■ゼータの香りの漂う公式の背後にある構造(その15,杉岡幹生)

 今回はリーマンゼータζ(s)の特殊値ζ(2)の分割級数を求めましたので報告します。

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 (その13)では、ゼータの香りの漂う公式を使いましたが、前回のL(1)の継続としてそれを部分分数展開式を使って導出し直していきます。(その13)と同様に、今回もζ(2)を変形した次のZ(2)を考察します。

 Z(2)=1 +1/3^2 +1/5^2 +1/7^2 +1/9^2 +1/11^2 +・・=π^2/8

 ほとんど自明と思いますが、Z(2)は本質的にζ(2)に等しいものです。なぜなら次のように変形でき、Z(2)はζ(2)=π^2/6そのものだからです。

 Z(2)=1 +1/3^2 +1/5^2 +1/7^2 +1/9^2 +1/11^2 +・・

   =1 +1/2^2 +1/3^2 +1/4^2 + 1/5^2 +1/6^2 +1/7^2・・ - (1/2^2 +1/4^2 +1/6^2 + ・・)

   =ζ(2) - 1/2^2ζ(2)

   =(3/4)ζ(2)

   =π^2/8 ------@

 さて、Z(2)の2分割、4分割、8分割を以下に示しますが、当然これらは本質的な分割(真の分割)となっています。統一的に見たいので”1分割”も加えます。

■Z(2)1分割

 Z(2)=1 +1/3^2 +1/5^2 +1/7^2 +1/9^2 +1/11^2 +・・=(π/4)^2 /{cos(π/4)}^2

右辺はπ^2/8になり上記@に一致します。以下の結果も一緒に眺めると、右辺はきれいです。

■Z(2)2分割

A1= 1 + 1/7^2 +1/9^2 +1/15^2 + 1/17^2 +1/23^2 +・・=(π/8)^2 /{cos(3π/8)}^2

A2=1/3^2 +1/5^2 +1/11^2 +1/13^2 + 1/19^2 +1/21^2 +・・=(π/8)^2 /{cos(π/8)}^2

 1/{cos()}^2の部分を計算した結果は、以下の通り。

1/{cos(3π/8)}^2= 4 +2√2 、1/{cos(π/8)}^2 = 4 -2√2

 A1 +A2=Z(2)=π^2/8 であることが容易にわかります。念のため、A1,A2式に対しExcelマクロで数値検証を実行しましたが、全て左辺の級数は右辺値に収束しました。

■Z(2)4分割

B1= 1 +1/15^2 +1/17^2 +1/31^2 +1/33^2 +1/47^2 +・・=(π/16)^2 /{cos(7π/16)}^2

B2=1/3^2 +1/13^2 +1/19^2 +1/29^2 +1/35^2 +1/45^2 +・・=(π/16)^2 /{cos(5π/16)}^2

B3=1/5^2 +1/11^2 +1/21^2 +1/27^2 +1/37^2 +1/43^2 +・・=(π/16)^2 /{cos(3π/16)}^2

B4=1/7^2 +1/9^2 +1/23^2 +1/25^2 +1/39^2 +1/41^2 +・・=(π/16)^2 /{cos(π/16)}^2

 1/{cos()}^2の部分を計算した結果は、以下の通り。

1/{cos(7π/16)}^2= 8 +4√2 + 4√(2+√2) +2√(4+2√2)

1/{cos(5π/16)}^2= 8 -4√2 + 4√(2-√2) -2√(4-2√2)

1/{cos(3π/16)}^2= 8 -4√2 - 4√(2-√2) +2√(4-2√2)

1/{cos(π/16)}^2 = 8 +4√2 - 4√(2+√2) -2√(4+2√2)

 B1 +B2 +B3 +B4 =Z(2)=π^2/8 であることがわかります。B1〜B4式に対しExcelマクロで数値検証を実行しましたが、全て左辺の級数は右辺値に収束しました。

■Z(2)8分割

C1 = 1 +1/31^2 +1/33^2 +1/63^2 +1/65^2 +1/95^2 +・・=(π/32)^2 /{cos(15π/32)}^2

C2=1/3^2 +1/29^2 +1/35^2 +1/61^2 +1/67^2 +1/93^2 +・・=(π/32)^2 /{cos(13π/32)}^2

C3=1/5^2 +1/27^2 +1/37^2 +1/59^2 +1/69^2 +1/91^2 +・・=(π/32)^2 /{cos(11π/32)}^2

C4=1/7^2 +1/25^2 +1/39^2 +1/57^2 +1/71^2 +1/89^2 +・・=(π/32)^2 /{cos(9π/32)}^2

C5=1/9^2 + 1/23^2 +1/41^2 +1/55^2 +1/73^2 +1/87^2 +・・=(π/32)^2 /{cos(7π/32)}^2

C6=1/11^2 +1/21^2 +1/43^2 +1/53^2 +1/75^2 +1/85^2 +・・=(π/32)^2 /{cos(5π/32)}^2

C7=1/13^2 +1/19^2 +1/45^2 +1/51^2 +1/77^2 +1/83^2 +・・=(π/32)^2 /{cos(3π/32)}^2

C8=1/15^2 +1/17^2 +1/47^2 +1/49^2 +1/79^2 +1/81^2 +・・=(π/32)^2 /{cos(π/32)}^2

 C1〜C8式に対しExcelマクロで数値検証を実行しましたが、全て左辺の級数は右辺値に収束しました。また右辺値の和がπ^2/8となることも確かめました。

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 上の分割級数の導出過程を簡単に述べます。三角関数タンジェントの部分分数展開式をG[1](x)と表現すると、次のようになります。この式自体は前回のL(1)分割で使ったものですが、ゼータを生み出す関数」を意味するものとして生成核関数G[1](x)としました。GはGnerationのGととらえてください。

