■平面曲線の話

 古来より、美しい曲線や図形は人々の感性に訴え、深い感動を与えると同時に、理性にも訴え、なぜこうなっているのかという研究に駆りたててきました。代数学(数)は幾何学(図形)と張り合う数学の領域として発展してきたのですが、今日では数と図形の統一がなされ、代数学、幾何学、解析学が絡み合い、溶け合って、ひとつの統一世界を作っています。それが「代数幾何学」と呼ばれる領域で、難解な数学用語を使うならば代数的閉体上で展開された位相的概念を伴った代数学ということができます。

 不思議なことに、そこを突き詰めて考えていくと素数とかフェルマーの定理とか深くて広い世界があるという・・・。不思議な世界を垣間みることにしましょう。


1.代数曲線

 2変数x,yの多項式f(x,y)=0で定義される曲線を平面代数曲線と呼びます。f(x,y)=0が2次式の場合、その一般式は、

ax2 +hxy+by2 +cx+dy+e=0

のごとく、項数6の多項式として書くことができます。2次曲線には楕円、放物線、双曲線があり、それらは円錐(必ずしも直円錐でなくてよい)を平面で切断したときの切り口として現れる一群の曲線、すなわち円錐曲線です。

 ある緯度の位置に立てられた棒の影の先端が描く曲線は、その緯度によって楕円、放物線、双曲線のいずれかを描きます。また、天体力学では互いに引力を及ぼしあっている二つの物体は楕円、放物線、双曲線のうちのいずれかの軌道になります。例えば、地球から打ち上げた人工衛星の初速が秒速7.9km(第1宇宙速度)のとき円、それ以上で秒速11.2km(第2宇宙速度)以下のとき地球を焦点とする楕円、秒速11.2kmのとき放物線、それより速いときは双曲線を描くといった具合です。放物線軌道、双曲線軌道になると地球の重力圏を脱出し、もう地球に戻ってくることはありません。このように、円錐曲線は天文学において重要な役割を果たすことになり、力学と幾何学の間には美しい調和が存在していることになります。

 一直線上にない3点を通る2次曲線、3点を通る3次曲線はただひとつ存在しますが、それは座標軸の方向が定まっている場合であって、一般には、平面上の任意の位置にある5点が唯一の円錐曲線を決定します。ニュートンは「プリンキピア」のなかで5点を通る円錐曲線の作図法などを案出しながら壮大な天体力学を展開しています(→【補】)。

 同様に、3次曲線とはf(x,y)=0が2変数x,yの3次あるいは3次以下の方程式で与えられた曲線です。3次曲線の例としては、ディオクレスのシッソイド(x3 +xy2 =y2 )があげられますが、これは古代ギリシアにおいて立方体倍積問題に用いられた曲線です。また、

y=x3 +x2 +x+1

3 =xy2 −2x2 y+y−3

なども3次曲線で、一般式の項数は10になります。

 平面内の2次曲線や空間内の2次曲面の分類はよく知られていて、高校で習うところです。2次曲線の分類については、3種類の円錐曲線、すなわち楕円、双曲線、放物線になることは既に述べたとおりですが、同じことをもっと高次の曲線・曲面に対して考えるのは自然なことでしょう。3次曲線の分類には、2次曲線とは異なった種類の難解さが要求されましたが、ニュートンはあらゆる場合を考察して、最終的に3次曲線は全部で78種類が必要であることを示すに至り、さらに3次曲線の一般式が5個の標準形に帰することを示しました。ニュートンはこうした研究を応用して、2次曲線上の5点、3次曲線上の7点が与えられた場合にこれを作図する方法を見いだしています。

 4次曲線(項数15)とか5次(項数21)以上の高次曲線も考えることができますが、1900年当時まで、5次曲線までと3次曲面までのトポロジカルな分類は既に知られていたようです。2次曲面f(x,y,z)=0は楕円面、一葉双曲面、二葉双曲面、楕円放物面、双曲放物面のどれかに分類されます。また、3次曲面f(x,y,z)=0には無数に多くの直線がのっているか(その場合には線織面と呼ばれる)、そうでなければ、高々27本の直線しか含まないことが証明されています(サルモン,1884年)。


