■鉄の神様(その3)

[5]KS鋼開発

 本多先生は、住友家の援助で金研を設置しました。その後、1916年に、当時世界一強力な永久磁石であったKS鋼の開発に成功しました。鉄、コバルト、クロム、タングステン、炭素の複雑な組み合わせにより、その強力な磁性を実現しています。すなわち、鉄の相図研究を精力的に行い、当時最先端の理

解を得て、永久磁石設計を行った結果です。この新しい研究方法は、物理の原理に基づく冶金学と言う意味で、冶金物理学と呼ばれています。

 しかし、如何に、物理の原理に基づいて設計した、とは言っても、実際には、錬金術的試行錯誤の連続であり、絨毯爆撃的なところもあったため、不眠不休で長時間の実験を行った研究成果でした。自然を相手とした実験的研究では、謙虚に、飽きずに探索をし続ける必要があります。それが、大きな成功をもたらす唯一の方法であることを示されました。

 KS鋼の名称は、寄付者である住友吉左右衛門のイニシャルを冠したものです。現在、民間からの寄付によって大学に開設する組織として、その寄付者の名前を冠した冠講座がありますが、その走りであるとも思われ、ここでも本多先生の先進性が窺われます。また、現在に至るまで、永久磁石の研究は継続的に行

われ、桁違いに強力なアモルファス磁石のような新しい材料も生まれました。

[6]研究所名称変更と日本金属学会や企業創設

 本多先生の偉いところは、一つのところに止まらないことです。1916年に臨時理化学研究所第2部を設立し(これが金研の始まり)、1919年に鉄鋼研究所と変更、そして、1922年に現在の名称である東北大学金属材料研究所としています。

 もちろん、その度に、規模拡大を実現しています。鉄鋼研究所では年間2万円程の研究費が、金属材料研究所となって10万円以上になりました。常に、何事にも捕らわれずに、研究を遂行していく。そのために必要な環境は、自分で整備する。現在の国立大学独立行政法人化で言われていることを、とうの

昔に実現されていたのです。

 我が国の発展のためには、金属の研究が重要になるという先見の明を持たれ、日本金属学会を創設され、自ら初代会長に就任されました。現在、多くの学会がありますが、1万人以上の会員を有する学会で東京以外に本部があるのは、日本金属学会のみです。その本部は仙台市青葉山にあり、金属博物館を併設し

ていますので、是非見学においで下さい。

 仙台には、東北金属(現トーキン)、東洋刃物、東北特殊鋼等の金属関係の企業が多いことは良く知られています。それは、戦前の金研との産学協同体制によるところが大きかったのです。現在、産学協同やベンチャー設立の話が盛んになされていますが、何十年も前に、既に実現していた、という事実にはた

だ驚くばかりです。 

[7]第一回文化勲章授賞

 以上述べてきた多くの業績により、昭和12年には、文化勲章の第一回目の授賞者に選ばれました。第一回目というのは、その人のために賞が作られたとも思われ、如何に本多先生が尊敬されていたかが分かります。

 本多先生は、他にも、大正5年に「鉄に関する研究」で学士院賞、昭和8年に、帝国発明協会恩賜賞、等の授賞に輝いておられます。小学校4年の社会科の教科書に本多先生の記事があります。世の中に賞をいただいている人は多いのですが、小学校の教科書に載っている人は、極めて少なく、本当の偉人のみです。

[8]本多光太郎−20世紀に輝いた鉄の神様―

1. 本多記念館

〒980-8577

仙台市青葉区片平2−1−1

東北大学金属材料研究所内

(平成11年に東二番町に本多記念館の道路標識設置)

Tel (022) 215-2970 Fax (022) 215-2184

URL: http://www.imr.edu/

E-mail: imr-som@bureau.tohoku.ac.jp

2. 金属博物館

〒980-0845

仙台市青葉区荒巻字青葉

Tel (022)223-3685 Fax (022)223-6312

URL: http:// wwwsoc.nacsis.ac.jp/jim/714.html/

E-mail: musium@jim.or.jp

3. 本多光太郎資料館

愛知県岡崎東公園

岡崎市欠町字大山田1番地1

Tel (0564) 24-0050

http://www.city.okazaki.aichi.jp/yakusho/ka4520/kakurasi/

kura691.htm

川添良幸:元・東北大学金属材料研究所・教授

現・東北大学未来科学技術共同研究センター・シニアリサーチフェロー

(愛称である)金研は,我が国金属材料研究発祥の地として、見学に訪れる人も多い。

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