■ケーリーの公式(その3)

【2】木グラフ

 グラフとは点(頂点v)とそれらを結ぶ線(辺e)とからできている1次元図形のことであるが,そのうち,閉路を含まない連結グラフのことを木(グラフ)と呼ぶ.

 炭素の原子値は4であるが,そのような制限を取り除けば,

    ・

    |

  ・−・−・

   / \

  ・   ・

も可能となる.

 これも木グラフであるから,同型でない木グラフの総数をg(k)とおくと

  位数  :1,2,3,4,5,6, 7, 8, 9, 10, 11,12,   13,・・・,k,・・・

  g(k):1,1,1,2,3,6,11,23,47,106,235,551,1301,・・・,g(k),・・・

となる.ともあれ,制限のついた飽和炭化水素の構造異性体数f(k)よりも木グラフの総数g(k)の数え上げの方がより一般的な問題であると考えられる.そこでf(k)を求める代わりにg(k)を求めてみることにする.

1857年,ケーリーは知り合いの化学者からの依頼でCkH2k+2の構造異性体の数を数えようとしていたときに多くの「木グラフ」の性質を発見した.木の性質のひとつとして,木の頂点数をv,辺数をeとすると

  v=e+1

が成り立つが,これはオイラーの定理:v−e+f=1においてf=0としたものである.すなわち,連結でありかつ閉路を含まないという必要十分条件を満たしていて,飽和炭化水素の場合,v=3k+2であるからe=3k+1で与えられるという意味にほかならない.

 位数kに対して同等でない木はいくつあるのか?・・・これがケーリーの考えた問題であり,同等でない木の総数を与える公式(ケーリーの公式)が知られている.ケーリーの公式とは「位数kの完全グラフのすべての異なる全域木の総数はk^(k-2)で与えられる」というものである.

  位数k      :1,2,3, 4,  5,   6,k

  同等でない木の総数:1,1,3,16,125,1296,k^(k-2)

[補]位数kのグラフでどの2点も隣接しているとき完全グラフという.正k角形+すべての対角線をイメージすればよく,v=k,e=kC2である.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 このように同等でない木の総数はきれいで簡単な式で表現できる.ところが残念なことに位数kの同形でない木の総数g(k)を与える公式は知られていないという.

  位数k      :1,2,3, 4,  5,   6,・・・

  同等でない木の総数:1,1,3,16,125,1296,・・・

  同型でない木の総数:1,1,1, 2,  3,   6,・・・

そこでせめて下界・上界だけでも求めておきたいと思う.

 位数kの同等でない木はk^(k-2)個ある.たとえばk=4では各頂点にA,B,C,Dとラベルを付けた場合,同等でない木は16種類あるというわけである.もし頂点にラベルがなければブタンとイソブタンのように同型の木は2種類あるわけであるから,同型でない木グラフの個数はこれよりもかなり少ない.

 同型になるものは高々k!個である(上の例では4!個の同等でない木が存在するが同型なグラフは2個だけであり,数えすぎであるが・・・).したがって,同値類の総数は

  k^(k-2)/k!

以上になるので,k頂点の木グラフで同型でないものの総数もこの値以上になる.

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