■高次元の正多胞体(その5)

 3次元正多面体が5種類あって5種類しかないことは,オイラーの多面体定理(v−e+f=2)と握手定理(多面体の1つの頂点に集まる面の形と数をp,qとすると,pf=2e,qv=2e)から簡単に証明できます.
 
 高次元でも3次元と同様の方法によって正則胞体を定めることができるはずなのですが,いざ「4次元正胞体は6種類,5次元以上では3種類ある」ことを証明しようとすると簡単にはいきません.
 
 4次元空間では,オイラー・ポアンカレの公式:
  v−e+f−c=0
が成り立ちます.しかし,3次元のときとは違って,4次元(偶数次元)ではオイラー・ポアンカレの公式に定数項がないため,それだけでは頂点,辺,面,胞数の計算ができないという壁にぶつかるのです.
 
 先日,神奈川県立図書館より
  一松信「高次元の正多面体」日本評論社
を借用しこの連休を利用して通読することができたのですが,そこにはこの壁の突破の仕方が幾通りか触れられています.しかし,「ユークリッド空間の有限群(正多面体)または無限離散群(空間充填形)になるのは,4つの無限系列と6つの例外的な場合に限る」といった群論的な方法ではハードすぎて歯が立ちそうにありません.
 
 そのため,この本でも基本単体数gとペトリー数hの対称性を利用して胞数を計量的に求めています.今回のコラムでは,以前に書いたコラム「4次元・5次元を垣間みる」を含め,これまでの一連のシリーズを新たに得た知識でもって補完したいと思います.
 
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【1】3次元の正多面体
 
 正多角形は無限に多く存在しますが,それでは,
(問)互いに合同な正多角形を隙間も重なりもないように並べて平面を完全に埋める仕方が何通りあるでしょうか?
 
 この問題は昔から知られていて,それが3種類に限ることは以下のようにして証明されます.
(答)正多角形の中で平面をタイル張りのように隙間なく埋めつくすことができる平面充填形では,各頂点に正p角形がq面が会するとすると,正p角形の一つの内角は2(1−2/p)×90°であり,一つの頂点の回りの内角の和はこれがq個集まって四直角ですから,
  2q(1−2/p)=4,すなわち,
  1/p+1/q=1/2   (p,q≧3)
あるいは
  λ=1/p+1/q−1/2=0
で,この条件を満たす(p,q)の組は(3,6),(4,4),(6,3)の3通りしかありません.したがって,平面充填形は正三角形,正方形,正六角形の3つだけです.このうち正方形のは碁盤,正六角形のは蜂の巣などでおなじみでしょう.
 
 2次元の平面の中に正多角形は無限に多くあるのに反して,3次元の空間には無限に多くの正多面体は存在しません.平面充填形は,面数が無限大となって全体が一面に広がってしまった正多面体と解釈することができますが,平面充填形の場合と同様にして,正多面体の各面を正p角形,各頂点にq面が会するとすると,頂点の周囲は4直角未満ですから,不等式
  2q(1−2/p)<4,すなわち,
  1/p+1/q>1/2   (p,q≧3)
  (p−2)(q−2)<4
が正多角形となる必要条件です.
 
 このような整数の組は(p,q)=(3,3),(3,4),(3,5),(4,3),(5,3)の5通りで,それぞれ,正4面体,正8面体,正20面体,正6面体,正12面体に対応します.すなわち,正多面体は正4・6・8・12・20面体の5種類あって5種類しかないことはプラトンの時代にはすでに見つけられていて,それらがプラトンの自然哲学で重要な役割を演ずるところから,正多面体はプラトンの立体(Platonic solid)とも呼ばれています.
 
  λ=1/p+1/q−1/2>0
  v=2/qλ,e=1/λ,f=2/pλ
はそのための必要条件ですが,十分条件を得るには実際に構成してみることが要求されます.ご存知のように5種類とも実現可能で,さらにこれらは各面が正p角形,各頂点が正q角錐の凸正多面体になっています.
 
 平面充填形はλ=0の場合にあたっているので,広義の正多面体と考えることができます.また,広義の正多面体というと星形正多面体があります.凹正多面体にはケプラーとポアンソの発見した4種類の星形正多面体がありますが,このことは上記の方法では証明できません.
 
 正多面体の変換群は,3種類の回転対称性:
  正4面体群=A4(4個の要素からなる偶置換全体=交代群)
  立方体(正8面体)群=S4(4個の要素からなる置換全体)
  正12面体(正20面体)群=A5(5個の要素からなる偶置換全体)
に限られるのですが,コーシーは星形正多面体を定める証明に変換群を用いています(1811年).
 
