■奇数ゼータと杉岡の公式(その4)

 さて,このシリーズでは杉岡氏の初等的な方法から派生したζ(2n+1)の関連式を掲載してきたが,その後の杉岡氏からの情報によると,これらの結果をほとんど網羅した論文が既に出ているとのことであった.
 
 それがつい最近の論文であったこともあり,氏にとってはショッキングであったようであるが,杉岡の公式が初めての結果でないことはあらかじめ予想されていた.
  http://www-2.cs.cmu.edu/~adamchik/articles/sums/zeta.pdf
によると,美しい式
  ζ(3)=-4π^2/7・Σζ(2n)/(2n+1)(2n+2)2^2n
は,かのオイラーも発見していて,その後,何度か再発見されていることが書かれていたからだ.
 
 オイラー自身が発見して後に再発見された式には,ビネの公式などもあげられ,このようなことは稀ではないだろう.このことについて悲観する必要はないと思う.
 
 小生は,むしろ,杉岡氏が高校生でもわかるような初等的な導き方をしたことこそが評価に値すると考えている.そのような導き方こそ杉岡イズムの真骨頂であり,「杉岡の公式」と冠しても決して恥ずべきことではないだろう.本コラムでは,杉岡氏へのエールも込めて,杉岡の公式シリーズ3,4,5,・・・と続けていきたいと思う.
 
 この記事は,杉岡氏へのエールをなんとか中国へ行く前に済ませておきたいという一念から短時間に書いたものであるが,今後,このシリーズがどのように展開するのか楽しみである.
 
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【1】杉岡の公式を解くカギ(再考)
 
 結局,キーとなる式は
  log(sinπx/πx)=-2Σζ(2n)/2n・x^(2n)
ということになるわけですが,小生は無限積
  sinπx/πx=Π(1-x^2/k^2)
からこの式を導き出すことには失敗しておりました.
 
 そこで,杉岡氏に
  sinπx/πx=Π(1-x^2/k^2) → log(sinπx/πx)=-2Σζ(2n)/2n・x^(2n)
を導き出すことをお勧めしたところ,氏は実に自然な形で導いてくれました.初等的かつガンマ関数を用いなくとも簡単にでます.これも杉岡の公式の真骨頂といえるでしょう.
 
(証明)
  sinπx/πx=Π(1-x^2/k^2)
の両辺の対数をとると,
  log(sinπx/πx)
  =log(1-x^2/1^2)+log(1-x^2/2^2)+log(1-x^2/3^2)+・・・
 
 ここで,log(1+x)のマクローリン展開
  log(1+x)=x-x^2/2+x^3/3-x^4/4+・・・
を使います.すると,
  log(1-x^2/1^2)=-x^2-x^4/2-x^6/3-x^8/4-・・・
  log(1-x^2/2^2)=-x^2/2^2-(x^4/2^4)/2-(x^6/2^6)/3-(x^8/2^8)/4-・・・
  log(1-x^2/3^2)=-x^2/3^2-(x^4/3^4)/2-(x^6/3^6)/3-(x^8/3^8)/4-・・・
 
 両辺をたしあわせると,右辺は
  -(1/1^2+1/2^2+1/3^2+・・・)x^2-(1/1^4+1/2^4+1/3^4+・・・)x^4/2-(1/1^6+1/2^6+1/3^6+・・・)x^6/3-・・・
  =-ζ(2)x^2-ζ(4)x^4/2-ζ(6)x^6/3-・・・
  =-2{ζ(2)x^2/2+ζ(4)x^4/4+ζ(6)x^6/6+・・・}
となり
  log(sinπx/πx)=-2Σζ(2n)/2n・x^(2n)
が証明されます.
 
 無限級数表示
  sinx/x=Σ(-1)^kx^2k/(2k+1)!
から直接でるかどうかは,ちょっと見当がつきませんが,
  log(sinπx/πx)=-2Σζ(2n)/2n・x^(2n)
が証明できたということは,(その1)で紹介した論文
  http://www.math.umd.edu/~asnowden/math/exp.pdf
は,本質的には不要ということになります.
 
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【2】新参公式集
 
 杉岡氏の下には,続々と新規の公式が彼自身あるいはその読者によって発見され,集積されているようです.
 
