■正多面体は総計15種類ある

 p角形面およびq稜頂点をもつ正多面体,すなわち,各頂点に正p角形がq面が会する正多面体を,シュレーフリにしたがって
  (p,q)
で表すことにしましょう.オイラーの多面体定理により,
  1)p,qのいずれかは3に等しくならなければならない
  2)p,qは5を越えることができない
という条件下で,
  3)1/p+1/q<1/2
を満たさなければなりませんから,このような整数の組は(p,q)=(3,3),(3,4),(3,5),(4,3),(5,3)の5通りで,それぞれ,正4面体,正8面体,正20面体,正6面体,正12面体に対応します.
 
 すなわち,正多面体は正4・6・8・12・20面体の5種類あって5種類しかないことは比較的簡単に証明できます.このことはギリシャのプラトンの時代にはすでに見つけられていて,それらがプラトンの自然哲学で重要な役割を演ずるところから,正多面体はプラトンの立体(Platonic solod)とも呼ばれています.
 
 ところで,一松信「正多面体を解く」の改訂版(東海大学出版会)によれば,正多面体の概念を拡張すると,古代に知られていた5種類は,総計15種類にまで増やすことができるとのことです.
 
 プラトン立体5種類に,平面充填形3種類と星型正多面体4種類を含めると,正多面体は全部で12種類になります.しかし,プラトン立体の複合多面体,たとえば,同じ大きさの正4面体2個による相貫体<ケプラーの8角星>はダビデの星の3次元版であり,正8面体を芯として,各面にこれと等しい辺をもつ正4面体をつなぎ合わせてできる立体ですが,24面すべてが正三角形よりなるものの,星形正多面体には通常加えられず,正多面体からも除外されます.→【補】
 
  a)プラトン立体   5種類
  b)平面充填形    3種類
  c)星型正多面体   4種類
  d)?????    3種類
 
 小生には残りの3つがどうしてもわかりませんでしたが,そのカギは正多面体・準正多面体による空間充填形にありました.残りの3つをリストアップするためには,発想の転換が必要になるのです.
 
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【1】プラトン立体
 
 正多面体は,ピタゴラス学派には神秘的完全性の象徴のように見え,ギリシャの自然哲学者はこれらを5元素と対応させていますし,ケプラーの宇宙論において,正多面体は惑星の数や相互の距離を決めるものでした.→【補】
 
 正4面体,立方体,正8面体の3つが存在することは,鉱物の結晶から古くから知られていて,平凡な幾何学的事実といってもよいのですが,正12面体と正20面体は結晶形にはなり得ず,かなり遅れて発見されたようです.
 
 同じ形の多角形のタイルで床を敷き詰める場合を考えると分かりますが,それは5角形や7角形またはそれ以上の辺数の多角形ではあり得ず,それまで知られていた結晶格子は例外なく,すべて正四面体,立方体,正八面体から導かれていたのです.
 
 実際は,5回対称性を示すものには,切頂二十面体構造をしたフラーレンC60の他にも,ホウ素の単体の中には変わり種がたくさんあり,正20面体上にホウ素原子が12個ずつ結合したものがあるのですが,ホウ素の単体やある種のウィルスが正20面体の形をしていることがわかったのは近年になってからのことです.
 
 5回対称性が自然界に実在する例はピタゴラス学派以前には知られていなかったのですが,正12面体は,当時シシリー島で多く産出された黄鉄鉱の結晶とよく似ていて(4つの辺だけが等しく残り一つは違っている),それから見つけだされたという説があります.その真偽はともかく,ワイルによると正12面体と正20面体の発見は,数学史全体の中でも美しく,もっとも特異な発見の一つとされています.
 
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【2】平面充填形
 
 (3,6)は正三角形格子,(4,4)は正方格子,(6,3)は正六角形格子のことですが,5種類あるプラトンの立体に,平面充填形(3,6),(4,4),(6,3)を加えておくと何かにつけて都合がよいのですが,これらは,
  1/p+1/q=1/2
を満たし,平面充填形は面数が無限大となって全体が一面に広がってしまった正多面体(退化した多面体)と解釈することができるからです.一種の正2面体群と考えることもできましょう.
 
