■多面体と空間充填形

1.プラトン立体とその双対多面体

 正多角形は無限に多く存在しますが、それでは、「互いに合同な正多角形を隙間も重なりもないように並べて平面を完全に埋める仕方が何通りあるでしょうか?」この問題は昔から知られていて、それが3種類に限ることは以下のようにして証明されます。

 正多角形の中で平面をタイル張りのように隙間なく埋めつくすことができる平面充填形では、各頂点に正p角形がq面が会するとすると、正p角形の一つの内角は2(1−2/p)×90°であり、一つの頂点の回りの内角の和はこれがq個集まって四直角ですから、

  2q(1−2/p)=4、すなわち、

  1/p+1/q=1/2   (p,q≧3)

で、この条件を満たす(p,q)の組は(3,6),(4,4),(6,3)の3通りしかありません。したがって、平面充填形は正三角形、正方形、正六角形の3つだけです。このうち正方形のは碁盤、正六角形のは蜂の巣などでおなじみでしょう。

 2次元の平面の中に正多角形は無限に多くあるのに反して、3次元の空間には無限に多くの正多面体は存在しません。平面充填形は、面数が無限大となって全体が一面に広がってしまった正多面体と解釈することができますが、平面充填形の場合と同様にして、正多面体の各面を正p角形、各頂点にq面が会するとすると、頂点の周囲は4直角未満ですから、不等式

  2q(1−2/p)<4、すなわち、

  1/p+1/q>1/2   (p,q≧3)

  (p−2)(q−2)<4

が正多角形となる必要条件です。このような整数の組は(p,q)=(3,3),(3,4),(3,5),(4,3),(5,3)の5通りで、それぞれ、正4面体、正8面体、正20面体、正6面体、正12面体に対応します(→【補】参照)。

 すなわち、正多面体は正4・6・8・12・20面体の5種類あって5種類しかないことはプラトンの時代にはすでに見つけられていて、それらがプラトンの自然哲学で重要な役割を演ずるところから、正多面体はプラトンの立体(Platonic solid)とも呼ばれています(→【補】参照)。

 以上の解は平面(空間)を合同な多角形(多面体)で埋めることをユークリッド面(放物的)で考えたものですが、リーマン面(楕円的)、ロバチェフスキー面(双曲的)を問題にするならば、解は非常に異なるものになります。楕円的平面(空間)では基本領域は有限個しかなく、有限個の基本領域をならべることによって全平面(空間)を埋めつくすことができます。一方、双曲的平面(空間)の場合には、無限に多くの種類の基本領域があり、全平面(空間)を隙間なく埋めるには無限個必要となります。ユークリッド平面(空間)はその中間で、基本領域は有限種類しかないが、全平面(空間)を埋めつくすには無限個必要であるというわけです。

 正多面体の各面の中心(重心)を順に結んで立体を作ると、もとの正多面体と面と頂点の関係が逆向きの正多面体ができます。互いに表と裏の関係にある多面体を双対多面体といいます。正四面体ではふたたび正四面体ができ、正六面体では正八面体が、逆に正八面体では正六面体が、また、正十二面体では正二十面体が、逆に正二十面体では正十二面体ができます。したがって、正四面体は自己双対であり、正六面体と正八面体、正十二面体と正二十面体とは互いに双対です。このことにより、正多面体は、{正四面体}、{正六面体と正八面体}、{正十二面体と正二十面体}の3つのグループに大別することができます。頂点と面に関しての双対性にはうまくできているなと感嘆させられます。自然界の法則性、自然が作るきれいな関係の1例といえましょう。

 同じ大きさの球に内接する正12面体と正20面体とでは、正12面体の方が体積も表面積も大きい。−−−そんなばかなと思われるかもしれませんが、直感に反して、正12面体は球の66.5%、正20面体は球の60.6%を占めるのです。したがって、正多面体を球に内接させたとき最も球に近い正多面体は正12面体です。一方、外接させれば体積も表面積も正20面体の方が球に近くなります。

