■version e

 TeXは数学者・計算機科学者であるドナルド・クヌース (Donald E. Knuth) により1978年にリリースされた組版処理ソフトウェアである.

 TeX はクヌースが自身の著書 The Art of Computer Programming を書いたときに組版の汚さに憤慨し,自分自身で心行くまで組版を制御するために作成したとされている.開発にあたって,伝統的な組版およびその関連技術に対する広範囲にわたる調査を行った.その調査結果を取り入れることで,TeX は商業品質の組版ができる柔軟で強力な組版システムになった.

 TeX はフリーソフトウェアであり、ソースコードも公開されていて,誰でも改良を加えることができる.その改良版の配布もTeX と区別できるような別名を付けさえすれば許される.また,TeX は非常にバグが少ないソフトウェアとしても有名で,ジョーク好きのクヌースがバグ発見者に対しては前回のバグ発見者の2倍の懸賞金をかけるほどである.この賞金は小切手で払われるのだが,貰った人は記念に取っておく人ばかりなので,結局クヌースの出費はほとんど無いという.

 クヌースはTeX のバージョン 3 を開発した際に,これ以上の機能拡張はしないことを宣言した.その後は不具合の修正のみがなされ,バージョン番号は

  3.14,3.141,3.1415、...

というように付けられている.これは更新のたびに数字が円周率に近づいていくようになっていて,クヌースの死の時点をもってバージョンπとして,バージョンアップを打ち切られる.

===================================

 記憶があいまいで申し訳ないが,クヌースは,バージョン

  2.71,2.718,2.7181、...

というように付けられているもうひとつ別のソフトウェアを開発している.

 私はこのことを The Art of Computer Programming を読んだとき知った.久しぶりに読み直してみたが,残念ながらその記述が見つけられない.そのソフトもバージョンeとして,バージョンアップが打ち切られるはずである.

===================================