 1種類の正多角形を使ったタイル張り(プラトンの平面充填形)がプラトン立体の5種類よりも少ないことは容易にわかりますが,全部で3種類あります.それでは2種類以上の正多角形を使ったらどうでしょうか? それを全部求めてみよといわれたらちょっと大変です.実は,アルキメデスの平面充填形は全部で8種あります.
 
 まず,どんな多角形を組み合わせたら,頂点のまわりを完全に埋めることができるかを考えてみましょう.頂点のまわりには,正三角形でも6個より多く並べることはできません.しかもこの場合は全部が正三角形に限ります.次に,5個集まる場合は少なくとも正三角形が3個なければなりませんから,結局,5個の組は正三角形3個と正方形2個か,正三角形4個と正六角形1個の場合しかありません.
 
 次に,4個の場合,正多角形をそれぞれp1 ,p2 ,p3 ,p4 角形(pi ≧3)とすると,必要条件は
  1/p1 +1/p2 +1/p3 +1/p4 =1
3個の場合は同様に
  1/p1 +1/p2 +1/p3 =1/2
と書けます.これを満たす3以上の正の整数の組を求めればよいことになります.実際に解いてみると必要条件を満たす組は17組できますが,十分条件を満たさない,すなわち,1点のまわりだけは完全に埋められても平面のタイル張りにならないものが出てきます.結局,求めるタイル張りはただ1種類の正多角形を使う場合の3通りを含めて,11通りあることになります.
 
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【3】星形正多面体
 
 プラトンの立体と呼ばれる凸型正多面体5種類の他に,4種類の凹型正多面体があります.これらの凹型正多面体は星形正多面体と呼ばれ,ケプラーがみつけた星形小十二面体,星形大十二面体と約200年後(1810年)にポアンソがつけ加えた大十二面体,大二十面体の4種類です.ケプラーは双対に相当する2つの星形正多面体には気づかなかったのです.また,星形正多面体はこの4種類しかないことはコーシーが示しています(1813年).
 
 ところで,多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,正多面体ではpf=2e,qv=2eが成り立ちます.さらに,
  v+f=e+2   (オイラーの多面体定理)
が成り立ちますから辺の数eは
  1/e=1/p+1/q−1/2
  v=4p/(2p+2q−pq),
  e=2pq/(2p+2q−pq),
  f=4q/(2p+2q−pq)
となります.
 
 オイラーは晩年の17年間はまったくの盲目でしたが,それにもかかわらず非常に多くの定理,公式を発見していて,量(v−e+f)はオイラー数と呼ばれます.また,多面体の示性数gは,
  g=1−(f−e+v)/2
で定義されます.
 
 オイラーの多面体定理より,凸多面体に対してはg=0となります.ところが,4種類の星形正多面体のうち,2種類はg=0ですが,残りの2種類(星形小十二面体と大十二面体)はg=4になります.g=4はトポロジカルにいえば穴が4つあるドーナツと同一ですから,g=0のみを星形正多面体と呼ぶべきだとの主張もあります.星形正多面体には穴があるようには見えませんが,示性数的には穴あきの多面体になっているのです.
 
 ついでに述べますと,4次元では凸型正多面体6種類の他に,10種類の凹型正多面体があります.
 
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【4】アルキメデス立体と空間充填形
 
 正多面体が1種類の正多角形(正3角形,正方形,正5角形)だけでできているのに対して,2種類以上の正多角形から構成されている立体が準正多面体で,プラトンの立体に対してアルキメデスの立体(Archimedean solid)とも呼ばれています.アルキメデスの平面充填形は全部で8種あるのですが,準正多面体はそれより多く,合計16種あります.
 