 平面凸集合に関して、周の長さLが一定で面積Aが最大の図形(面積が一定で周の最小な図形)は円であるという事実はよく知られています。そのことはL2 ≧4πAという不等式で表現されます。等号は円のときだけ成立します。同様に、3次元凸集合に対し、表面積をS、体積をVとするとS3 ≧36πV2 が成り立ちます。等号成立は球のときだけで、すべての立体中で球が表面積に対して最大の体積をもっています。立体図形のS3 /V2 は平面図形のL2 /Aの相当していて等周比と呼ばれます。等周比の点からいえば、5種の正多面体では正4面体が最も球に遠く、正20面体が最も球に近いことになります(→【補】参照)。

 正多面体による空間充填を考えると、立方体を除く正多面体はどれも空間を充填しません。球に近い正多面体ほど空間充填が容易でなくなることは簡単に直観できますが、もっとも球に遠いはずの正四面体ですら空間を埋めつくせないわけですから、三次元のパッキングはなかなか一筋縄ではいきません。もし、2種類以上を使ってよければ、正四面体と正八面体の二面角が互いに補角ですから、両者を組み合わせて空間充填が可能になります。一種類の合同な正多面体による空間充填では立方体だけが空間充填形なのです。


2.アルキメデス立体とその双対多面体

 1種類の正多角形を使ったタイル張りはわかりましたが、それでは2種類以上の正多角形を使ったらどうでしょうか? それを全部求めてみよといわれたらちょっと大変です(じつは、アルキメデスの平面充填形は全部で8種あります→【補】参照)。

 正多面体が1種類の正多角形(正3角形、正方形、正5角形)だけでできているのに対して、2種類以上の正多角形から構成されている立体が準正多面体で、プラトンの立体に対してアルキメデスの立体(Archimedean solid)とも呼ばれています。準正多面体は合計16種あります。アルキメデスは準正多面体のうちの13個知っていましたが、残り3つのうち2つはカタラン、最後の1つはベールによって発見されています。正多角形、正多面体は円、球に内接・外接しますが、準正多面体は球に内接するだけで外接しません。

 サッカーのボールは正五角形12個と正六角形20個を張り合わせてできていますが、アルキメデスの立体はサッカーボールですでにおなじみでしょう。この準正多面体は正20面体(頂点が12個、正三角形の面が20個ある)の各頂点からのびている5本の辺をそれぞれ1/3の長さの所で切り取り、五角錐をはずした姿であり、切頂二十面体(truncated icosahedron)とも呼ばれます。ちなみに、石墨(グラファイト)とダイヤモンドにつぐ炭素の第3の形と呼ばれる炭素原子クラスター(フラーレン)のなかでもきわめつけはC60で、この形はサッカーボールにそっくりです。この世界最小のサッカーボールはアメリカの異才バックミンスター・フラーへの親しみを込めて、バッキーボールという愛称でも知られています。C60の化学合成は1989年に成功しましたが、その後、1992年にアルカリ金属を添加すると超伝導体になるなどのおもしろい性質が発見され、C60は目下発展中の話題を提供しています。

 双対正多面体は正多面体の頂点を削り落として作ることができますが、その中間段階でいろいろな準正多面体が得られます。たとえば、立方体の頂点を次第に削りとると、立方体(cube)→切頂立方体(truncated cube)→立方八面体(cuboctahedron)→切頂八面体(truncated octahedron)→正八面体(octahedron)と移行します。最終的には立方体の双対多面体である正八面体が得られますが、中間形の切頂立方体、立方八面体、切頂八面体はいずれも準正多面体です。反対に、正八面体の頂点を削っていくと、正八面体→切頂八面体→立方八面体→切頂立方体→立方体ができあがります。

