■オイラーの発見・メンデルの発見(その3)

 1953年,ワトソン・クリックの2重らせんモデルによりDNAの構造はわかったが,遺伝子情報の解読はこれからである.

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 DNAはヌクレオチドから作られていて,1個1個のヌクレオチドは糖とリン酸基と塩基からできている.塩基にはA・C・G・Tの4種類あり,たとえば,

  TGTGTGAACCCCTTGCCAAA・・・

のように並んでいる.

 ワトソンとクリックが2重らせん構造を発表してまもなく,物理学者のガモフがDNA配列によってアミノ酸配列を決定する方法として最も可能性が高いのは3文字コードであろうと考えた.2文字コード4×4=16種類では20種類のアミノ酸を特定するには足りず,3文字コード4×4×4=64種類を使えば融通が利くと思考実験したからである.

 やがてガモフの正しさは証明され,遺伝暗号と呼ばれているものが導かれている.アミノ酸は全部で20種類しかないので,アミノ酸の略号でアルファベット1文字ずつを割り当てることができる(6個は永久欠番).

 アミノ酸よりも3文字コードの方が種類が多いので,いくつかのアミノ酸は必然的に何種類かの3文字コードが割り当てられる.たとえば,フェニルアラニン(F)を表す3文字コードは2種類だが,ロイシン(L),セリン(S),アルギニン(R)を表す3文字コードは6種類もあり,冗長である.たとえば,TCT,TCC,TCA,TCGはすべてセリン(S)をコードしているので,3文字目は何も情報を含んでいないことになる(暗号としては余分である).

 ただひとつの3文字コードで指定されるアミノ酸は2つだけである.ひとつはATGで指定されるメチオニン(M)で,もう一つはTGGで指定されるトリプトファン(W)である.

 このように20種類のアミノ酸と3文字コードの対応表は,生物にとっては元素の周期律表以上に重要なものになっているのであるが,例外的な3文字コード,

  ATG,

  TGA,TAA,TAG

はアミノ酸と対応しているのではなく,翻訳の開始と停止をコードする.(ATGは遺伝子の最初にあれば翻訳開始,途中にあればメチオニンをコードする.TGA,TAA,TAGは翻訳停止をコードする.)

 繰り返しになるが,TCT,TCC,TCA,TCGはすべてセリン(S)をコードしているので,3文字目が変化してもアミノ酸はセリンのままである.しかし,このことからかつては2文字コードが存在し,TCがセリンを表していた,そして,その後コード自体が3文字コードに進化したと推測できる.

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[補]私は特別な医学的知識を持っているわけではないが,がんの代表的な発生メカニズムとして遺伝子変異,遺伝子増幅・遺伝子転座があげられる.たとえば,ある種の肺がんでは,L858Rという遺伝子の点突然変異が知られているが,これはEGF受容体(県)のエクソン21(市)のコドン858(番地)の住人がL(ロイシン)からR(アルギニン)に変わったという意味である.

 鎌状赤血球症ではヘモグロビンのグルタミン酸がバリンに点突然変異することによって,マラリア抵抗性を獲得するのであるが,たった1個のアミノ酸の変異で,発生するがんがあるのは小生には驚きであった.

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