■奇数ゼータと杉岡の公式(その8)

 (その7)で気づいたことであるが,(その6)に掲げた
  Σsin(2nx)/n=π/2-x(1次式)
  Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12(2次式)
  Σsin(2nx)/n^3=1/12{π^3-2π^2x+(2x-π)^3}(3次式)
  Σcos(2nx)/n^4=1/48{2π^2(2x-π)^2-(2x-π)^4-7π^4/15}(4次式)
  Σsin(2nx)/n^5=x/90{π^4-10π^2x^2+15πx^3-6x^4}(5次式)
は,それぞれ1〜5次のベルヌーイ多項式のフーリエ展開になっていた.
 
 一般に,ベルヌーイ多項式のフーリエ展開は
  Bn(x)=-2n!/(2π)^nΣcos(2πkx-πn/2)/k^n
で表される.また,その兄弟分にあたるオイラー多項式のフーリエ展開は
  En(x)=4n!/π^(n+1)Σsin((2k+1)πx-πn/2)/(2k+1)^n+1
で表されることがわかっている.
 
 このことから,0〜3次のオイラー多項式のフーリエ展開が
  Σsin((2n-1)x)/(2n-1)=π/4(0次式)
  Σcos((2n-1)x)/(2n-1)^2=π(π-2x)/8(1次式)
  Σsin((2n-1)x)/(2n-1)^3=πx(π-x)/8(2次式)
  Σcos((2n-1)x)/(2n-1)^4=π/96(π^2-6πx^2+4x^3)(3次式)
となることは容易に確かめられよう.
 
 先日,杉岡幹生氏より「ベルヌーイ多項式でやったのと同様のこと,つまり,オイラー多項式のフーリエ展を元にして次々と偶数ゼータと奇数L関数を求めていくことは可能なのか?」という質問を受けた.オイラー多項式はベルヌーイ多項式の兄弟分にあたるので,直観的にもこのことは確かと思われ,煩をいとわなければすぐにでも検証できることである.
 
 ベルヌーイ多項式から得られる結果とほとんど同じものになるはずであり,当初はありきたりの結果しか得られないのではと考えられたのだが,計算中,面白い(?)ことに気づいた.どの公式集にも載っていないような目新しい式が現れたのである.今回のコラムでは,そのことについて報告したい.
 
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【1】質問への回答
 
 ベルヌーイ多項式では
           x=π/2          x=π/4
 Σcos(2nx)/n^s  -(1-2^(1-s))ζ(s)   -2^(-s)(1-2^(1-s))ζ(s)
 Σsin(2nx)/n^s    0           L(s)
であったが,オイラー多項式の場合,
               x=π/2       x=π/4
 Σcos(2n-1)x/(2n-1)^s    0        L1(s)/√2
 Σsin(2n-1)x/(2n-1)^s    L(s)       L2(s)/√2
となる.
 
 ここで,
  ζ(s)=1/1^s+1/2^2+1/3^s+1/4^s+・・・
  L(s)=1/1^s-1/3^s+1/5^s-1/7^s+・・・
で,L(s)はディリクレのL関数の最も簡単な形である.
 
 それにならって,L1,L2関数を
  L1(s)=1/1^s-1/3^s-1/5^s+1/7^s+・・・
  L2(s)=1/1^s+1/3^s-1/5^s-1/7^s+・・・
と定義した.もちろん,これらは小生が勝手に定義した関数であり,正式な名前ではない.仮称に過ぎないことをお断りしておく.
 
 L関数の分母には奇数が交代で+−+−・・・とでてくるのに対し,L1では+−−+・・・,L2では++−−・・・の順にでてくる.したがって,s≧1に対して
  L1(s)<L(s)<L2(s)
となることが理解される.
 
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 偶数ゼータと奇数Lが明示的に得られていることはすでに説明したとおりであるが,以下の計算より,偶数L1と奇数L2は偶数ゼータだけで表せること,したがって明示的に表せることがわかった.
 
