■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その36,杉岡幹生)

≪ゼータ分割への雑感、スケッチ.

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 2次体ゼータに関して思うところをスケッチし、今後の方針を述べたいと思います。私自身の整理整頓の意味もあります。

 ディリクレのL関数L(χ,s)には、無数の2次体ゼータが含まれています。ζ(s)とL(s)はその中でも最も有名なゼータであり、このシリーズでも先にそれをやりました。

 その結果「ζ(2),ζ(4)・・やL(1)、L(3),・・はn分割可能である(nは1以上の整数)」という驚くべき結果が得られました。

 これは予想だにしなかった結果であり、また導出方法もそれは簡潔で美しいものでした。

 ζ(s)やL(s)は小さい導手をもつゼータであり、導手NはそれぞれN=1、N=4です。導手については(その34)参照。

 他の2次体ゼータも簡単にいくはずとタカをくくっていたのですが、ここ数週間で何種類かのゼータを計算してみて、そんなに単純ではないとわかってきました。

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 じつは13〜14年前に、ζ(s)を含む2次体ゼータが分裂する現象を発見していました。”分割ゼータ”などと名付けて喜んでいました。佐藤郁郎氏にも報告し、自分のサイトにも多く書きました。この「冥王星 その6」あたりで、ゼータが分裂する様子をまとめています。

http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page099.htm

 この記事を書いたのが2005年ですから、もう13年も前です。かなり記憶もうすれていまして、とにかく面白い分裂現象を発見したことは覚えていました。

 当時の感想は「導手の大きいゼータは数個に分裂する、面白い!」というものであり、それ以上突っ込んでやりませんでした。「無限に分割可能か?」などという発想は浮かびませんでした。

 その頃は他に多くのテーマがあったので、いつしかこれは忘れていきました。しかし本質的な現象とはわかったので、「予想L-4」とともに表にまとめたものが上記サイトの表A,表B,表A-2,表B-2です。

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 予想L-4を再掲します。これは非常に大事なものですが、上記サイト中の式が間違っており、未整理の感もあるので、次のように書き直しました。

<予想L-4>

   -log(2sin(x/2))=cosx + (cos2x)/2 + (cos3x)/3 + (cos4x)/4 + ・・・  ----- A   (0 < x < 2π)

   (π- x)/2=sinx + (sin2x)/2 + (sin3x)/3 + (sin4x)/4 + ・・・  --------B   (0 < x < 2π)

 A、Bと2次体Q(√m)の間には、ディリクレのL関数L(χ,s)を介して次のような関係が存在している。(ただしmは整数で、1以外の平方数で割り切れないもの)

[T]mが4n+2 または 4n+3の整数のとき

 k=2|m|とおく。AとBの重回積分-重回微分の結果に qπ/k を代入すると、導手NがN=2k(つまりN=4|m|)である2次体Q(√m)に対応するL(χ,s)かあるいはその分割ゼータ(複数)が出現する。

[U]mが4n+1の整数のとき

 k=|m|とおく。AとBの重回積分-重回微分の結果に qπ/k を代入すると、導手NがN=k(つまりN=|m|)である2次体Q(√m)に対応するL(χ,s)かあるいはその分割ゼータ(複数)が出現する。

 ここで分割ゼータ(複数)とは、それらを適当に足したり引いたりするだけで上の条件を満たすL(χ,s)を出現させられる級数を指す。

k, q は互いに素な整数で、0 < qπ/k < 2πを満たす。

 さらに、上記のQ(√m)が実2次体ならば、対応するL(χ,s)の特殊値がAの偶数回の積分・微分の所と、Bの奇数回の積分・微分の所に現れる。

     上記のQ(√m)が虚2次体ならば、対応するL(χ,s)の特殊値がAの奇数回の積分・微分の所と、Bの偶数回の積分・微分の所に現れる。

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 式A、Bのフーリエ級数は「数学公式U」(一松信ほか著、岩波書店)p.71に載っています。

 この予想では例えば式Bは、”-1/2=cosx + cos2x + cos3x + cos4x + ・・・・”とサイトには書いていますが、これは間違いです。これはAを微分したものですが、これは数式的にはまちがっている。(解析接続的に解釈できるという程度の正しさしかない)。

 その間違った式で書いていたのですが、多く書きすぎたため訂正もままなりませんから、サイトに「じつはA,Bが正しい。サイトに書いた内容はn回微分、n回積分のnを1つずらすだけで、全て論理は正しく成立する」と断りを入れ、それで済ませました。(⇒http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page046.htm この「付記」あたり)

  予想L-4は当時多くの検証を行なったので「ぜったいに正しい」といえるものです。

 さて、今回発見した分割現象は13年前のものとすこし違っている感じがして、当時の発見は今回のにあまり関係してこないのでは?と思っていました。

 しかし、よく見直してみるとどうも関係があります。導手Nが大きくなってきた場合に、どんな2次体ゼータが出てくるかを予想L-4は示してくれていて、非常に便利とわかってきました。とくに「qπ/k を代入すると」が「部分分数展開式にどんなxを代入するか?」に大きく関係するとわかった。

 例えば、LA(s)ゼータはQ(√-3)ゼータですからm=-3であり、mが4n+1の整数のときの[U]のタイプです。k=|m|=|-3|=3です。よって、qπ/3 を代入するとLA(s)が出現するはずですが、サイト中の表に記したように、実際に出現しています。また、今回の分割では(その33)で見たとおり、部分分数展開式にx=1/3を代入してLA(1)1分割が出現しました。すなわち、qπ/3代入 と1/3代入は本質的に同じなのです。