 多面体をテーマとする本には,たいてい,アルキメデス立体の数は13種類存在すると書かれていますが,3次元空間では右手系と左手系を区別する必要がありますから,対掌体(鏡映対称性があるもの)を異なるものとして数えると16種あるというのが正しいのです.
 
 アルキメデスは準正多面体のうちの13個知っていましたが,残り3つのうち2つはカタラン(1865年),最後の1つはベールによって発見されています(1945年).正多角形,正多面体は円,球に内接・外接しますが,準正多面体は球に内接するだけで外接しません.
 
 正多面体による空間充填を考えると,立方体を除く正多面体はどれも空間を充填しません.一種類の合同な正多面体による空間充填では立方体だけが空間充填形なのです.
 
 もし,2種類以上の正多面体を使ってよければ,正四面体と正八面体の二面角が互いに補角ですから,両者を組み合わせて空間充填が可能になります.正多面体同士の組合せでは,正四面体と正八面体を組み合わせたものだけが空間を充填します.このとき,基本平行六面体は2つの正四面体にこれと等しい辺をもつ正八面体をつなぎ合わせてできる斜方平行六面体であって,最密充填格子状球配置は配位数12の面心立方格子となります.
 
 一方,2種類以上の正多面体・準正多面体による空間充填については,切頂4面体と正4面体(1:1),切頂立方体と正8面体(1:1),切頂8面体と切頂立方8面体と立方体(1:1:3)の組合せなど,非常に多くの例があります.
 
 切頂八面体は名前のとおり正八面体の各辺を三等分して頂点を切り取った後に残る準正多面体です.1つの頂点の周りの正多角形をその順に並べて[4,6,6]と表されるのですが,正6角形8枚と正方形6枚の2種類で作る14面体であって,実は,16種類の準正多面体のなかで単独で空間充填が可能なのは切頂八面体しかありません.
 
 切頂八面体は,その空間充填性を研究したケルビンにちなんで,ケルビンの立体としても知られていて,切頂八面体は対心立方格子のボロノイ多面体になっています.なお,アルキメデス立体の面数は8面〜92面あり,14面をもつアルキメデス立体はすべて立方体か正8面体を切頂して得られます.
 
 これまででてきた正多面体の中では立方体だけ,準正多面体の中では切頂八面体だけが空間を単独で埋めつくすことができました.それ以外の単独空間充填形となる多面体としては,菱形十二面体があげられます.
 
 菱形十二面体は対角線の長さの比が1:√2の合同な菱形を12枚張り合わせたものです.菱形十二面体はざくろ石の結晶としても自然界に産出し,その投影図は正面,平面,側面がすべて正方形になっているという奇妙な投影図形を示します.菱形十二面体は,面が正多角形ではないので準正多面体ではありませんが,面心立方格子のボロノイ多面体になっています.
 
 対心立方格子と面心立方格子の格子点のボロノイ図は,それぞれ切頂八面体と菱形十二面体ですし,ダイヤモンド格子のボロノイ図は切頂4面体と正4面体の組合せによる空間充填形になります.このように考えれば自然な意味を持たせることができます.
 
 また,それほど単純でない単独空間充填多面体の例としては,切頂4面体の正三角形部分に正4面体を4分割した扁平な4面体をくっつけたものが知られていますし,また,対称性をもたない凸の空間充填多面体としては,38面体の例も知られているようです.
 
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【5】正則スポンジ
 
 正方形あるいは正六角形の辺同士を,山折り・谷折りを交互に繰り返してジグザグにつなぐと,正スポンジと呼ばれる蜂巣状多面体(海綿状多面体)ができあがります.たとえば,(4,6)というと,正方形を各頂点に6枚ずつ合わせるという意味ですから,角の和が360°を超えるので,ジグザグにつなぐことになります.
 