2.楕円曲線

【2次曲線のパラメータ表示例】

 原点を中心とする半径1の円:x2 +y2 =1の円周上の点を(x,y)とすれば、第3の変数θを媒介として、x=cosθ,y=sinθと表されます。θは(x,y)と(0,0)、θ/2は(x,y)と(−1,0)を結ぶ直線とx軸とのなす角を表しています。さらにt=tan(θ/2)   (−1≦t≦1)とするとtan(θ/2)=sinθ/(1+cosθ),cosθ=(1−t2 )/(1+t2 ),sinθ=2t/(1+t2 )より、

x=±(1−t2 )/(1+t2 ),y=(2t)/(1+t2

と表すことができます。

 単位円上のすべての有理点(座標x,yが有理数であるような点)は、x=±(1−t2 )/(1+t2 ),y=(2t)/(1+t2 )とx=−1,y=0です。このように、円の有理点全体は1つの変数tによって一意化できますが、円ばかりではなく、現在では2次曲線に1つでも有理点があると実は無限に有理点があることがわかっています。2次曲線は有理点を無限のもつか、1つももたないかのどちらかです。

【3次曲線のパラメータ表示例】

 デカルトの正葉線:x3 −3axy+y3 =0(a>0)では、y/x=t、すなわちy=txとおくことによってパラメータ表示の形に書くことができます。

x=3at/(1+t3 ),y=3at2 /(1+t3

この3次曲線は重根をもち、原点(0,0)が特異点になります。

 f(x,y)=0が3次式のとき、その曲線上に特異点と呼ばれる点が存在するかどうかで、曲線のもつ性質が大きく異なってきます。特異点があれば、適当なパラメータtによりx,yはtの多項式として表されます。xとyがtの有理式として表されるとき、有理曲線となり、2次曲線とよく似た性質をもちます。

 一方、特異点がなければ、楕円曲線と呼ばれる非有理曲線で2次曲線とは本質的に異なってきます。2次曲線はすべて有理曲線ですが、楕円曲線は有理曲線でないことが知られています。したがって、楕円と以下に解説する楕円曲線は性質の異なる曲線です。

 y=ax3 +bx2 +cx+dという方程式で定まる曲線はおなじみの3次曲線ですが、yのところがy2 に変わると楕円曲線:y2 =ax3 +bx2 +cx+dになります。ただし、a,b,c,dは有理数で、右辺の3次式は重根をもたないものと仮定します。カルダノの方法として知られている3次方程式の根の公式でも未知数を変換して2次の項をなくした方程式に変換しています。実はカルダノではなくフォンタナ(通称タルタリア)の発見した解法であるというエピソードはいろいろな数学史の書物に取り上げられているのでご存じの方も多いと思われますが、x2 の項の係数はx’=x+b/3aと変数変換することによって簡単に消すことができますから、

2 =x3 +ax+b   (4a3 +27b2 ≠0)

を楕円曲線と定義しても構いません。4a3 +27b2 ≠0は重根をもたないための条件です。

 フェルマー曲線xn +yn =1は、nが奇数の場合、y=−xを漸近線とする長くゆるやかに曲がった弓形曲線、nが偶数の場合、テレビのブラウン管のような押しつぶされた円形になり、nが大きくなるにつれて正方形に近づいていきます。フェルマーの問題を解くことは、2変数n次多項式f(x,y)=xn +yn −1=0に、有理数解があるかどうかを考える問題に対応します。楕円曲線はフェルマー予想の解決で注目された曲線(→【補】)で、楕円曲線と三点で交わる直線で、そのうちの二つの交点の座標がわかれば他の一点の座標も計算でき、二つの点の座標が有理数ならば、他の一点の座標も有理数であるなどの性質をもっています。楕円曲線の例として、y2 =x3 +1をあげますが、この曲線のグラフはまったく楕円ではありません。楕円と楕円曲線はまったく異なるもので、楕円の孤の長さを求める楕円積分問題とかかわっていることから楕円曲線という名前がつけられています。

 x座標もy座標も整数である点を整数点、座標が有理数である点を有理点といいます。楕円曲線:y2 =x3 +1には無限に多くの整数点があるでしょうか。あるいは一つでも整数点はあるでしょうか。実は、これには整数点は(2,±3),(0,±1),(−1,0)の5つしかありません。また、この楕円曲線には有理点もやはりこの5つしかないのです。また、y2 =x3 −2は(3,±5)以外の整数点をもちませんが、無数に有理点が得られます。