 なお,3次元空間の回転対称性には,この他に,正n角錐のもつ巡回群Cnと正n角柱のもつ二面体群Dnがあります.桜の花はC5,雪の結晶はC6というわけです.
 
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【2】高次元の正多胞体
 
 n次元空間の正多胞体とは「n個の超平面に囲まれ,全体の中心onから各頂点o0,各辺の中点o1,各面の中心o2,・・・,各超辺の中心on-2,各超平面の中心on-1までの距離がそれぞれ相等しく,そのm次元成分はすべてm次元の正多胞体である」と定義されます.
 
 2次元の正多角形はその辺数pで,3次元の正多面体は面の辺数pと各頂点に会する面の個数qをペアにしたシュレーフリ記号(p,q)で表されます.それと同様に,n次元正多胞体ではシュレーフリ記号を一般化して,n−1次元超平面(p1,p2,・・・,pn-2)が3次元低い構成要素上にpn-1個ずつ会する,
  (p1,p2,・・・,pn-2,pn-1)
で表現されます.
 
 たとえば,
  n次元正単体は(3,3,・・・,3,3),
  双対立方体は(3,3,・・・,3,4),
  超立方体は(4,3,・・・,3,3)
と表されます.これを逆順にした(pn-1,pn-2,・・・,p1)で表される正多胞体が双対正多胞体です.
 
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 また,onon-1・・・o1o0を結んだn次元単体を基本単体と呼びます.o0o1,o1o2,・・・,on-1onは互いに直交するので,n次元正多胞体の諸量を計算するための基本となっています.
 
 基本単体の個数gは正多胞体にとって最も大切な基本量です.基本単体は隣同士が鏡像形であり,半分ずつが互いに合同であることより,3次元正多面体の基本単体の個数は
  g=2pf=2qv=4e
すなわち,正多面体の辺の個数eの4倍と等しくなります.
 
 また,(n+1)次元空間内の正多胞体はn次元球面上に射影することによって球面充填形になるのですが,そのような方法によって,3次元正多面体の基本単体の個数を(p,q)を用いて表すと
  g=4π/π(1/p+1/q−1/2)=8pq/{4−(p−2)(q−2)}
 
 さらに,
  g/h=(h+2)=24/(10−p−q)
なる関係を掲げますが,ここでhはペトリー数と呼ばれるもので,反転が何回でもとに戻るかという群論(鏡像変換)に関係した基本量です.4次元正多胞体の場合は
  g/h=64/(12−p−2q−r+4/p+q/4)
で表されます.
 
 ところで,正n角形にはn本の対称軸があります.そこで,正多面体の対称面の個数は? n次元の正多胞体に対称超平面は合計何枚あるのか? という問題が派生します.答を先にいうと,この解はnを次元数,hをペトリー数として
  m=nh/2
枚で与えられます.
 
 正多角形の対称軸の数m=2n/2において,分子の2は平面の次元数と解釈できます.また,3次元正多面体の対称面はm=3h/2個ですが,3は次元数です.
 
次元       対称面数m    ペトリー数h  基本単体数g
2  正p角形    p        p       2p
3  (3,3)   6        4       24
3  (4,3)   9        6       48
3  (3,4)   9        6       48
3  (5,3)   15       10      120
3  (3,5)   15       10      120
4  (3,3,3) 10       5       120
4  (3,3,4) 16       8       384
4  (4,3,3) 16       8       384
4  (3,4,3) 24       12      1152
4  (3,3,5) 60       30      14400
4  (5,3,3) 60       30      14400
n  正単体     n(n+1)/2 n+1
n  双対立方体   n^2       2n 
n  超立方体    n^2       2n 
 
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 基本単体は万華鏡のように隣同士が互いに鏡像形で,半分ずつが互いに合同です.そして,{o0o1・・・on-2}上on-1,onのなす角
  ∠on-1on-2on=π/pn-1
は超平面同士が超辺上でなす二面角δの半分です(注:二胞角というべきですが3次元の場合の用語を転用します).
 
 二面角が重要なのはn+1次元正多胞体(p1,p2,・・・,pn)が存在するための必要条件が
  δpn<2π
で表されるからです.これは3次元正多面体の場合,1点のまわりの角錐の角の和が4直角未満という条件の一般化にあたります.
 