 切頂八面体は名前のとおり正八面体の各辺を三等分して頂点を切り取った後に残る多面体です。実は、16種類の準正多面体のなかで空間充填が可能なのは切頂八面体−−正6角形8枚と正方形6枚の2種類で作る14面体−−しかありません。

 また、立方体の各辺の中点を結んで頂点を切り落とすと、6枚の正方形と8枚の正三角形の合計14面からなる準正多面体ができます。正八面体についても12本の辺の中点を結んでその頂点を切り落とすと全く同じ多面体ができます。このように立方八面体は立方体と正八面体の両方から中点を結ぶという同じプロセスでできあがる準正多面体です。日本では古くから灯篭などの照明器具などに立方八面体の形をした装飾品が使われ親しまれていますから、この立体をご存じの方も多いと思います。立方八面体は単独では空間充填形ではありませんが、正八面体と組み合わせると空間充填が可能です。


3.その他の空間充填多面体

 これまででてきた正多面体の中では立方体だけ、準正多面体の中では切頂八面体だけが空間を単独で埋めつくすことができました。それ以外の単独空間充填形となる多面体としては、平行六面体と菱形十二面体(rhombic dodecahedoron )があげられます。

 菱形十二面体は対角線の長さの比が1:浮Qの合同な菱形を12枚張り合わせたものです。菱形十二面体はざくろ石の結晶としても自然界に産出し、その投影図は正面、平面、側面がすべて正方形になっているという奇妙な投影図形を示します。

 菱形十二面体は、面が正多角形ではないので準正多面体ではありませんが、立方八面体の各面の中心をつないで余分なところを切り落とすと現れる多面体、すなわち、準正多面体の双対多面体でもありますから一種の準正多面体群として考えることができます。このように、プラトン立体の双対は正多面体ですが、アルキメデス立体の双対は準正多面体とは異なる一群の立体となります。


4.高次元の正多面体

 ケプラーは雪の結晶が正六角形をしているのはなぜかと考え、史上初めて菱形十二面体をみつけました。4次元の雪(超正六角形)はケプラーが予想したとおり菱形十二面体であるということです。そこで、次なる問題は、四次元あるいはもっと高次元で、正多辺形・正多面体はどのような形のものがあり、何種類存在するのだろうかというものでしょう。実は、四次元では6種類、五次元以上では3種類あることが知られています。

 五次元以上のd次元の場合は、2d個の頂点と2d 個の辺をもつ双対立方体(三次元では正八面体)、2d 個の頂点と2d個の辺をもつ立方体、d+1個の頂点とd+1個の辺をもつ正単体(三次元では正四面体)の3つですべての正多面体をつくしています。三次元の場合はこれらの他に2つの正多面体<正十二面体と正二十面体>があり、四次元の場合は他に3つあるといったほうがわかりやすいと思われます。三次元の正多面体は5種類であり、五次元以上でも3種類しかないのに、四次元では6種類もあることは四次元の不思議ともいうべき事実です。

 二次元における正多角形、三次元における正多面体と同じ概念が四次元における正多胞体で、正(5,8,16,24,120,600)胞体の6つです。以下、正多胞体をいくつか紹介します。

 線分と三角形および四面体は、それぞれ最も簡単な1次元図形、2次元図形、3次元図形です(シンプレックス)。線分は2つの端点(0次元の境界要素)をもち、その内部は1次元です。三角形は3つの頂点(0次元)と3つの辺(1次元)をもち、その内部は2次元です。四面体は4つの頂点(0次元)と6つの辺(1次元)および4つの面(2次元)をもち、その内部は3次元です。これらの数をまとめて書くと

    2,1

   3,3,1

  4,6,4,1

ですが、これらの数はパスカルの三角形の一部分に相当しています。これから類推すると4次元のシンプレックスは5,10,10,5,1、すなわち5つの頂点と10辺、10面、5面、5胞(正5胞体)になります。