 正則スポンジは,シュレーフリ記号で表すと(4,6),(6,4),(6,6)の3種類ですが,(4,6)は立方体を積んだ格子からいくつかの立方体を間引いたような形,(6,4)は切頂八面体による空間充填形から,正方形の部分を除いて穴にした形,(6,6)は切頂4面体と正4面体を組み合わせた空間充填形から正4面体の部分を除いて,正三角形の穴にした形として実現できます.
 
 正スポンジは空間全体を2分し,一方から他方へはどこかの壁を突き抜けない限りいくことができません.また,すべての面が正多角形であるので,れっきとした正多面体です.
 
 1926年,ペトリーとコクセターは3種類の正スポンジを発見したのですが,プラトン立体5種類,平面充填形3種類,星形正多面体4種類と同様に,これらを正多面体と考えるべきだと主張しています.そうだとすると,正スポンジ3種類を含めて,総計15種類の正多面体があることになります.
 
  a)プラトン立体   5種類
  b)平面充填形    3種類
  c)星型正多面体   4種類
  d)正スポンジ    3種類
 
 (4,6),(6,4),(6,6)は,立方体(4,3),正8面体(3,4),正4面体(3,3)において
  3←→6,4←→4
としたものですから,それぞれの共役多面体と呼ぶこともできますし,(6,6)については,カゴメ格子(ダビデの星)の6角形の部分が面,三角形の部分が穴の図形を3次元空間内で実現させたものと考えることも可能でしょう.→【補】
 
 コクセターは正スポンジがこの3種類しかないことを証明しました.また,平面充填形(3,6),(6,3),(4,4)に適当に穴をあけた図形も正スポンジの退化した図形と解釈できますから,同類と見なすことができます.
 
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【6】その他の多面体
 
[1]アルキメデス立体とその双対多面体
 
 準正多面体の定義は,人によっていろいろなのですが,アルキメデスの立体に,アルキメデスの正角柱(Archimedean prism:上下の底面が正多角形で,側面がすべて正方形であるもの),アルキメデスの反角柱(Archimedean antiprism:アルキメデスの正角柱を少しひねって,側面をすべて正三角形にしたもの)を加えることもあります.しかし,各々無限個存在しますから,アルキメデスの立体からは通常除外されます.
 
 元の立体の頂点の数と面の数を互いに入れ替えた立体を双対多面体といいます.正多面体の双対は正多面体ですが,アルキメデスの立体の双対はアルキメデス双対で,準正多面体とは異なる一群の立体となります.たとえば,菱形十二面体は,立方八面体の各面の中心をつないで余分なところを切り落とすと現れる双対多面体です.また,正角柱の双対は重角錐(dipyramid),反角柱の双対はねじれ重角錐(trapezo-hedron)となります.
 
[2]一様多面体
 
 準正多面体の拡張として,一様多面体という概念があります.面が正則(正多角形・星形正多角形),頂点が等価(すべての頂点の周りが一定)である多面体ですが,1954年,コクセターらはプラトン立体5種類,アルキメデス立体13種類,ケプラー・ポアンソの星形多面体4種類,それ以外の53種類を併せて75種類あると発表しました.20年あまり後に,スキリングがコンピュータを使うことによってその証明を与えました.
 
[3]ザルガラー多面体(正多角面体)
 
 また,一様多面体とは別の図形ですが,1966年,ザルガラーは正多角面体(すべての面が正多角形である凸多面体)は正多面体,準正多面体を除くと92種類存在することを証明しました.これもコンピュータの手を借りることで解決されました.
 
[4]デルタ多面体(正三角面体)
 
 すべての面が正三角形で構成されている立体を正三角面体といいます.正4面体,正8面体,正20面体も含めて,全部で8種類あります.面数の少ない順に並べると,4,6,8,10,12,14,16,20面体で,デルタ18面体は存在しません.これらは,1942年にフロイデンタールによって決定されました.
 
[5]菱形多面体
 
 ケプラーは,すべての面が合同な菱形である菱形多面体は,菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形を30個組み合わせてできる菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしたのですが,実はあと2つ,1885年,フェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体第2種があります.
 
