■格子のボロノイ細胞(その40)

 身近な素材である食塩(NaCl)を取り上げて,基本的な物理定数であるマーデルング定数を求めよう.

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 イオン結晶の結合エネルギーは,イオン間のクーロン力によるもので,クーロン力は電荷の積に比例し,距離の2乗に反比例する力であるから,クーロンポテンシャル(静電エネルギー)Uは,

  U=∫(∞,r)e^2/r^2dr=e^2/r   eはイオンの電荷

で与えられる.

 食塩はNa+とCl-が交互に並んで立方格子というジャングルジムのような構造を形成するイオン結晶である.NaCl結晶の場合,最近接イオン間の距離をRとすると,Na+イオンのまわりには,Rだけ離れて6個のCl-イオンがあり,第2近接には√2Rだけ離れて12個のNa+イオン,第3近接には√3Rだけ離れて8個のCl-イオン,第4近接には2Rだけ離れて6個のNa+イオンがある.また,異符号のイオン間には引力が働き,同符号のイオン間には斥力が働くから,NaCl結晶の結合エネルギーは,これらのイオン間のクーロンポテンシャルを加えて,

  U=-e^2/R[6-12/√2+8/√3-6/2+・・・]

となる.無限級数で示される括弧のなかの和

  6-12/√2+8/√3-6/2+・・・

をマーデルング定数と呼ぶ.

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[雑感]たいていの物性をテーマとする物理の本には,この無限級数が収束するのはさも当然のごとく書かれてあるが,みるとやるでは大違い.

 この無限級数の計算は,マーデルングによって約80年ほど前に行われたものであるが,実際に計算してみると,この級数は一筋縄ではゆかない厄介者である.

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