■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その45,杉岡幹生)

 これまでのゼータの分割の結果は次の通りです。

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 ζ(s) 仮想?実2次体Q(√1)ゼータ、導手N=1  ⇒ n分割可能。

  L(s) 虚2次体Q(√-1)ゼータ、導手N=4    ⇒ n分割可能。

  LA(s) 虚2次体Q(√-3)ゼータ、導手N=3    ⇒ 1〜10分割可能。n分割可能と考えられる(予想)。

  LN(s) 実2次体Q(√5)ゼータ、 導手N=5    ⇒ 2/4/6/8/10/12分割が可能。2n分割可能と考えられる(予想)。2n分割が最良か?(問題)

 注記:nは1以上の整数

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 導手の小さい2次体ゼータから順番に見ていっているわけですが、導手N=5の次に大きな導手をもつのは虚2次体Q(√-7)ゼータです(導手N=7)。

 次にそれを調べたいわけですが、それをする前に、これまでの結果を眺めていて気づいた”面白い事実”を先に述べることにします。

 それは分割級数(分割ゼータ)の右辺における特殊値に関することですが、一言で述べると、次のようになります。

「分割級数を足したり引いたりしてゼータを構成したとき、右辺値の和における”+、−”の並びは、そのゼータのディリクレ指標と一致する。」-----@

 

 これを知ったとき、ゼータの美しさに感嘆しました。何がそんなに美しいのか? 二つの例で説明します。

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<例1>

 (その29)のLA(1)5分割を取りあげます。

■LA(1)5分割

A1= 1 -1/14 +1/16 -1/29 +1/31 -1/44 +・・ =(π/15)tan(13π/30)

A2=1/2 -1/13 +1/17 -1/28 +1/32 -1/43 +・・=(π/15)tan(11π/30)

A3=1/4 -1/11 +1/19 -1/26 +1/34 -1/41 +・・=(π/15)tan(7π/30)

A4=1/5 -1/10 +1/20 -1/25 +1/35 -1/40 +・・=(π/15)tan(5π/30)

A5=1/7 -1/8 +1/22 -1/23 +1/37 -1/38 +・・ =(π/15)tan(π/30)

ここでLA(s)は、ディリクレのL関数L(χ,s)

 L(χ,s)=χ(1)/1^s +χ(2)/2^s +χ(3)/3^s +χ(4)/4^s +χ(5)/5^s +χ(6)/6^s +χ(7)/7^s +・・

の一種であり、次のものです。

 LA(s)=1 -1/2^s +1/4^s -1/5^s +1/7^s -1/8^s +1/10^s -1/11^s +1/13^s -1/14^s +1/16^s -1/17^s +1/19^s -1/20^s +1/22^s -・・

(LA(s) 虚2次体Q(√-3)ゼータ、導手N=3を持つ。ディリクレ指標χ(n)は次の通り。n≡0 mod 3のときχ(n)=0, n≡1 mod 3のときχ(n)=1, n≡2 mod 3のときχ(n)=-1)----A

 よってs=1のLA(1)は、次となる。

  LA(1)=1 -1/2 +1/4 -1/5 +1/7 -1/8 +1/10 -1/11 +1/13 -1/14 +1/16 -1/17 +1/19 -1/20 +1/22 - ・・・ -----B

 ここで上記5分割A1〜A5 の”左辺の級数”に着目すると、次のようになっていることが容易にわかる。

 A1 -A2 +A3 -A4 +A5=LA(1) ------C

 次に上記5分割A1〜A5の右辺値に着目すると、その和は次となる。

  A1 -A2 +A3 -A4 +A5=(π/15){tan(13π/30) - tan(11π/30) + tan(7π/30) - tan(5π/30) + tan(π/30)} ------D

 ここでtan(kπ/30)の符号(+、−)とkの関係に着目ください。なんとAのディリクレ指標がこちらのD右辺でも成り立っているのです!!

 3で割ったとき1余るkをもつtan()は”+ tan()”に、3で割ったとき2余るkをもつtan()は”- tan()”になっているではありませんか。

 右辺値和においてもディリクレ指標が保存されるのは驚きべきことです。

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<例2>

 (その38)のLN(2)6分割を取りあげます。

■LN(2)6分割

 A1=1/1^2 +1/14^2 +1/16^2 +1/29^2 +1/31^2 +1/44^2 +・・=(π/15)^2 /{cos(13π/30)}^2

 A2=1/2^2 +1/13^2 +1/17^2 +1/28^2 +1/32^2 +1/43^2 +・・=(π/15)^2 /{cos(11π/30)}^2

 A3=1/3^2 +1/12^2 +1/18^2 +1/27^2 +1/33^2 +1/42^2 +・・=(π/15)^2 /{cos(9π/30)}^2

 A4=1/4^2 +1/11^2 +1/19^2 +1/26^2 +1/34^2 +1/41^2 +・・=(π/15)^2 /{cos(7π/30)}^2

 A5=1/5^2 +1/10^2 +1/20^2 +1/25^2 +1/35^2 +1/40^2 +・・=(π/15)^2 /{cos(5π/30)}^2 ⇒無視

 A6=1/6^2 +1/9^2 +1/21^2 +1/24^2 +1/36^2 +1/39^2 +・・ =(π/15)^2 /{cos(3π/30)}^2

 A7=1/7^2 +1/8^2 +1/22^2 +1/23^2 +1/37^2 +1/38^2 +・・ =(π/15)^2 /{cos(π/30)}^2

 LN(2)は次のものです。

 LN(2)=1 -1/2^2 -1/3^2 +1/4^2 +1/6^2 -1/7^2 -1/8^2 +1/9^2 +1/11^2 -1/12^2 -1/13^2 +1/14^2 ・・ -------E

(LN(s) 実2次体Q(√5)ゼータ、 導手N=5で, n≡1 or 4 mod 5のときχ(n)=1, n≡2 or 3 mod 5のときχ(n)=-1, その他のnではχ(n)=0) -----F

 上記6分割の左辺の分割級数A1〜A7(A5は無視)に着目すると、次のようになっている。

  A1 -A2 -A3 +A4 +A6 -A7=LN(2) ------G

次に右辺値に着目すると、次のようになる。

 A1 -A2 -A3 +A4 +A6 -A7

  =(π/15)^2{1/{cos(13π/30)}^2 - 1/{cos(11π/30)}^2 - 1/{cos(9π/30)}^2 + 1/{cos(7π/30)}^2 + 1/{cos(3π/30)}^2 - 1/{cos(π/30)}^2 }

  =(-1)×(π/15)^2{-1/{cos(13π/30)}^2 + 1/{cos(11π/30)}^2 + 1/{cos(9π/30)}^2 - 1/{cos(7π/30)}^2 - 1/{cos(3π/30)}^2 + 1/{cos(π/30)}^2 }----H

 Hでは右辺全体に(-1)を掛け、そして且つ{ }内の全ての符号±を逆転させました。

 Hの1/{cos(kπ/30)}^2の符号(+、−)とkの関係に着目ください。Fのディリクレ指標がこちらのH右辺でも成り立っています!

 5で割ったとき1または4余るkをもつ場合は”+ 1/{cos(kπ/30)}^2”に、5で割ったとき2または3余るkをもつ場合は”- 1/{cos(kπ/30)}^2”になっています。

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 以上2例を見ましたが、これまで見たゼータの分割では、すべて右辺値和においてもディリクレ指標が保存されています(右辺値全体に-1を掛けて成立してもOK)。

 ゼータは究極の調和で構成されているかのように見えます。今後見ていく2次体ゼータでも成り立っているに違いありません。以上。   (杉岡幹生)

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