 また、二次元空間の正三角形の相当する三次元図形は正四面体、正方形は立方体、正五角形は正十二面体に相当しますが、四次元空間で三次元空間の立方体にあたる正八胞体(8胞,24面,32辺,16頂点)と正八面体にあたる正十六胞体(16胞,32面,24辺,8頂点)を重ねると、四次元特有の正二十四胞体(24胞,96面,96辺,24頂点)ができます。その意味で、立方八面体・菱形十二面体は正二十四胞体の3次元版です。また、四次元空間における正十二面体に相当する図形は正百二十胞体(120胞,720面,1200辺,600頂点)と呼ばれています。


5.5回対称性と準周期的結晶

 次に、正多角形でない多角形による平面充填形について考えてみましょう。ただし、非凸な多角形による平面のタイル張り問題は難しいので、ここでは正多角形ではない不規則な凸多角形に限ってみます。三角形と四角形の場合は凸でなくてもよいのですが、どんな形の三角形、四角形でも平面を過不足なく敷きつめることができます。凸六角形では本質的に異なる3つのタイプの六角形だけが平面を埋めつくします。また、凸な多角形では七角以上になるとどんな型のものもうまくいきません。

 五角形は特に興味津々です。正五角形はどうしても隙間があいてしまいますが、凸五角形では、ホームベース形も含めて、現在、14種の平面充填形が知られています。六角形に関しては3種類以外のものは存在しないことが示されていますが、五角形に関しては14種ですべてかどうかはまだ証明されていません。このような問題はとかくとり漏らしやすいもので、見逃されているものがあるやもしれません。

 周期的な平面充填に対して、平行移動の周期がない非周期的平面充填についても多くの研究がなされています。最初に発見された非周期的タイルの集合は20426個の原型から構成されているものでした(1966年)。その後、より少ない原型からなるものが発見され、現在のところ、1974年に、イギリスの数理物理学者ペンローズの発見した2種類の菱形(太った菱形とやせた菱形)を組み合わせて平面を非周期的に敷きつめるものが最も構成要素の少ないものです。ペンローズタイルと呼ばれるこの敷きつめかたは、正五角形のような5重の対称性がありますが、隙間を生じません。

 平面上の敷き詰めに引き続いて、3次元空間の敷き詰め<結晶>についてみていきましょう。結晶学の常識では、原子が周期的に配列した結晶物質では2重、3重、4重、6重の対称性しか許されないというのが鉄則・大前提になっていました(→【補】参照)。なぜ5重、7重、8重などの対称が結晶に存在し得ないかは正五角形は平面を埋めつくすことができないことから容易に理解されるところです。3次元では5回対称軸をもつ正五角形の役割を正12面体や正20面体が果たしますが、正五角形が平面充填形でないのと同様に正12面体・正20面体は空間充填形ではありません。

 ところが、1984年に5重の対称性を示す物質(アルミニウムとマンガンの人工合金)がアメリカのシェヒトマンによって発見され、結晶学の根底は揺るがされ、この大前提は覆されました。それはあたかも誰かが5角形の雪の結晶を発見したような事件であったのです。この物質はペンローズのタイル貼りと密接に関係していて、ペンローズが始めた5重の対称性をもつ敷きつめを3次元空間に一般化したものであり、ある規則性をもちながら周期配列をしないことから、準周期的結晶、あるいは簡単に準結晶と呼ばれます。最近まで、結晶とアモルファスの両方の物質の状態を共有しそのどちらでもない新しい状態があると思っている人はごく少なかったのですが、この準結晶は両方の性質をもっています。

 ペンローズタイルと同様にして、2種類の菱面体(太った菱面体とやせた菱面体)でともに合同な面をもつものを用いて、3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができます。これら2種類の菱面体は各面の菱形の対角線の長さの比が黄金比1:1.618[=(浮T+1)/2]の黄金六面体です。黄金菱面体には2種類あり、細めで尖ったほうがacute 、太めで平たいほうがobtuse と呼ばれていますが、2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体、5つずつ集まれば菱形二十面体、10個ずつ集まれば菱形三十面体となります。このうち、菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています。ペンローズのタイル貼りは、三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり、5回対称性という物質の新しい状態を2次元的に模似したものになっています。