 超立方体の二面角はつねに90°ですが,正単体の2面角は,頂点(x,x,・・・,x),底面の中心on-1(1/n,・・・・,1/n),1つの超辺の中心on-2(0,1/(n−1),・・・,1/(n−1))の関係から
  cosδ=1/n
 
 双対立方体の2面角は,たとえば,頂点(±1,0,・・・,0)と赤道面の1つの超辺の中心on-2(0,1/(n−1),・・・,1/(n−1))より,
  cosδ=−(n−2)/n
と計算されます.
 
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 前項と同様の方法によって,4次元の空間における正則胞体の必要条件を定めることができます.(p,q,r)すなわち合同な正多面体(p,q)の各面が2つの(p,q)に属し,各辺がr個の(p,q)に属すとしましょう.
 
 3次元正多面体(p,q)を各辺のまわりにr個集めてできる4次元正多胞体の必要条件は,2面角のr倍が4直角未満ですから,正4面体(3,3)の2面角は71°より少し小さいので,1本の辺に3,4,5個の正4面体を置くことができます→(3,3,3),(3,3,4),(3,3,5).
 
 立方体(4,3)の2面角は直角ですから,1本の辺のまわりに4個の立方体で隙間なく空間を充填します.しかし,(4,3,4)では無限の多面体になってしまいますから,超立方体(4,3,3)は有限胞体になります.
 
 正8面体と正12面体の2面角は,90°と120°の間にあるので,1辺の周囲には3個の正多面体が置けます→(3,4,3),(5,3,3).正20面体の2面角は120°より大きいので,このようなことはできません.
 
 すなわち,正4面体に対してはr=2,3,4.正6,8,12面体に対してはr=3.正20面体では許されないので,結局,正多胞体の可能性としては(3,3,3),(3,3,4),(3,3,5),(4,3,3),(3,4,3),(5,3,3)しかあり得ないことがわかります.
 
 そして,実際にこの6通りの正多胞体が構成できます.なお(4,3,4)は角の和がちょうど4直角となるので,3次元空間充填形です.
 
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 これらを一般的な条件式として表すならば,正多面体(p,q)の2面角は,
  2sin^(-1)(cos(π/q)/sin(π/p))
このような角r個の和が2πより小さくなくてはならないことから,
  cos(π/q)<sin(π/p)sin(π/r)
 
  cos(π/q)<sin(π/p)sin(π/r)≦sin(π/p)
すなわち,
  sin(π/2−π/q)<sin(π/p)
より,
  1/p+1/q>1/2   (p,q≧3)
同様に,
  1/q+1/r>1/2   (q,r≧3)
が導かれます.
 
 以上の必要条件をまとめると
  1/p+1/q>1/2   (p,q≧3)
  1/q+1/r>1/2   (q,r≧3)
となります.
 
 なお,3次元空間充填であるためには,等式
  cos(π/q)=sin(π/p)sin(π/r)
が成り立たなくてはならないので,3以上の整数解は立方体による空間充填(4,3,4)だけということになります.
 
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【3】高次元の空間充填形
 
 空間充填形ができるための必要条件は,二面角δが4直角の整数分の1であることです.超立方体の二面角はつねに90°ですから,これによる空間充填形は何次元でも可能ということになります→超立方体による空間充填形(4,3,・・・,3,3,4).
 
 正単体の二面角は
  cosδ=1/n
ですから,n=2以外のときは4直角の整数分の1になりません.これは正三角形による平面充填形(3,6)に他なりません.
 
 双対立方体の二面角は
  cosδ=−(n−2)/n
より,n=2のとき90°→正方形による平面充填形(4,4).n=4のとき120°→4次元正16胞体による空間充填形(3,3,4,3).
 
 また,この双対(3,4,3,3)も空間充填形ですが,その構成要素は(3,4,3)すなわち4次元正24胞体です.
 
 以上より,1種類の正多胞体による空間充填形をまとめると,平面充填形3種類,3次元空間充填形1種類,4次元空間充填3種類,5次元以上の空間充填形は1種類ということになります.
 
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【4】4次元正多胞体の胞数
 
 正多面体(p,q)を境界多面体として,その頂点数,辺数,面数を(v1,e1,f1)としましょう.すると,前述したように
  1/e1=1/p+1/q−1/2
 
 C個の各胞に2e1/p個ずつの面があり,各面が2個の胞に共通なことより
  2Ce1/p=2F
このことの双対として,頂点付近は双対正多面体(r,q)の形になりますから,頂点図形を(v2,e2,f2)とすると,
  1/e2=1/r+1/q−1/2
 
 各面上にp個ずつ辺があり,各辺にr個ずつの面が会するので
  pF=rE
また,各頂点に2e2/r個ずつの辺が会し,各辺の端点は2個ずつですから,
  2Ce2/r=2E
 
 これより,
  V:E:F:C=1/q+1/r−1/2:1/r:1/p:1/p+1/q−1/2
となり,V,E,F,Cの相互関係は求まったことになります.
 