  Σsin((2n-1)x)/(2n-1)=π/4(0次式)
からスタートすると,
         x=π/2          x=π/4
 (0回積分)  L(1)=π/4         L2(1)=π/4*√2
 (1回積分)  ζ(2)=π^2/6       L1(2)=π^2/6*√2
 (2回積分)  L(3)=π^3/32       L2(3)=3π^3/128*√2
 (3回積分)  ζ(4)=π^4/90       L1(4)=11π^4/1536*√2
 (4回積分)  L(5)=5π^5/1536      L2(5)=57π^5/24576*√2
 
  Σcos((2n-1)x)/(2n-1)^2=π(π-2x)/8(1次式)
からスタートすると,
         x=π/2          x=π/4
 (0回積分)  0=0            L1(2)=π^2/6*√2
 (1回積分)  L(3)=π^3/32       L2(3)=3π^3/128*√2
 (2回積分)  ζ(4)=π^4/90       L1(4)=11π^4/1536*√2
 (3回積分)  L(5)=5π^5/1536      L2(5)=57π^5/24576*√2
 (4回積分)  ζ(6)=π^6/945      L1(6)=361π^6/491520*√2
 
  Σsin((2n-1)x)/(2n-1)^3=πx(π-x)/8(2次式)
では,
         x=π/2          x=π/4
 (0回積分)  L(3)=π^3/32       L2(3)=3π^3/128*√2
 (1回積分)  ζ(4)=π^4/90       L1(4)=11π^4/1536*√2
 (2回積分)  L(5)=5π^5/1536      L2(5)=57π^5/24576*√2 
 (3回積分)  ζ(6)=π^6/945      L1(6)=361π^6/491520*√2
 (4回積分)  L(7)=61π^7/184320    L2(7)=307π^7/1310720*√2
 
  Σcos((2n-1)x)/(2n-1)^4=π/96(π^2-6πx^2+4x^3)(3次式)
では,
         x=π/2          x=π/4
 (0回積分)  0=0            L1(4)=11π^4/1536*√2
 (1回積分)  L(5)=5π^5/1536      L2(5)=2281π^5/24576*√2
 (2回積分)  ζ(6)=π^6/945      L1(6)=57π^5/24576*√2
 (3回積分)  L(7)=61π^7/184320    L2(7)=307π^7/1310720*√2
 (4回積分)  ζ(8)=π^8/9450      L1(8)=172277π^8/2312110080*√2
となる.
 
 今度は逆に微分してみる.
  Σcos((2n-1)x)/(2n-1)^2=π(π-2x)/8(1次式)
を微分することにするが,
 (0回微分) Σcos((2n-1)x)/(2n-1)^2=π(π-2x)/8(1次式)
 (1回微分) Σsin((2n-1)x)/(2n-1)=π/4(0次式)
 (2回微分) Σcos((2n-1)x)=0
 (3回微分) Σ(2n-1)sin((2n-1)x)=0
 (4回微分) Σ(2n-1)^2cos((2n-1)x)=0
 (5回微分) Σ(2n-1)^3sin((2n-1)x)=0
 (6回微分) Σ(2n-1)^4cos((2n-1)x)=0
3回微分以降,右辺はすべて0になる.
 
 そして,
         x=π/2          x=π/4
 (0回微分)  0=0            L1(2)=π^2/6*√2
 (1回微分)  L(1)=π/4         L2(1)=π/4*√2
 (2回微分)  0=0            L1(0)=0
 (3回微分)  L(-1)=0          L2(-1)=0
 (4回微分)  0=0            L1(-2)=0
 (5回微分)  L(-3)=0          L2(-3)=0
 (6回微分)  0=0            L1(-4)=0
となって,ここには負の偶数L1と奇数L2とが現れ,いずれも0となる.
 
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【2】まとめ
 
 x=π/2を代入したときは,予想通り,既知の偶数ゼータと奇数Lの値ばかりであるが,x=π/4では偶数L1と奇数L2の値が明示的に求められ,それらは偶数ゼータの有限和で表されることがわかった.
 
 今回はベルヌーイ多項式の代わりにオイラー多項式を用いたが,やはり奇数ゼータに対しては依然無力であった.奇数ゼータに対して有力な式は,いまのところ
  Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2
しかないのである.
 
 この式に対して,
  ベルヌーイ多項式 ←→ オイラー多項式
のような対応式を掲げておくが,
  Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2 ←→ Σcos((2n-1)x)/(2n-1)=1/2*log(cot(x/2))
である.
 
 これまでにわかっていることをもう一度整理しておきたい.
  (1)奇数ゼータと偶数Lは偶数ゼータの無限和として表される
  (2)奇数L,偶数L1,奇数L2は偶数ゼータの有限和で表される
 
 最後に,このことに関する杉岡氏のコメントを伝えたいのだが「偶数ゼータがすべてのDNAになっているように思える」とのことであった.偶数ゼータと比べると,奇数ゼータはかなり人工的な感じがするというのである.まさに同感であるが,いかがであろうか?
 
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