 なお、1993年に、1種類の凸多面体の非周期的な仕方だけで空間全体を完全に埋めつくすことができる立体「二重プリズム」が英国の数学者コンウェイによって発見されました。平面全体を一種類だけで非周期的に埋めつくすことのできる図形はまだ知られていません。


6.球の最密充填問題

 立方体、切頂八面体、菱形十二面体、平行六面体と違って、同じ大きさの球を隙間なしに詰め込むことはできません。それでは同じ半径の球を最も密になるように空間に埋め込む方法<最密充填構造>とはどのようなものでしょうか?

 球を規則的に配列させるには、各段の球の配列として正方形配列と正三角配列、一つ上の段を乗せる方法として直上に乗せる方法とくぼみに乗せる方法とが考えられます。

 2次元では一つの円に同時に接することのできる円の数は6個で、平面上で一個の円を最も密にならべる方法は、一個の円の回りに六個の円が接するような並べ方(三角形格子パッキング)です。この配置では円は面の約91%(π/2浮Q=90.69%)を占めます。球を一層にならべるにもこの配列が最も密になります。したがって、二層あるいは三層以上にならべるときには、下の層の球の三角形の真ん中のくぼみにはめるようにします。同一平面上に6個、上面に3個、下面に3個のような並べ方を面心立方パッキングとよび、面心立方パッキングだと全体の体積のπ/3浮Q(74.04%)を充填します。

 面心立方格子が最も密な球の充填方法だろうという予想は400年近く前のケプラーまでさかのぼります。日常の経験からすると、同じ大きさの球の最も効果的な配置問題は自明なものと考えてしまいがちで、直感的に、面心立方格子をなす場合が最大に詰め込んだ配置のように思えるのですが、この方法が3次元空間における最密充填構造だという証明にはまだ至っておりません。3次元では相互に接するように球を配置するときの最大数は4であり、それは四面体配置となりますが、不運にも四面体は全空間を充たすことはできません(3浮Q(cos-11/3−π/3)=77.96%)。不規則にするともっと密なパッキングの方法があるかもしないからです。平面に円を互いに重ならないように詰めるときは、三角形格子パッキングが最密ですが、3次元以上の類似の問題は何世紀にもわたる研究にもかかわらず未解決で、数学の未解決問題として有名なものの一つになっています。まだこんなことがわかっていないのです。

 球の配置において、各段の並べ方として正方形配列を選んでも正三角形配列を選んでも、次の段をくぼみに乗せれば、これらは見る方向を変えれば同じ配列(面心立方パッキング)になります。面心立方パッキングを別の角度からみると、立方体の8個の頂点と6面の中心に球が配置されているところから、名前が由来しています。面心立方構造ではどの球にも12個ずつの球が接します。

 一方、立方体の8個の頂点と中心に球を配置したものは体心立方構造と呼ばれます。単純立方格子すなわち立方体の頂点に位置する隣り合った球どうしが互いに接していると、その中心に同じ大きさの球を入れることはできません(8個の球の半径を1とすると、第9の球の半径は浮R−1になる)。そのため、体心立方構造では立方体の辺に沿ってすき間を作る必要があります。体心立方構造も面心立方構造も辺に沿ったところにすき間がありますが、体心立方構造ではどの球にも8個の球しか接しませんから、面心立方構造ほど密に詰め込んだ配置にはなっていません。

 粘土や鉛で球を作って、単純立方格子状に詰め込んでおいて、それをぎゅとつぶすと立方体、正六角形格子状詰め込みでは六角柱、面心立方格子状詰め込みで菱形十二面体、体心立方格子状詰め込みでは切頂八面体になるという報告がなされています。すなわち、単純立方格子が立方体による空間充填に相当するのに対して、面心立方構造は菱形十二面体による空間充填、体心立方構造は切頂八面体による空間充填にあたります。


