に着色・隠線処理を施して、適切な方向からのsolid投影図が得られれば、それを用いてステップ数を数え上げることが可能となる。目で見える部分は直接的な数え上げ、扁平化して見えない部分は失われた情報を脳ミソで補う(脳内イメージを喚起する)ことによって、たとえば、格子多面体のステップ数は{3,3,4}(1,1,1,0)の場合、6(直接数え上げ)+6(ワイソフ多胞体のファセット分解)=12、{3,3,3,4}(1,1,1,1,0)の場合、8+12=20、{3,3,3,3,4}(1,1,1,1,1,0)の場合、10+20=30。再帰的な関係よりn次元の格子多胞体のステップ数はn(n-1)になることがわかる。

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結語

これで一般のワイソフ多胞体のステップ数を個別に数え上げることが可能になった。図の助けを借りてはいるが、このようなアルゴリズムで数え上げを行うと、3次元多面体のステップ数から4次元多胞体のステップ数が得られ、それが判明すると5次元多胞体のステップ数が得られるといった芋づる式算法になっていることがおわかりいただけたかと思う。

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