 少し挑戦してみると分かるのですが、これらを証明するのはほとんど不可能に見えるほど難しい問題です。楕円曲線上に有理点が無限個のっていたり、有限個であったり、あるい全くなかったりすることは図をいくらにらんでもわからない問題ですが、これ以上は追求しないでおきましょう。

 なお、一見無関係に見えますが、巨大な整数の素因数分解に楕円曲線を応用する方法がレンストラによって発見され、最も強力な素因数分解法になっています。現在、大きな素数を素因数分解するのに有用なアルゴリズムとして「楕円曲線法」と「平方ふるい法」とが知られていますが、楕円曲線は、数論研究に非常に役立っています。


3.レムニスケート(双葉曲線)と2重周期関数

 2定点(−a,0),(a,0)からの距離の和が一定となる点の軌跡は楕円、差が一定の点の軌跡は双曲線です。また、商が一定の点は円(アポロニウスの円)を描きます。それでは積が一定の点はどのよう軌跡を描くでしょうか。

(答)はカッシーニ曲線。

{(x+a)2 +y2 }{(x−a)2 +y2 }=c2

(x2 +y22 −2a2 (x2 −y2 )=c2 −a4

4 −2a22 cos2θ+a4 =c2

 2次の多項式f(x,y)=0、すなわち楕円、放物線、双曲線が円錐を平面で切断したときの切り口として現れたように、カッシーニ曲線はトーラス(ドーナツ)の平面による切断面として現れることが知られています。

 定数cが2定点間の距離の半分aの2乗に等しいとき、レムニスケート(双葉曲線)と呼ばれます。レムニスケートは8の字形(8を90°回転した形)をしていて、その直交座標系での方程式は4次曲線(x2 +y22 =2a2 (x2 −y2 ),極座標系ではr2 =2a2 cos2θとなります。とくに、2定点を(−1/浮Q,0),(1/浮Q,0)と定めると、レムニスケートの方程式は極座標で書くとr2 =cos2θ、直交座標で書くと(x2 +y22 =x2 −y2 となります。レムニスケートには円に共通する性質があり、定規とコンパスだけで奇数のn等分することができる必要十分条件はnがフェルマー素数(n=22^m+1の形の素数:3,5,17,257,65537)であることです。

 三角関数は周期2πをもつ一変数一周期の実関数です(sin(x+2π)=sinx)。他の周期はその整数倍2nπですから二重周期ではありません。指数関数exp(x)も複素数の世界にはいると、オイラーの等式exp(2πi)=1よりexp(z+2πi)=exp(z)ですから周期2πiをもちますが、これも単周期関数です。

 アーベルとヤコビは一変数二重周期の複素関数、すなわち、f(z+p+q)=f(z+p)=f(z+q)=f(z)を満たすような関数を発見し、さらに、ヤコビは二変数四重周期の関数f(z+a+b,w+c+d)=f(z,w)を発見しています(→【補】)。このように、複素関数のなかには2重周期をもつものがありますが、これはドーナツ面(円環面)上の関数と見ることができます。なぜなら、ドーナツ面は環状に並べられた円と考えることができるからです。

 アーベルはレムニスケートが複素変数の有理型関数に拡張できることを明らかにし2重周期関数となることを示しました。楕円曲線は複素数射影平面(4次元)内の曲面とみたとき、ドーナツ面と同相(示性数1)で、この関数の研究は楕円関数の研究につながるものであったのです。


4.サイクロイド

 固定した直線上を円が滑らずに転がるとき、回転円上の固定点のなす軌跡はサイクロイドと呼ばれ、回転円の半径をrとすると

x=r(θ−sinθ),y=r(1−cosθ)

と書くことができます。この曲線は2変数多項式f(x,y)=0の形に表せませんから、代数曲線でありません(→【補】)。サイクロイドにはいくつかの興味深い特性があります。

【最速降下線】

 1696年、ベルヌーイによってヨーロッパ中の優れた数学者に対して、重力だけの作用の下で滑らかな曲線に沿って運動するとき、到達時間が最小になるような曲線は何か?という「最速降下線」の問題が提出されました。ニュートンは直ちにこれを解き、匿名で解答を送ったが、ベルヌーイはその解法を見てすぐに解答者を知ったという逸話は余りにも有名です。その答えがサイクロイドだったのです。そして、重力場において2点間を滑りおりる最短時間の曲線の問題を解決するために工夫された方法が、のちに変分学に発展しました。