7.ニュートンの13球問題

 最密充填構造に関連したことですが、1個の球の回りに接触するようにして、最大何個の同じ大きさの球を配置できるでしょうか。3次元の最密充填と予想される面心立方構造には辺に沿ったところにわずかずつ隙間ができますが、その隙間を一つに集めたらもう一個球が入るのではないでしょうか。14個の球は配置できそうにありませんから、一つの球に接することのできる球の個数の最大値は12か13であることは容易に予想がつきます。しかし、その証明はやさしくはありません。

 1次元の球は区間であり、接触数は1次元のとき2個、2次元のとき6個であることは自明です。平面上で与えられるたいていの問題は、3次元あるいは高次元の空間で考察することができます。ただし、平面上では自明な問題であっても、一般的には次元をあげるとより難しい問題となりますから、自明というのはself evidentということであって、つまらない、当たり前(trivial)という意味ではありません。

 球の最大接触数については、1694年にニュートンとグレゴリーの間で議論され、ニュートンは12を、グレゴリーは13を主張したといわれています。結局、ニュートンは12個が最大であるという証明ができず、グレゴリーも13個並べたわけではないので、ニュートンの13球問題と呼ばれるこの論争は引き和けに終わりました。1874年、ホッペが12個が最大であることという証明を試みましたが、不備があり、ようやく完全な証明がなされたのは1953年、ファン・デル・ヴェルデンとシュッテによってです。つまり、3次元空間内で1つの球には同時に12個の球しか接することができません。3次元のときは12個という解が得られるまで非常に長い年月がかかったことになります。4次元以上の高次元での類似の問題については、8次元(240個)と24次元(196560個)の場合を除いて未解決です。

 球の最密パッキングの研究は、2次形式の数論、ルート系、誤り訂正符号、有限単純群などの理論と関係し、驚くべきことに、最大の信頼性と最小の電力で伝送できる効率的な通信システムの設計に利用されています。通信技術への応用は球の詰め込み問題の四次元以上への一般化の結果としてなされたものであり、純粋数学の期待せざる応用の一例といってもよいでしょう。


【補】オイラーの多面体定理と星形正多面体

 多面体の頂点、辺、面の数をそれぞれv,e,fとすると、pf=2e,qv=2eが成り立ちます。さらに、v+f=e+2(オイラーの多面体定理)が成り立ちますから辺の数eは

  1/e=1/p+1/q−1/2

  v=4p/(2p+2q−pq),

  e=2pq/(2p+2q−pq),

  f=4q/(2p+2q−pq)

となります。

 オイラーは晩年の17年間はまったくの盲目でしたが、それにもかかわらず非常に多くの定理、公式を発見していて、量(v−e+f)はオイラー数と呼ばれます。また、多面体の示性数gは、g=1−(f−e+v)/2で定義されます。

 凹型正多面体まで含めると、正多面体は全部で9種類あり、プラトンの立体と呼ばれる凸型5種類の他の4種類は、星形正多面体(ケプラーがみつけた星形小十二面体、大十二面体と約200年後にポアンソがつけ加えた星形大二十面体、大二十面体の4種類)です。星形正多面体は4種類しかないことはコーシーが示しています。

 オイラーの多面体定理より、凸多面体に対してはg=0となります。ところが、4種類の星形正多面体のうち、2種類はg=0ですが、残りの2種類はg=4になります。g=4はトポロジカルにいえば穴が4つあるドーナツと同一ですから、g=0のみを星形正多面体と呼ぶべきだとの主張もあります。

 なお、同じ大きさの正4面体2個による相貫体<ケプラーの8角星>はダビデの星の3次元版ですが、星形正多面体には加えません。さらに、一様多面体(準正多面体の星形化)は75種類、ザルガラー多面体(すべての面が正多角形である凸多面体)は正多面体、準正多面体を除くと92種類存在します。

