■奇数ゼータと杉岡の公式(その6)

 2週間ほどの中国出張を終え,先日帰国.既に知られているようにここ数年の中国経済の発展には目を見はるものがあり,町並みの変化もめまぐるしいほどである.21世紀,世界経済の中心がアジアに移ることはまず間違いないが,科学の中心も欧米からアジアに移るだろうと思われる.
 
 そのことを吉林大学の呉学長(機械工学)にお話したところ,
  1)かつて,中国は文化・科学の中心地であった
  2)それがインドからメソポタミア,エジプトを経てヨーロッパへ
  3)ヨーロッパからアメリカへ
  4)そして,再び中国に戻ってくるのだろう
とのことであった.
 
 文化・科学が西回りに地球を1周するという呉学長の大局観には驚かされたが,折しも中国は世界で3番目に宇宙ロケットの打ち上げ回収に成功したばかりであり,単なる誇張ではない.中国がその人口に比例するスケールで生産するとしたら・・・
 
 いわれてみれば確かに,人類の中心が富裕なヨーロッパと北アメリカから,飢えたアジアに移るということは明らかのようだ.文化・科学が西回りに地球を1周する日は近いと思われるのである.
 
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【1】杉岡予想の検証
 
 さて,(その3)では,
  Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2
  Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
からスタートして,ゼータ関数・L関数の公式を導いたが,もうしばらく「杉岡予想」に則って計算を続けてみたい.
 
 杉岡幹生氏がHP上に掲げた公式をみて,小生も
  森口・宇田川・一松「数学公式U」岩波全書
より,ゼータ公式を導くのに利用できそうな公式をいくつかピックアップしてみた.
 
  Σsin(2nx)/n=π/2-x
  Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
  Σsin(2nx)/n^3=1/12{π^3-2π^2x+(2x-π)^3}
  Σcos(2nx)/n^4=1/48{2π^2(2x-π)^2-(2x-π)^4-7π^4/15}
  Σsin(2nx)/n^5=x/90{π^4-10π^2x^2+15πx^3-6x^4}
 
 すぐに気付くことだが,これらは一連の公式である.(↓)方向に積分したものであり,(↑)方向には微分した形になっている.したがって,
  Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
から得られる結果とほとんど同じものになるはずである.
 
           x=π/2          x=π/4
 Σcos(2nx)/n^s  -(1-2^(1-s))ζ(s)   -2^(-s)(1-2^(1-s))ζ(s)
 Σsin(2nx)/n^s    0           L(s)
となることさえ分かればあとは簡単である.ものは試しにやってみよう.
 
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  Σsin(2nx)/n=π/2-x
からスタートすると,
         x=π/2          x=π/4
 (0回積分)  0=0            L(1)=π/4
 (1回積分)  ζ(2)=π^2/6       ζ(2)=π^2/6
 (2回積分)  ζ(2)=π^2/6       L(3)=π^3/32
 (3回積分)  ζ(4)=π^4/90       ζ(4)=π^4/90
 (4回積分)  ζ(6)=π^6/945      L(5)=5π^5/1536
 
  Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
からスタートすると,(その3)に掲げた
         x=π/2          x=π/4
 (0回積分)  ζ(2)=π^2/6       ζ(2)=π^2/6
 (1回積分)  0=0            L(3)=π^3/32
 (2回積分)  ζ(4)=π^4/90       ζ(4)=π^4/90
 (3回積分)  ζ(4)=π^4/90       L(5)=5π^5/1536
 (4回積分)  ζ(6)=π^6/945      ζ(6)=π^6/945
 
  Σsin(2nx)/n^3=1/12{π^3-2π^2x+(2x-π)^3}
では,
         x=π/2          x=π/4
 (0回積分)  0=0            L(3)=π^3/32
 (1回積分)  ζ(4)=π^4/90       ζ(4)=π^4/90
 (2回積分)  ζ(4)=π^4/90       L(5)=5π^5/1536
 (3回積分)  ζ(6)=π^6/945      ζ(6)=π^6/945
 (4回積分)  ζ(6)=π^6/945      L(7)=61π^7/184320
 