 まず,予想されていたものとしては
  ζ(7)=-4π^6/5715logπ+49π^6/28575-8π^4/381ζ(3)+32π^2/127ζ(5)+128π^6/127・Σζ(2n)/2n(2n+1)(2n+2)(2n+3)(2n+4)(2n+5)(2n+6)2^2n
  ζ(7)=8π^6/57150logπ-116π^6/571500-8π^4/1905ζ(3)+96π^2/635ζ(5)-128π^6/635・Σζ(2n)/2n(2n+2)(2n+3)(2n+4)(2n+5)(2n+6)2^2n
から,ζ(7)を消去した
  ζ(5)=(π^4/96)((4/5)logπ-137/75)+π^2ζ(3)/6-2π^4Σζ(2n)/2n(2n+1)(2n+2)(2n+3)(2n+4)(2n+5)2^(2n)
この式の収束性はこれまでのζ(5)の式の中で最速のものとなっています.
 
 ζ(5)の結果を収束の速い順に並べると,
  ζ(5)=(π^4/96)((4/5)logπ-137/75)+π^2ζ(3)/6-2π^4Σζ(2n)/2n(2n+1)(2n+2)(2n+3)(2n+4)(2n+5)2^(2n)
  ζ(5)=2/31{(π^4/3)(logπ-25/12)+4π^2ζ(3)-16Σζ(2n)π^4/2n(2n+1)(2n+2)(2n+3)(2n+4)2^(2n)}
  ζ(5)=2/93{-(π^4/3)(logπ-13/12)+4π^2ζ(3)+16Σζ(2n)π^4/2n(2n+2)(2n+3)(2n+4)2^(2n)}
 
 また,
  ζ(5)=2/31{(π^4/3)(logπ-25/12)+4π^2ζ(3)-16Σζ(2n)π^4/2n(2n+1)(2n+2)(2n+3)(2n+4)2^(2n)}
  ζ(5)=2/93{-(π^4/3)(logπ-13/12)+4π^2ζ(3)+16Σζ(2n)π^4/2n(2n+2)(2n+3)(2n+4)2^(2n)}
から,ζ(3)を消去すれば,
  ζ(5)=π^4/31{19/18-2/3logπ+16Σζ(2n)/2n(2n+1)(2n+3)(2n+4)2^(2n)}
がでるということです.これもきれいですよね.
 
 さらに,数学愛好家・Sugimoto氏は
  logπ=1+Σζ(2n)/2n(2n+1)2^(2n-1)
用いてlogπを消去することにより,次の式を出されました.
  ζ(5)=2π^4/(3(2^5-1))Σ{log2+Σ(2n+5)ζ(2n)/(n+2)(2n+3)2^2n}
これはSugimoto氏のHP
  http://homepage3.nifty.com/y_sugi/gf/gf24.htm.
に既に掲載されているそうです.
 
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 小生が(その3)で追加した公式
  Σζ(2n)/2n・2^2n=1/2・logπ-1/2・log2
  Σζ(2n)/2n・4^2n=1/2・logπ-3/4・log2
  Σζ(2n)/2n(2n+1)・2^2n=1/2・logπ-1/2
  Σζ(2n)/2n(2n+1)・4^2n=1/2・logπ-1/2・log2-1/2+1/π・L(2)
 
  ζ(3)=-4π^2/35log(π/2)+6π^2/35+16π^2/35・Σζ(2n)/2n(2n+1)(2n+2)4^2n
  ζ(3)=-π^2/6logπ+11π^2/36+2π^2Σζ(2n)/2n(2n+1)(2n+2)(2n+3)2^2n
  ζ(3)=-π^2/24log(π/2)+11π^2/144+π^2/2Σζ(2n)/2n(2n+1)(2n+2)(2n+3)4^2n+2/π・L(4)
 
  ζ(5)=4π^4/1581log(π/2)-25π^4/4743+64π^2/527ζ(3)-64π^4/527・Σζ(2n)/2n(2n+1)(2n+2)(2n+3)(2n+4)4^2n
  ζ(5)=π^4/120logπ-137π^4/7200+π^2/6ζ(3)-2π^4Σζ(2n)/2n(2n+1)(2n+2)(2n+3)(2n+4)(2n+5)2^2n
  ζ(5)=π^4/1920log(/2)-137π^4/115200+π^2/24ζ(3)-π^4/8Σζ(2n)/2n(2n+1)(2n+2)(2n+3)(2n+4)(2n+5)4^2n+2/π・L(6)
 
  ζ(7)=-8π^6/371475log(π/2)+98π^6/1857375-64π^4/24765ζ(3)+1024π^2/8255ζ(5)+256π^6/8255Σζ(2n)/2n(2n+1)(2n+2)(2n+3)(2n+4)(2n+5)(2n+6)4^2n
 
などもそれらの新参公式に含まれると思われます.ともあれ,杉岡の方法を利用すると,いくらでも新たな公式をデザインすることができるので,今後どんな公式が現れようが驚く必要はないものと思われます.
 
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