【補】正12面体と正20面体の発見

 正多面体は、ピタゴラス学派には神秘的完全性の象徴のように見え、ギリシャの自然哲学者はこれらを5元素と対応させています。

 正4面体、立方体、正8面体の3つが存在することは、鉱物の結晶から古くから知られていて、平凡な幾何学的事実といってもよいのですが、正12面体と正20面体は結晶形にはなり得ず、かなり遅れて発見されたようです。正12面体は、当時シシリー島で多く産出された黄鉄鉱の結晶とよく似ていて(4つの辺だけが等しく残り一つは違っている)、それから見つけだされたという説があります。また、ある種のウィルスやホウ素の単体が正20面体の形をしていることがわかったのは近年になってからのことです。ワイルによると、5角12面体と3角20面体の発見は数学史全体の中でも美しく、もっとも特異な発見の一つとされています。

【補】未解決の最大・最小問題

 f個の面をもつ多面体の中で等周比の最小値を与えるものはなんでしょうか。f=4,6,12ではプラトンの正多面体、すなわち、正四面体、立方体、正十二面体が最小値をとります。しかし、f=8で等周比の最小値をあたえるものは正八面体ではありません。f=20は未解決のまま残っています。

 また、正多面体の頂点は外接円上に分布していますが、どの2点の最短距離もできるだけ大きくなるような点の分布をなしているとは限りません。たとえば、6個あるいは12個の点の分布はそれぞれ正八面体と正20面体になりますが、8個の点については立方体にはならないからです。

 参考までに、平面における定幅図形(いかなる方向に関しても等しい幅をもっている図形)は円だけではなく、そのような形状は無数にあります。定幅図形の中で最大の面積をもつものは円であり、最小の面積をもつものはルーローの三角形です。ルーローの三角形は3つの円弧からなる等辺円弧三角形ですが、そのまわりには7個のルーローの三角形を接触するように配置できます。一般に、3次元以上のd次元のとき、定幅で体積が最大のものはd次元球ですが、体積最小のものは解明されていません。

【補】アルキメデスの平面充填形

 まず、どんな多角形を組み合わせたら、頂点のまわりを完全に埋めることができるかを考えてみましょう。

 頂点のまわりには、正三角形でも6個より多く並べることはできません。しかもこの場合は全部が正三角形に限ります。次に、5個集まる場合は少なくとも正三角形が3個なければなりませんから、結局、5個の組は正三角形3個と正方形2個か、正三角形4個と正六角形1個の場合しかありません。

 次に、4個の場合、正多角形をそれぞれp1 ,p2 ,p3 ,p4 角形(pi ≧3)とすると、必要条件は

  1/p1 +1/p2 +1/p3 +1/p4 =1

3個の場合は同様に

  1/p1 +1/p2 +1/p3 =1/2

と書けます。これを満たす3以上の正の整数の組を求めればよいことになります。実際に解いてみると必要条件を満たす組は17組できますが、十分条件を満たさない、すなわち、1点のまわりだけは完全に埋められても平面のタイル張りにならないものが出てきます。結局、求めるタイル張りはただ1種類の正多角形を使う場合の3通りを含めて、11通りあることになります。

【補】5回対称性を示す結晶

 同じ形の多角形のタイルで床を敷き詰める場合を考えると分かりますが、それは5角形や7角形またはそれ以上の辺数の多角形ではあり得ない−−−と思われていたのですが、実際に、5回対称性を示すものには黄鉄鉱やフラーレンC60などがあります。また、ホウ素の単体の中には変わり種がたくさんあり、正20面体上にホウ素原子が12個ずつ結合したものがあるなど、5回対称性が自然界に実在する例が以前から知られていたのですが、それは例外であって、それまで知られていた結晶格子はすべて正四面体、立方体、正八面体から導かれていたのです。