 G[1](x)=1/(1^2-x^2) +1/(3^2-x^2) +1/(5^2-x^2) +・・=(π/(4x))tan(πx/2)

 今回はこれを1回微分して得られる次のAの生成核G[2](x)を使います。

 G[2](x)=1/(1^2-x^2)^2 +1/(3^2-x^2)^2 +1/(5^2-x^2)^2 +・・=(π/(4x))^2/{cos(πx/2)}^2 + Others(x) ---A

 ここで右辺のOthers(x)は、Others(x)=-{π/(8x^3)}tan(πx/2)ですが、今回は無視してよい個所なので、Others(x)としました。

 Aのxに特定の値を代入することで、Z(2)の分割級数が次々に求まっていきます。以下の通りです。

 Aのxに値1/2を代入すると、Z(2)=π^2/8が得られる。

 Aのxに値3/4を代入すると、A1が得られる。

 Aのxに値1/4を代入すると、A2が得られる。

 Aのxに値7/8を代入すると、B1が得られる。

 Aのxに値5/8を代入すると、B2が得られる。

 Aのxに値3/8を代入すると、B3が得られる。

 Aのxに値 1/8を代入すると、B4が得られる。

 Aのxに値15/16を代入すると、C1が得られる。

 Aのxに値13/16を代入すると、C2が得られる。

 Aのxに値11/16を代入すると、C3が得られる。

 Aのxに値 9/16を代入すると、C4が得られる。

 Aのxに値 7/16を代入すると、C5が得られる。

 Aのxに値 5/16を代入すると、C6が得られる。

 Aのxに値 3/16を代入すると、C7が得られる。

 Aのxに値 1/16を代入すると、C8が得られる。

注記:左辺からL(1)分割級数が出ますが、それは今回は興味がないので無視します。右辺からも左辺のL(1)分割級数に対応した値がOthers(x)から出ますがそれも無視します。興味がないものは、Others(x)に押し込んで無視するのです。なぜこんなことをするかと言いますと、高次のζ(4)やL(5)やζ(6)・・などを求める際にこの方法を使うと、計算量を劇的に減らせるからです。ζ(2)分割ではまだその有難味はわかりませんが、高次の計算ではこのアイディア(興味のないゼータはすべてOthers(x)に押し込んで無視する!)が絶大な威力を発揮します。それに気づかなかったすこし前までは膨大な計算に苦しみました。

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 1分割も含めて眺めると、きれいな秩序でZ(2)すなわちζ(2)の分割がなされていくことがわかります。それはまるで美しい織物を織り上げているかのようです。8分割までしか求めていませんが、16分割、32分割、64分割・・がどうなるも簡単にわかります。計算自体は簡単なのでこの素晴らしい秩序を読者もぜひ体感してください。まだ精密な分割の規則まで調べつくせていませんが、L(s)と同様ζ(s)は少なくとも2^n分割可能です。

 さて、Aの生成核G[2](x)を再び眺めましょう。

 1/(1^2-x^2)^2 +1/(3^2-x^2)^2 +1/(5^2-x^2)^2 +・・=(π/(4x))^2/{cos(πx/2)}^2 + Others(x) ---A

 左辺からゼータの分割級数が現われてきます。右辺からその分割級数の値が求まります。xに様々な値を代入することでディリクレのL関数L(χ,s)の分身たちが姿を見せることになります。今回はL(χ,s)の一種のゼータであるリーマンゼータζ(s)に着目してその様子を探りました。

 注記でも述べたとおり、じつはAからζ(2)だけでなくL(s)ゼータのL(1)も姿を見せます。上記導出方法の値をAにxに代入した場合、模式的に書くと左辺は次のようになります。

 [ζ(2)分割級数] + [L(1)分割級数]

また、右辺は

 [ζ(2)分割級数の値(π^2の項)] + [L(1)分割級数の値(πの項)]

となります。

 すなわち、次のようになっています。

[ζ(2)分割級数] + [L(1)分割級数]=[ζ(2)分割級数の値(π^2の項)] + [L(1)分割級数の値(πの項)]

 ζ(2)の分割級数はπ^2のある項に対応するので、それを”灯台の明かり”の目印にして拾い上げると目的のζ(2)分割級数に対応する値となります。π^2が掛かっていない項は他の興味のないゼータ値(今の場合L(1))なので無視しました。

 このように、部分分数展開式(or香り公式でも同様)の計算は各ゼータでそれぞれ独立に足し算されているので、目的のものだけを(左右眺めて)拾い上げればOKとなります。これが前回述べた押し込み法(核関数法)であり、ζ(2)のような低次では有難味を感じないが、高次でその威力がわかります。ゼータの秩序は素晴らしく、計算にも便利なようになっているのです。以上。   (杉岡幹生)

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