【等時曲線】

 ガリレオ・ガリレイは16世紀の終わりにピサの斜塔で有名な落体の実験を試みましたが、さらに大聖堂のシャンデリアの動きから振子の等時性を発見しています。振り子の運動方程式:

mldθ2 /d2 t=−mgsinθ

は小さな振幅に限るとsinθ帥ニとしてよいので線形の方程式となり、解くことができます。振幅が小さいときの振り子の運動は線形現象の一例で、周期T=2π浮戟^gが振幅によらないという有名な「振り子の等時性」は振幅が小さい場合に限って成立します。しかし、振幅が大きいと復元力はsinθに比例し、積分は楕円関数となります。楕円積分(初等関数をいくら組み合わせても得られない関数)が登場するため、線形性はくずれ非線形になります。

 ホイヘンスはサイクロイドが等時曲線であることを発見しました。等時曲線であるサイクロイドを用いると、周期が振幅に依存しない正確に等時性をもった振り子が作れます。振幅角が大きいとき振子の長さを短くすればよいのですが、等時性からのずれを補正するためにサイクロイドの縮閉線を利用します。サイクロイド振り子の周期はT=4π浮秩^gです。

 サイクロイドはそもそもガリレイによって発見され、ホイヘンスによって振子時計の設計に使われ、そしてパスカルの積分法の研究にも貢献しています。サイクロイド弧が囲む面積は3πr2 (回転円の面積の3倍に等しい)、弧長は8r(回転円に外接する正方形の周に等しい)になります。


5.カテナリー(懸垂線)

 ひもの両端を固定しぶら下げてできる曲線を懸垂線(カテナリー)といいます。懸垂線はちょっと考えると放物線ではないかと思われがちですが、放物線よりもずっときつく上昇する曲線で、代数曲線ではありません。懸垂線は双曲線関数

y=a/2(ex/a −e-x/a

によって定義されます(→【補】)。

 懸垂線の問題を解いたのがベルヌーイであったのですが、変分法によって、懸垂線は与えられた2点を両端とする一定の長さの曲線をx軸を軸として回転させたときにできる曲面の表面積を最小にする曲線であることが導かれます。なお、体積が最大になる曲線は楕円関数になります。


6.伸開線と縮閉線

 曲線Lのまわりに巻かれた糸があり、この糸をぴんと張ったままほどくと糸の自由端によって曲線Mが描かれるとします。MをLの伸開線(インボリュート)、LをMの縮閉線(エボリュート)と呼びます。

 円の伸開線、すなわち円に巻きつけた糸の一端の軌跡は

x=a(cosθ+θsinθ),y=a(sinθ−θcosθ)

と表され、歯車の歯形として工学に応用されています。また、放物線:y=x2 の縮閉線はy=1/2+3(x/4)2/3 です。逆に、半立方放物線:y2 =ax3 の伸開線は放物線になります。

 サイクロイド:x=r(θ−sinθ),y=r(1−cosθ)の縮閉線は

x=a(θ+sinθ),y=−a(1−cosθ)

です。ここで、θ=π+tとおけば

x=a(t−sint)+aπ,y=a(1−cost)−2a

ですから、もとのサイクロイドと合同なサイクロイドになることが示されます。

 カテナリー(懸垂線)の伸開線はトラクトリックス(追跡線)と呼ばれています。

x=a(logtan(θ/2)+cosθ),y=asinθ

追跡線上の点と、その点での接線がx軸と交わる点との距離aは常に一定です。この性質が追跡線というこの曲線の名前の由来で、ある長さのひもの先に石を結びつけて引っ張りながらx軸上を歩くと、石の通る軌跡が追跡線になります。追跡線をx軸(漸近線)のまわりに回転すると、曲率が負で一定の曲面(擬球面)ができます。定数aをその擬半径といいます。驚いたことに、この曲面上の幾何学はユークリッド幾何学の平行線の公理を「直線外の1点を通り、その直線に平行な直線は無数に存在する」によって取り替えて導かれる双曲的非ユークリッド幾何学と同じになります。双曲的非ユークリッド幾何学はボヤイとロバチェフスキーがそれぞれ独立に、しかもも同じ時期に発見したものです。


