■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その51,杉岡幹生)

 < L(1)n分割の分身たちを生み出す方程式 >

 (その50)でL(1)ゼータの分身たちを掛け合わせると、次のきれいな結果になることを報告しました。

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 L(1)のn分割の分身たちA1,A2,・・Anにおいて

  A1×A2×・・・×An=(L(1)/n)^n

 が成り立つ。(nは、1以上の整数)

 ここで、L(1)=1 -1/3 +1/5 -1/7 +1/9 -1/11 +1/13 -1/15 + ・・ =π/4 である。

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 これは、例えば nが8の場合、

 L(1)8分割⇒ A1×A2×A3×A4×A5×A6×A7×A8=(L(1)/8)^8 -----B

となることを示します。

 L(s)ゼータは、既に報告した通り、任意のnで分割可能(n分割可能)ですから上記も任意のn(1以上の整数)で成り立ちます。なぜこれが成り立つかは(その50)を見てください。

 この結果を何人かに報告したところ、佐藤郁郎氏がいくつか式を示され固有方程式が出るはずと示唆された。最初意味がわかりませんでしたが、それは「L(1)の分身たちを解にもつ代数方程式(固有方程式)を求めよ」という問題とわかりました。

 その問題に触発されて、L(1)の分身の値を解にもつ方程式を求めることができたので報告します。

 現時点では2分割、3分割、4分割の場合を求めています。結果は次のようになりました。自明ですが1分割も含めます。

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<1分割の分身?の値を解にもつ方程式>

 x -1(L(1)/1)=0

<2分割の分身たち(A1,-A2)の値を解にもつ方程式>

 x^2 -2(L(1)/2)x -(L(1)/2)^2=0

<3分割の分身たち(A1,-A2,A3)の値を解に持つ方程式>

 x^3 -3(L(1)/3)x^2 -3(L(1)/3)^2・x +(L(1)/3)^3=0

<4分割の分身たち(A1,-A2, A3,-A4)の値を解に持つ方程式>

 x^4 -4(L(1)/4)x^3 -6(L(1)/4)^2・x^2 +4(L(1)/4)^3・x +(L(1)/4)^4=0

以上。

 分身の姿は下記<付録>を参照してください。なお上記の結果は、念のためExcelでの数値的な検算も行なっています。

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[導出方法]

 3分割の場合を例に方程式の導出方法を説明します。<付録>の3分割に着目ください。

A1,-A2,A3を解にもつ方程式は、次のようになります。

(x -A1)(x +A2)(x -A3)=0

 展開して次を得る。

 x^3 -(A1-A2+A3)x^2 +(-A1A2-A2A3+A1A3)x +A1A2A3=0 ------@

 ここで、A1-A2+A3は<付録>より次となる。

 A1-A2+A3=L(1)-----A

また分身たちを掛け算した結果は冒頭の公式より次となる。

 A1A2A3=(L(1)/3)^3 -----B

 そして、-A1A2-A2A3+A1A3を<付録>の右辺値を用いて計算して次を得る。

 -A1A2-A2A3+A1A3=-3(L(1)/3)^2 ------C

 A、B、Cを@に代入して次の「3分割の分身たち(A1,-A2,A3)の値を解に持つ方程式」が得られた。

 x^3 -3(L(1)/3)x^2 -3(L(1)/3)^2・x +(L(1)/3)^3=0

 2分割、4分割の場合も同様にして得られる。

以上。

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 求まった方程式は、対称性の高い形をしています。

 ちなみに、例えば3分割の場合、L(1)はあえて3(L(1)/3)などと表現しています。”L(1)/n”を単位に記すことで対称的できれいになります。

 3次方程式 x^3 -3(L(1)/3)x^2 -3(L(1)/3)^2・x +(L(1)/3)^3=0 

の三つの解A1,-A2,A3は、L(1)のパーツ(部品)の値であり、<付録>のようにそれらを足し合わせることでL(1)特殊値を構成します(A1 -A2 +A3=L(1)特殊値)。

 対称的なn次方程式を解く⇒n個の解が出る⇒その解を足し合わせるとゼータ特殊値になる

 このような構造になっているわけで、この構造はすごいです。ゼータの値が方程式から得られる!

 L(1)のパーツ(の値)は、美しい代数方程式から生み出されるとわかりました。ゼータは対称性の高い世界から舞い降りてきているようです。

 L(s)分割では、主にL(1)を代表選手として調べていますが、L(3)、L(5)・・も類似的なことになっているに違いない。そしてこれはリーマンゼータζ(s)でも同様でしょうし、さらにはL(χ,s)の2次体ゼータでも成り立っているに違いありません。

 ここにきて、ゼータの分割は代数方程式という別水脈と結びついたといえそうです。重要な視点を与えてくださった佐藤郁郎氏に感謝します。

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<付録>

 L(1)=1 -1/3 +1/5 -1/7 +1/9 -1/11 +1/13 -1/15 + 1/17 -1/19 +・・ =π/4

■2分割

 A1= 1 -1/7 +1/9 -1/15 +1/17 -1/23 +1/25 -1/31 +・・ =(π/8)tan(3π/8)=(√2 +1)π/8

 A2=1/3 -1/5 +1/11 -1/13 +1/19 -1/21 +1/27 -1/29 +・・=(π/8)tan(π/8)=(√2 -1)π/8

  A1 -A2=L(1)=π/4です。これは”真の分割”となっています。

■3分割

 A1= 1 -1/11 +1/13 -1/23 +1/25 -1/35 +・・=(π/12)tan(5π/12)

 A2=1/3 -1/9 +1/15 -1/21 +1/27 -1/33 +・・=(π/12)tan(3π/12)

 A3=1/5 -1/7 +1/17 -1/19 +1/29 -1/31 +・・=(π/12)tan(π/12)

  A1 -A2 +A3=L(1) であることを確認ください。

■4分割

 A1=1 -1/15 +1/17 -1/31 +1/33 -1/47 +1/49 -1/63 +・・ =(π/16)tan(7π/16)

 A2=1/3 -1/13 +1/19 -1/29 +1/35 -1/45 +1/51 -1/61 +・・=(π/16)tan(5π/16)

 A3=1/5 -1/11 +1/21 -1/27 +1/37 -1/43 +1/53 -1/59 +・・=(π/16)tan(3π/16)

 A4=1/7 -1/9 +1/23 -1/25 +1/39 -1/41 +1/55 -1/57 +・・ =(π/16)tan(π/16)

  A1 -A2 +A3 -A4 =L(1)=π/4 であることがわかります。

  tan()は以下の通り。

 tan(7π/16)=(1 +√2 +√(4+2√2))

 tan(5π/16)=(-1 +√2+√(4-2√2))

 tan(3π/16)=(1 -√2 +√(4-2√2))

 tan(π/16)=(-1 -√2 +√(4+2√2))

以上。(杉岡幹生)

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