 しかし,この比例定数をλとして,オイラー・ポアンカレの公式
  V+F=E+C
に代入しても,それだけでは構成要素(頂点,辺,面,胞,・・・)の個数が定まりません.偶数次元ではオイラー・ポアンカレの公式に定数項がつかないので,両辺とも
  λ(1/p+1/q+1/r−1/2)
に退化してしまうからです.
 
 3次元の場合とは違って,V,E,F,Cを(p,q,r)の関数として簡単に表す公式はなく,これが4次元の壁となっているのですが,この壁を突破する方法として,比例定数λが基本単体の個数gの1/4に等しいこと,したがって,基本単体の個数gを計算するとV,E,F,Cが求められることが参考図書:
  一松信「高次元の正多面体」日本評論社
に載っています.
 
 しかし,それよりも(3,3,3)(3,3,4)(4,3,3)がそれぞれ4次元の正単体,双対立方体,超立方体であること,その胞数が5,16,8であることより比例定数λを求める方が簡単と思われます.以下では,この方法について説明します.
 
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 fkをn次元多面体のk次元面の数とし,
  (f0,f1,・・・,fn-2,fn-1)
を構成要素とするn次元正多胞体では,組み合わせ的方法によって,k次元胞数fkが求められます.たとえば,正単体では
  fk=(n+1,k+1)
なのですが,k=n−1のときfk=n+1であって,胞数はn+1と計算されます.同様に,双対立方体では
  fk=2^k+1(n,k+1),k=n−1のとき,fk=2^n
立方体では
  fk=2^n-k(n,k),k=n−1のとき,fk=2n
となります.
 
 もちろん,
  正単体:fk=(n+1,k+1)
  双対立方体:fk=2^k+1(n,k+1)
  立方体:fk=2^n-k(n,k)
はオイラー・ポアンカレの定理:
  f0−f1+f2−・・・+(−1)^(n-1)fn-1=1−(−1)^n
すなわち,nが奇数なら2,偶数なら0を満たします.この定理は正多胞体に限らず,n次元凸多胞体について常に成立します.
 
 どの次元にも3種類の標準正多胞体(正単体,超立方体,双対立方体)があり,4次元正多胞体(p,q,r)=(3,3,3)(3,3,4)(4,3,3)がそれぞれ4次元の正単体,双対立方体,超立方体であることは見当がつくわけですから,その胞数は5,16,8であることを利用して,残り3つの4次元正多胞体の胞数を求める方が簡単です.厳密な証明とはいえませんが,胞数を求めるだけであれば,このような「不完全な証明」も可能です.
 
 そうすることによって,以下の結果が得られます(境界面p,頂点に集まる面q,辺に集まる胞r).
 
      境界多面体   p   q   r   λ
5胞体   正4面体    3   3   3   30
8胞体   立方体     4   3   3   96
16胞体  正4面体    3   3   4   96
24胞体  正8面体    3   4   3   288
120胞体 正12面体   5   3   3   3600
600胞体 正4面体    3   3   5   3600
 
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 5次元正多房体(p,q,r,s)の場合も,これまでと同様に4次元正多胞体(p,q,r)をs個ずつくっつけますから,4次元正多胞体の二面角のs倍が4直角未満であることが必要です.
 
 その可能性は(3,3,3,3)(3,3,3,4)(4,3,3,3)の3通り,すなわち,5次元の正多房体は標準正多胞体に限られます.これらが5次元の正6房体,正10房体,正25房体になるというわけです.なお,(4,3,3,4)(3,3,4,3)(3,4,3,3)は等号が成立するので,4次元の空間充填形になることが理解されます.
 
 また,n次元空間において,標準正多胞体以外に正多胞体がなく,二面角がそれぞれ72°,120°より大きければn+1次元においても標準正多胞体以外にはあり得ません.二面角はnとともに増加するので,n次元以上の空間では3種類の標準正多胞体しかありえないことになります.このような状況はn=5で生ずるので,6次元以上の空間でも3種類の標準正多胞体に限られることになります.
 
