■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その67,杉岡幹生)

 続いて虚2次体Q(√-6)ゼータLE(s)の8分割を調べます。

LE(s)はディリクレのL関数L(χ,s)

  L(χ,s)=χ(1)/1^s +χ(2)/2^s +χ(3)/3^s +χ(4)/4^s +χ(5)/5^s +χ(6)/6^s +χ(7)/7^s +・・

 の一種であり、次のものです。

  LE(s)=1 +1/5^s +1/7^s +1/11^s -/13^s -1/17^s -1/19^s -1/23^s +・・

 LE(s)は虚2次体Q(√-6)のゼータ関数で、導手N=24を持つ。

 ディリクレ指標χ(n)は、n≡1 or 5 or 7 or 11 mod 24のときχ(n)=1, n≡13 or 17 or 19 or 23 mod 24のときχ(n)=-1, その他のときχ(n)=0となる。

 s=1のLE(1)は次となる。右辺値は虚2次体の類数公式からわかります。

 LE(1)=1 +1/5 +1/7 +1/11 -/13 -1/17 -1/19 -1/23 +1/25 +1/29 +1/31 +1/35 -/37 -1/41 -1/43 -1/47 +・・・=π/√6 ------@

===================================

 それでは、LE(1)の8分割を示します。※は無視して残りの8つで8分割となります。L(1)12分割を利用しているため、あえて※を残しました。

■LE(1)8分割

 A1= 1 -1/47 +1/49 -1/95 +1/97 -1/143 + ・・ =(π/48)tan(23π/48)

※A2=1/3 -1/45 +1/51 -1/93 +1/99 -1/141 +・・ =(π/48)tan(21π/48) ⇒無視

 A3=1/5 -1/43 +1/53 -1/91 +1/101 -1/139 +・・=(π/48)tan(19π/48)

 A4=1/7 -1/41 +1/55 -1/89 +1/103 -1/137 +・・=(π/48)tan(17π/48)

※A5=1/9 -1/39 +1/57 -1/87 +1/105 -1/135 +・・=(π/48)tan(15π/48) ⇒無視

 A6=1/11 -1/37 +1/59 -1/85 +1/107 -1/133 +・・=(π/48)tan(13π/48)

 A7=1/13 -1/35 +1/61 -1/83 +1/109 -1/131 +・・=(π/48)tan(11π/48)

※A8=1/15 -1/33 +1/63 -1/81 +1/111 -1/129 +・・=(π/48)tan(9π/48) ⇒無視

 A9=1/17 -1/31 +1/65 -1/79 +1/113 -1/127 +・・=(π/48)tan(7π/48)

 A10=1/19 -1/29 +1/67 -1/77 +1/115 -1/125 +・・=(π/48)tan(5π/48)

※A11=1/21 -1/27 +1/69 -1/75 +1/117 -1/123 +・・=(π/48)tan(3π/48) ⇒無視

 A12=1/23 -1/25 +1/71 -1/73 +1/119 -1/121 +・・=(π/48)tan(π/48)

  A1 +A3 +A4 +A6 -A7 -A9 -A10 -A12=LE(1)となります。上記全式に対し数値検証しましたが、全て左辺の級数は右辺値に一致しました。

 上記A1〜A12はL(1)12分割の分身たちです。L(1)12分割は(その22)で見ましたが、A1 -A2 +A3 -A4 +A5 -A6 +A7 -A8 +A9 -A10 +A11 -A12=L(1)です。

===================================

 上の分割級数の導出過程を簡単に述べます。次のタンジェントの部分分数展開式を使います。

 1/(1^2-x^2) +1/(3^2-x^2) +1/(5^2-x^2) +・・ =(π/(4x))tan(πx/2)

 このxに次の値を代入することで、分割された級数とその値が求まります。

 xに値23/24を代入すると、A1が得られる。

 xに値21/24を代入すると、A2が得られる。 ⇒無視 21/24=7/8でありL(1)4分割のA1と同じ。

 xに値19/24を代入すると、A3が得られる。

 xに値17/24を代入すると、A4が得られる。

 xに値15/24を代入すると、A5が得られる。 ⇒無視 15/24=5/8でありL(1)4分割のA2と同じ。

 xに値13/24を代入すると、A6が得られる。

 xに値11/24を代入すると、A7が得られる。

 xに値 9/24を代入すると、A8が得られる。 ⇒無視 9/24=3/8でありL(1)4分割のA3と同じ。

 xに値 7/24を代入すると、A9が得られる。

 xに値 5/24を代入すると、A10が得られる。

 xに値 3/24を代入すると、A11が得られる。 ⇒無視 3/24=1/8でありL(1)4分割のA4と同じ。

 xに値 1/24を代入すると、A12が得られる。

===================================

 このようにしてLE(1)の8分割が求まりました。上で言及したようにLE(1)の分身たちは、L(1)12分割の分身たちの8つと同じです。

 

 つまりLE(1)は、L(1)のパーツA1〜A12のうちA1,A3,A4,A6,A7,A9,A10,A12から作られている。まとめて書くと、次のようになります。

  L(1)=A1 -A2 +A3 -A4 +A5 -A6 +A7 -A8 +A9 -A10 +A11 -A12  

  LE(1)=A1 +A3 +A4 +A6 -A7 -A9 -A10 -A12

 さらに@よりLE(1)=π/√6 ですから、LE(1)8分割の右辺のtan()に着目すると、次式が成り立ちます。

  (π/48){tan(23π/48) +tan(19π/48) +tan(17π/48) +tan(13π/48) -tan(11π/48) -tan(7π/48) -tan(5π/48) -tan(π/48)}=π/√6

左辺の{ }から"-"をくくりだすと、次のようになります。

  -(π/48){-tan(23π/48) -tan(19π/48) -tan(17π/48) -tan(13π/48) +tan(11π/48) +tan(7π/48) +tan(5π/48) +tan(π/48)}=π/√6

 tanの()内の分子とtan()の符号(+,-)に着目すると、-23, -19, -17, -13, +11, +7, +5, +1ですが、これは冒頭に示した虚2次体Q(√-6)のディリクレ指標χ(n)に従ったものになっています。

 単発的に見えるLE(1)=π/√6 の裏側はこのような構造になっています。ゼータ関数は深いですね。

 これまでの結果を更新しておきます。

===================================

 ζ(s) リーマンゼータ、導手N=1       ⇒ n分割可能である。

  L(s) 虚2次体Q(√-1)ゼータ、導手N=4    ⇒ n分割可能である。

  LA(s) 虚2次体Q(√-3)ゼータ、導手N=3   ⇒ 1〜10分割可能である。n分割可能と考えられる(予想)。

  LN(s) 実2次体Q(√5)ゼータ、 導手N=5   ⇒ 2/4/6/8/10/12分割が可能である。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か(問題)。

  LP(s) 虚2次体Q(√-7)ゼータ、導手N=7   ⇒ 3/6/9/12分割可能である。3n分割可能と考えられる(予想)。3n分割が最良か(問題)。

  L2(s) 虚2次体Q(√-2)ゼータ、導手N=8   ⇒ 2/4/6/8/10/12分割可能である。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か(問題)。

  L1(s) 実2次体Q(√2)ゼータ、 導手N=8   ⇒ 2/4/6/8/10/12分割可能である。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か(問題)。

  LE(s) 虚2次体Q(√-6)ゼータ、導手N=24   ⇒ 4/8分割可能である。

注記:nは1以上の整数  以上。(杉岡幹生)

===================================