■初等幾何の楽しみ(その146)

 曲線Lのまわりに巻かれた糸があり、この糸をぴんと張ったままほどくと糸の自由端によって曲線Mが描かれるとします。MをLの伸開線(インボリュート)、LをMの縮閉線(エボリュート)と呼びます。

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 円の伸開線、すなわち円に巻きつけた糸の一端の軌跡は

x=a(cosθ+θsinθ),y=a(sinθ−θcosθ)

と表され、歯車の歯形として工学に応用されています。

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また、放物線:y=x^2の縮閉線はy=1/2+3(x/4)^2/3です。

逆に、半立方放物線:y^2=ax3 の伸開線は放物線になります。

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 サイクロイド:x=r(θ−sinθ),y=r(1−cosθ)の縮閉線は

x=a(θ+sinθ),y=−a(1−cosθ)

です。

ここで、θ=π+tとおけば

x=a(t−sint)+aπ,y=a(1−cost)−2a

ですから、もとのサイクロイドと合同なサイクロイドになることが示されます。

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 カテナリー(懸垂線)の伸開線はトラクトリックス(追跡線)と呼ばれています。

x=a(logtan(θ/2)+cosθ),y=asinθ

追跡線上の点と、その点での接線がx軸と交わる点との距離aは常に一定です。この性質が追跡線というこの曲線の名前の由来で、ある長さのひもの先に石を結びつけて引っ張りながらx軸上を歩くと、石の通る軌跡が追跡線になります。

追跡線をx軸(漸近線)のまわりに回転すると、曲率が負で一定の曲面(擬球面)ができます。定数aをその擬半径といいます。驚いたことに、この曲面上の幾何学はユークリッド幾何学の平行線の公理を「直線外の1点を通り、その直線に平行な直線は無数に存在する」によって取り替えて導かれる双曲的非ユークリッド幾何学と同じになります。双曲的非ユークリッド幾何学はボヤイとロバチェフスキーがそれぞれ独立に、しかもも同じ時期に発見したものです。

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