■因数分解の算法(その27)

【3】ディラック行列

 パウリの行列において

  x^2+y^2+z^2=r^2

は3次元空間での球に相当するわけですが,歴史的にはパウリが基本粒子のスピンを数学的に表現するために考案したものです.この考えがヒントになって,ディラックが4次元時空における時間の項を加えた

  x^2+y^2+z^2+t^2

を因数分解するために「ディラック行列」を使いました.

  αx=[0,0,0,1]  αy=[0, 0,0,−i]

     [0,0,1,0]     [0, 0,i, 0]

     [0,1,0,0]     [0,−i,0, 0]

     [1,0,0,0]     [i, 0,0, 0]

  αz=[0, 0,1, 0]  β=[1,0, 0, 0]

     [0, 0,0,−1]    [0,1, 0, 0]

     [1, 0,0, 0]    [0,0,−1, 0]

     [0,−1,0, 0]    [0,0, 0,−1]

 これらの4組の2×2行列をディラック行列と呼ぶのですが,(その26)と同様に,

  xαx+yαy+zαz+tβ

 =[ t,  0,  z, x−yi]

  [ 0,  t, x+yi,−z ]

  [ z, x−yi,−t, 0  ]

  [x+yi,−z ,0,  −t ]

  (xαx+yαy+zαz+tβ)^2

 =[x^2+y^2+z^2+t^2,0,0,0]

  [0,x^2+y^2+z^2+t^2,0,0]

  [0,0,x^2+y^2+z^2+t^2,0]

  [0,0,0,x^2+y^2+z^2+t^2]

 =(x^2+y^2+z^2+t^2)E

という関係が確かめられます.これで,(x^2+y^2+z^2+t^2)Eという行列は,(xαx+yαy+zαz+tβ)^2に分解できることがわかりました.

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