  Σcos(2nx)/n^4=1/48{2π^2(2x-π)^2-(2x-π)^4-7π^4/15}
では,
         x=π/2          x=π/4
 (0回積分)  ζ(4)=π^4/90       ζ(4)=π^4/90
 (1回積分)  0=0            L(5)=5π^5/1536
 (2回積分)  ζ(6)=π^6/945      ζ(6)=π^6/945
 (3回積分)  ζ(6)=π^6/945      L(7)=61π^7/184320
 (4回積分)  ζ(8)=π^8/9450      ζ(8)=π^8/9450
 
  Σsin(2nx)/n^5=x/90{π^4-10π^2x^2+15πx^3-6x^4}
では,
         x=π/2          x=π/4
 (0回積分)  0=0            L(5)=5π^5/1536
 (1回積分)  ζ(6)=π^6/945      ζ(6)=π^6/945
 (2回積分)  ζ(6)=π^6/945      L(7)=61π^7/184320
 (3回積分)  ζ(8)=π^8/9450      ζ(8)=π^8/9450
 (4回積分)  ζ(8)=π^8/9450      L(9)=277π^9/8257536
となる.
 
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 予想通り,これらは既知の偶数ゼータと奇数Lの値ばかりであるが,今度は逆に微分してみよう.
 
  Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
を微分することにするが,
 (0回微分) Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
 (1回微分) -Σ2sin(2nx)/n=2x-π
 (2回微分) -Σ4cos(2nx)=2
 (3回微分) Σ8nsin(2nx)=0
 (4回微分) Σ16n^2cos(2nx)=0
 (5回微分) -Σ32n^3sin(2nx)=0
 (6回微分) -Σ64n^4cos(2nx)=0
3回微分以降,右辺はすべて0になる.
 
 そして,
         x=π/2          x=π/4
 (0回微分)  ζ(2)=π^2/6       ζ(2)=π^2/6
 (1回微分)  0=0            L(1)=π/4
 (2回微分)  L(0)=1/2         L(0)=1/2
 (3回微分)  0=0            L(-1)=0
 (4回微分)  ζ(-2)=0          ζ(-2)=0
 (5回微分)  0=0            L(-3)=0
 (6回微分)  ζ(-4)=0          ζ(-4)=0
となって,ここには負の偶数ゼータと奇数Lが現れ,いずれも0となる.
 
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【2】まとめ
 
 以上のことより,
  Σsin(2nx)/n=π/2-x
  Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2-π^2/12
  Σsin(2nx)/n^3=1/12{π^3-2π^2x+(2x-π)^3}
  Σcos(2nx)/n^4=1/48{2π^2(2x-π)^2-(2x-π)^4-7π^4/15}
  Σsin(2nx)/n^5=x/90{π^4-10π^2x^2+15πx^3-6x^4}
などの公式が,偶数ゼータと奇数Lの計算に有用であるとする「杉岡予想」は正しいことが確かめられた.
 
 結局,
  Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2
だけがこれらとは性質の異なる公式であり,奇数ゼータと偶数Lを求めるために有用ということになる.
 
 ところが,公式
  Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2
と同系列の公式を求めようとすると,
  Σsin(2nx)/n^2=-2xlog(sinx)-∫(0,2x)log(sint/2)dt
  Σcos(2nx)/n^3=ζ(3)+2x^2log2+∫(0,2x)(2x-t)log(sint/2)dt
などのようになってしまい,初等関数では表されないことがわかる.
 
 奇数ゼータと偶数Lを制覇するには,いまのところ
  Σcos(2nx)/n=-log(sinx)-log2
を含めたこれらの関数を攻略するしかないのであるが,これ以上積分を重ねることは不可能と思われた.
 
 反対に,元の式(0回微分)
  log(sinx)=-Σcos(2nx)/n-log2
を微分した場合には,
 (1回微分) cotx=2Σsin2nx
 (2回微分) -cosec^2x=4Σncos2nx
 (3回微分) 2cosx/sin^3x=-8Σn^2sin2nx
 (4回微分) -2(3-2sin^2x)/sin^4x=-16Σn^3cos2nx
 
 したがって,
         x=π/2          x=π/4
 (0回微分)  log2=1-1/2+1/3-1/4+・・・  log2=1-1/2+1/3-1/4+・・・
 (1回微分)  0=0            L(0)=1/2
 (2回微分)  ζ(-1)=-1/12       ζ(-1)=-1/12
 (3回微分)  0=0            L(-2)=-1/2
 (4回微分)  ζ(-3)=1/120       ζ(-3)=1/120
のように,負の奇数ゼータと偶数Lが交互に出現する.これはこれとして面白い結果であろう.
 
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