【補】パスカルの定理

 パスカルの定理とは、「円錐曲線、すなわち楕円、双曲線、放物線に内接する任意の六角形の三組の対辺の交点は同一直線上にある。」というもので、この定理の重要な系が「円錐曲線は任意の5点で一意に定まる」です。

 パスカルはこの有名な定理をわずか17才の時に発見したのですが、これは射影幾何学の基本定理の一つになっています。射影幾何学とは、長さや角の大きさに無関係に、例えば、いくつかの点がある直線上にあるといった関係、射影によって不変な図形の性質、を研究する学問で、射影平面上では、円錐曲線はただ1種類しかなく、双曲線・放物線・楕円などの区別はなく、どれも同種の曲線となります。

 また、射影平面上では点という語と直線という語を入れ替えても定理は成り立っています。これをポンスレーの双対原理と呼び、射影幾何学の最も美しい特質です。パスカルの定理から150年以上たって、その双対(円錐曲線の外接する6辺形の対角線は1点で交わる)が発見されたのですが、それがブリアンションの定理です。

【補】モーデル・ファルティングスの定理

 モーデル・ファルティングスの定理(1983)とは、「種数が2以上の代数曲線は有理点を有限個しかもたない。」というものです。2次曲線のように有理点全体を1つの変数でパラメータ表示できる曲線を種数が0の曲線と呼んでいます。一方、種数が1である曲線に楕円曲線があります。したがって、有理点が無数にあるような曲線は種数が0か1ということになり、直線(種数0)か、円錐曲線(種数0)か、楕円曲線(種数1)に限られてきます。

 また、リーマン・フルヴィッツの公式よりフェルマー曲線は種数が(n−1)(n−2)/2で、これはn=3のとき1ですが、n≧4のときは2以上となりますから、そこでフェルマーの予想を征するために必要となるのが楕円曲線であったというわけです。

【補】保型関数

 有理変換(メビウス変換)z’=(az+b)/(cz+d)は円を円に変換します。実は、周期性とは有理変換によって不変、すなわち、f((az+b)/(cz+d))=f(z)の特別な場合にすぎません。有理変換によって不変なこの関数は存在し、保型関数と呼ばれていますが、三角関数は楕円関数の特殊な場合であり、さらに、楕円関数は保型関数の特殊な場合に相当しています。

 楕円積分の逆関数として導入された楕円関数は2つの相異なる周期(二重周期性)をもつ関数で、楕円曲線はこの楕円関数でパラメトライズされる関数ですが、さらに保型関数でパラメトライズされるというのが、有名な谷山・志村予想です。

 不幸にして夭折したアーベルの夢は、楕円関数を超えるような、さらに興味深い超越関数の発見にありました。後世の人々は多変数の多重周期有理型関数(アーベル関数)や保型関数を発見してその夢を実現させています。

【補】エピサイクロイド・ハイポサイクロイド

 回転円が固定円に接して滑ることなく転がっていくとき、回転円の周上の点の軌跡を考えます。回転円が固定円に外接するとき、その軌跡をエピサイクロイド、内接するとき、ハイポサイクロイドと呼びます。たとえば、固定円と回転円の半径が等しい場合、エピサイクロイドは心臓型曲線(カーディオイド)を描きます。また、星形曲線アステロイドは固定円の半径が回転円の半径の4倍になっているハイポサイクロイドです。

 エピサイクロイド(カージオイド、ネフロイドなど)、ハイポサイクロド(デルトイド、アステロイドなど)は、サイクロイドとは異なり代数曲線です。

【補】双曲線関数

 オイラーの公式eix=cosx+i・sinxより

sinx=(eix−e-ix)/2,cosx=(eix+e-ix)/2が導かれますが、この右辺からiを取り去って

sinhx=(ex −e-x)/2,coshx=(ex +e-x)/2

と定義される関数がそれぞれ双曲正弦関数、双曲余弦関数です。

 すなわち、双曲余弦関数が懸垂線で、三角関数との関係は、

sinhix=isinx,coshix=cosx

になっています。 双曲線関数は、当然ながら三角関数とよく似た性質があり、sinhxは奇関数、coshxは偶関数で、cos2 x+sin2 x=1に対応してcosh2 x−sinh2 x=1が成り立ちます。この式が双曲線の標準形:

2 /a2 −y2 /b2 =1

に似ていることから、双曲線関数という名前の由縁になっています。ちなみに三角関数のことを円関数ともいいます。