 このように、予想L-4と今回の研究は関係している。この変のカラクリをもう少し述べます。

 フーリエ級数

 (π-x)/2 =sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 + sin4x/4 + ・・    (0 < x < 2π)

に∫(0〜x) e^(ax)を作用させ積分を行った結果式のxにπを代入すると、次の2式が得られます。(aは任意の実数)

http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page210.htm 高見沢彗星 (その4)

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[π代入]

 1/(1^2+a^2) + 1/(3^2+ a^2) + 1/(5^2+ a^2) + 1/(7^2+ a^2) + ・・ =(π/(4a))・(e^(aπ)-1)/( e^(aπ)+1) -----C

 1/(2^2+a^2) + 1/(4^2+ a^2) + 1/(6^2+ a^2) + 1/(8^2+ a^2) + ・・ =- 1/(2a^2) + (π/(4a))・(e^(aπ)+1)/( e^(aπ)-1) ----D

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 これが2010年に得た「ゼータの香りの漂う公式」です。(代入する値を変えることでいろいろなバリエーションの式がある)

 Cのaをxi(iは虚数単位)で置き換えると、次の部分分数展開式G[1](x)が出る。

 G[1](x)=1/(1^2-x^2) +1/(3^2-x^2) +1/(5^2-x^2) +・・ =(π/(4x))tan(πx/2) --------E

 CやEを使って、ζ(s)やL(s)やLA(1)の分割を求めてきましたが、CやEの大元はBだったとわかります。

   (π- x)/2=sinx + (sin2x)/2 + (sin3x)/3 + (sin4x)/4 + ・・・  --------B   (0 < x < 2π)

 したがって「Bを含む予想L-4」と「CやEを使った分割の理論」が関係するのは、じつは当たり前なのです。

 CやEの母親はBであり、子供のCやEは当然母親の遺伝的性質を引き継いでいます。チャチな感じの式Bから全てのL(χ,s)の値が出るだけでなく、分割した値が出るというのですから、驚愕としかいいようがありません。

 ちなみに、奇数ゼータζ(3),ζ(5)・・などの非明示の値の場合はAがその母親となります。

   -log(2sin(x/2))=cosx + (cos2x)/2 + (cos3x)/3 + (cos4x)/4 + ・・・  ----- A   (0 < x < 2π)

 今後の研究に大きなヒントを与えてくれるのが、予想L-4なのです。

 現時点の計算の感触では、導手Nが4以下とか小さい場合はn分割可能のようです。しかし、導手Nが大きくなってくるとn分割は無理かもしれない・・。あるゼータは2n分割可能、あるゼータは3n分割可能などとなるのだろうか?はたまた、全ての2次体ゼータはn分割可能なのか?

 とにもかくにも、AとBはゼータの中心に位置する式です。

 あと、一つの大事な原理を述べて、この雑感を終えます。次のものです。

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<2次体ゼータの原理(予想)>

 cos級数から実2次体ゼータが生まれてくる。sin級数から虚2次体ゼータが生まれてくる。

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 これは2004年に発見したものですが、次の「土星 その2」で記しています。

 http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page074.htm

 

 そこでは、

   実2次体に関するL(χ,s)の特殊値は、cos級数から生み出される。

   虚2次体に関するL(χ,s)の特殊値は、sin級数から生み出される。

と表現している。

 これは非常に重要な原理です。この発見だけは忘れることができず、指導原理としてゼータ研究に役立ってきましたし、いまも役立っています。じつは予想L-4もこの原理の上に成り立っています。

 具体的に述べると、cos級数とsin級数は次のものです。

 C(x,s)=(cosx)/1^s + (cos2x)/2^s + (cos3x)/3^s +(cos4x)/4^s +・・・

 S(x,s)=(sinx)/1^s + (sin2x)/2^s + (sin3x)/3^s +(sin4x)/4^s +・・・

 このxに様々なqπ/pを代入することで様々な種類のゼータが出てくるのですが、どんな値を代入しても「C(x,s)からは実2次体ゼータしか出てこない。S(x,s)からは虚2次体ゼータしか出てこない。」となっている。

例えば、3π/4を代入すると、C(x,s)からは実2次体Q(√2)ゼータL1(s)が出てきて、S(x,s)からは虚2次体Q(√-2)ゼータL2(s)が出てきます。

  L1(s)=1/1^s - 1/3^s - 1/5^s + 1/7^s +・・・

  L2(s)=1/1^s + 1/3^s - 1/5^s - 1/7^s +・・・

 じつは、式Eの部分分数展開式はsin級数の心を宿しています。ですから、それから虚2次体Q(√-1)ゼータL(s)他が出たのです。式Eの部分分数展開式を1回微分すると、cos級数の心を宿します(⇒G[2](x)となった)。ですから、G[2](x)から実2次体ゼータに属するζ(s)が出たのです(ζ(s)は仮想的実2次体Q(√1)に対応)。

 この原理も証明はしていませんが、膨大な計算から「ぜったいに正しい」といえるものです。これがないと方角がわかりません。<2次体ゼータの原理>は、真っ暗闇の2次体の海を進む際の灯台の明かりとなってくれています。

これらの道具を用いてゼータの森へと分け入っていきます。以上(杉岡幹生)

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