 なお,菱形平行6面体(菱面体)には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,各面の菱形の対角線の長さの比が黄金比1:1.618[=(√5+1)/2]の黄金六面体です.細めで尖ったほうがacute ,太めで平たいほうがobtuse と呼ばれていますが,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体,5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.このうち,菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています.
 
 2種類の菱面体を用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができるのですが,ペンローズのタイル貼りは,三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり,5回対称性という物質の新しい状態を2次元的に模似したものになっています.
 
[6]平行多面体
 
 平行多面体とは,平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,3次元格子から決まる本質的なボロノイ領域は,ロシアの結晶学者フェドロフの見つけた5種類の平行多面体−−立方体(平行6面体を含む),6角柱,菱形12面体,長菱形12面体(正6角形4枚と菱形8枚の2種類で作る12面体),切頂8面体−−しかありません.
 
 6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものと一致しています.これら5種類の図形は5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないのですが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられます.
 
[7]複合正多面体
 
 同じ正多面体を中心が重なるように合わせたもので,正4面体を2つ,屋根瓦状にあわせたケプラーの「星形8面体」は最も簡単なものです.このとき,頂点は立方体の頂点をなします.残りの4つは,以下のものになります.
 
  正4面体を5つあわせたもの(頂点は正12面体)
  正4面体を10個あわせたもの(頂点は正12面体)
  立方体を5つあわせたもの(頂点は正12面体)
  正8面体を5つあわせたもの(頂点は正20面体)
 
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【7】正多面体の塗りわけ
 
 (問)プラトン立体のうち,どの隣接する2面も同じ色でないように,黒と白で市松模様に塗ることができるのはどれか?
 
 (ヒント)これが可能なためには,1つの頂点で偶数の面が交わらなければならない.すなわち,qは偶数.
 
  (答)正八面体
 
 コンピュータの援助を借りて証明された悪名高き定理に,4色定理(1976年)があります.平面上あるいは球面上の地図については,塗り分けに4色必要というのが4色定理ですが,それでは
 (問)正多角形の塗り分けには何色必要でしょうか?
 
  (答)正4面体ではどの面も互いに接していますから,塗り分けにはどうしても4色必要です.立方体では相対する面を同じ色にすれば3色で塗り分けられます.正8面体は交互に2色で塗り分けられます.正12面体は少し難しくなりますが,4色を公平に3回ずつ使って可能になります.正20面体は3色で可能です.
 
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【補】ケプラーの宇宙論
 
 ケプラーは惑星運動の法則を発見した天文学者として有名ですが,超がつくほどのピタゴラス・プラトン主義者であり,世界は数学的な調和,幾何学的秩序に従っていると確信していました.彼の初期の著作「宇宙の神秘」では,太陽系の惑星の軌道を無数にある立体の中で明確な法則性をもっている立体(5種類の凸型正多面体)で幾何学的に説明しようとしていたことはよく知られています.
 
 また,「宇宙の神秘」から23年後の「世界の調和」の中で速く回転する天体ほど高い音を発し,その結果,天球全体が一つの音楽を奏ででいると考え,ピタゴラス音階による天球の音楽について一層詳細な論を展開しています.ケプラーの考えを非科学的なこじつけということはやさしく,今日から見れば,真理・正論ではないにしろ,正多面体やピタゴラス音階を宇宙論に導入したケプラーの美しい考え方<宇宙の調和論>には驚かされます.
 
 さらに,ケプラーは「新年の贈り物・六角形の雪の結晶について」のなかで,雪の結晶が正六角形をしているのはなぜかと考え,史上初めて菱形十二面体をみつけました.菱形十二面体(超正六角形)は2次元における正六角形に相当しますから,4次元における雪の結晶の形だと考えることができます.
 
 アーサー・ケストナー(物理学者で小説家)によると,人類史上,全宇宙を総合的に企画構成し世界を統一原理で理解しようとしたのは,プラトンとケプラーだけとのことですが,ケプラーは無意識のうちに4次元に近づいていたことになります.
 
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【補】ダビデの星とケプラーの星
 
 同じ大きさの正3角形2個のうち,1個を天地逆転させ,もう1個の正3角形に重ねると,星形6角形ができます.これはダビデの星と呼ばれて,イスラエルの国旗にも使われ,ユダヤ人の象徴とされています.
 
 星形6角形では内側に正6角形ができますが,外側のとがった角を結んでも正6角形ができます.すなわち,星形6角形は外側を正6角形が取り囲んでいて,内側にも正6角形が入っていることがわかります.それでは,・・・
 
(問)それでは,同じ大きさの正4面体2個を重ねた場合,その外側と内側にはどのような立体ができるでしょうか?
 
(答)複合多面体とは,いくつかの多面体を中心がすべて一致するように重ね合わせたもので,多面体が同じくらいの大きさならば,互いに交わったり,ある面が他の面を突き抜けたりします.
 
 この問題はダビデの星の3次元版で,同じ大きさの正4面体2個による屋根瓦状の相貫体にはケプラーの8角星という名前がつけられています.最も簡単な複合多面体なので,これが頭の中でイメージできれば答は簡単なのですが,勘の働きにくい問題でもあります.
 
 上から見ても,前から見ても,横から見ても,同じ6角形に見える3次元図形を想像されますが,ところが,外側に立方体(正方形6面),内側に正8面体(正3角形8面)が正解なのです.
 
 小生はこの問題を「ダビデの星・ケプラーの星」と呼んでいます.「ダビデの星」では正三角形と正六角形が互いに隣接していますが,それが周期的な格子をつくったものが「カゴメ格子」です.「カゴメ格子」は,文字通り,竹篭編みにみられる篭の目の結び目を作る格子であり,日本人が最も愛好した文様のひとつです.ちなみに「カゴメ」は世界でも通用する呼び名とのことです.
 
 ついでに,立方体と正8面体,正12面体と正20面体の相貫体について考えてみましょう.立方体と正8面体の相貫体は,外側を菱形12面体(直交する対角線の比が1:√2の菱形12面)が,内側には立方8面体(正方形6面+正3角形8面)が入っています.正12面体と正20面体の相貫体では,外側を包む立体が菱形30面体(直交する対角線の比が黄金比になっている菱形30面),内側には12・20面体(正5角形12面+正3角形20面)という多面体が内包されているのです.(正多面体とその双対多面体との共通部分は,正8面体,立方8面体(6・8面体),12・20面体です.)
 
 正多面体の各面の中心(重心)を順に結んで立体を作ると,もとの正多面体と面と頂点の関係が逆向きの正多面体ができます.互いに表と裏の関係にある多面体を双対多面体といいます.正四面体ではふたたび正四面体ができ,正六面体では正八面体が,逆に正八面体では正六面体が,また,正十二面体では正二十面体が,逆に正二十面体では正十二面体ができます.したがって,正四面体は自己双対であり,正六面体と正八面体,正十二面体と正二十面体とは互いに双対です.このことにより,正多面体は,{正四面体},{正六面体と正八面体},{正十二面体と正二十面体}の3つのグループに大別することができます.
 
 3種類の相貫体−−正4面体と正4面体,立方体と正8面体,正12面体と正20面体−−について調べてみると,それぞれの立体の間に双対関係があり,3種類の相貫体の外側にできる立体と内側にできる立体−−立方体と正8面体,菱形12面体と立方8面体,菱形30面体と12・20面体も互いに双対関係をもっていることがわかります.そして,これらもやはり相貫体をつくることができ,そしてまたそこに現れてくる外側と内側の立体も双対関係になっています.頂点と面に関しての双対性にはうまくできているなと感嘆させられます.自然界の法則性,自然が作るきれいな関係の1例といえましょう.
 
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