 高次元の正多胞体といっても,5次元以上では3種類の標準正凸多胞体しかなく,5次元正多房体の房数は正6房体,正10房体,正25房体になることも同様にして「不完全な証明」が可能というわけです.なお,5次元以上では凹正多胞体も存在しないわけですから,その意味では平凡な次元といってよいのですが,それに対して4次元は本質的に多彩です.
 
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【5】4次元の空間充填形
 
 (4,3,3,4)(3,3,4,3)(3,4,3,3)はそれぞれ正8胞体,正16胞体,正24胞体による4次元の空間充填形です.
 
 このうち,(4,3,3,4)は正8胞体(4次元超立方体)による空間充填形で,格子点を順次結んでできる4次元単純立方格子をなしますから,ハミルトンの四元数
  H=a+bi+cj+dk
において,a,b,c,dを整数に限った「四元整数」と同一視することができます.
 
 四元整数は乗法の交換法則が成り立たない非可換体(環)ですが,4次元空間内の原点を中心とする半径√nの3次元球面上には必ず格子点があることを主張しているのが「ラグランジュの定理」であることは前回のコラムでも説明したとおりです.
 
 ところで,3次元では立方体の8個の頂点を1つおきにとると正4面体ができますが,正8胞体(4次元超立方体)の16個の頂点を1つおきに結ぶと,正16胞体ができます(注:5次元以上の空間では正多胞体にはなりません).
 
 また,3次元では立方格子の1つおきの格子点のみをとった格子は面心立方格子と等しくなることが知られていますが,4次元で同じことを行ったものが4次元の体心立方格子であり,これは(3,3,4,3)と同値です.すなわち(3,3,4,3)は正16胞体による4次元空間充填形であり,4次元の体心立方格子ということになります.
 
 この充填形は「四元整数」に1の原始6乗根
  ζ++++=(1+i+j+k)/2
を追加した数の体系「フルビッツの整数」を使うと,空間充填形(3,3,4,3)のすべての頂点を与えてくれます.フルビッツの整数全体は整数座標点と半整数座標点からなりますので,4次元体心立方格子であるというわけですが,この4次元体心立方格子の代表的な房は
  0,1,i,1+i,ζ++++,ζ++--,ζ+++-,ζ++-+
の8点からなるものとして作ることができます.なお,ζ=ζ++++とおくと,
  ζ^2=ζ-+++,ζ^3=−1,ζ^4=ζ----,ζ^5=ζ+---,ζ^6=1
となります.
 
 3次元では,立方体の8個の頂点を1つおきにとると正4面体ができますから,4次元体心立方格子は,二面角が補角となる正8面体(cosδ=−1/3)と正4面体(cosδ=1/3)からなる3次元充填形(面心立方格子)と対応していることになります.
 
 一方,(3,4,3,3)は4次元独特の充填形です.その構成要素(3,4,3)が正24胞体で,単数すなわち1の約数,
  ±1,±i,±j,±k,ζ±±±±
のあらゆる符号の組合せをとった24個が正24胞体をなしています.
 
 また,正24胞体の頂点は正8胞体と正16胞体の頂点をなしますから,正24胞体は3次元の菱形12面体に対応するものであって,(3,4,3,3)は4次元版の菱形12面体による空間充填形に相当します.すなわち,それは4次元の面心立方格子といってよいものであって,4次元の最密正則胞体充填構造D4は正24胞体で埋めつくされているときであることが知られています→コラム(その3).
 
  (4,3,3,4)→4次元単純立方格子
  (3,3,4,3)→4次元体心立方格子
  (3,4,3,3)→4次元面心立方格子
 
[補]ガウスの整数
 a,bを整数として
  a+bi
で表される複素数が「ガウスの整数」です.すべてのガウス整数を約す整数が「単数」で,
  ±1,±i
の4個の単数があります.
 
 素数は複素数体でも定義されますが,数論の教えるところによると,複素数体においても,単数を除いて,素因数分解の一意性が成立します.4k+3型素数はやはりガウス素数ですが,2および4k+1型素数はガウス素数の積に分解されるのです.
  2=(1+i)(1−i)
  29=(5+2i)(5−2i)
 
[補]アイゼンスタインの整数
 アイゼンスタインの整数は
  a+bω
と書くことができます.ここで,ωは1の虚立方根で,x^2+x+1=0の根です.それに対して,ガウス整数にはx^2+1=0が対応しています.
 
 アイゼンスタインの整数には,6つの単数
  ±1,±ω,±ω^2
があり,正六角形の対称性をもちます.
 
 ここにもやはり素因数分解の一意性が成立します.2および6k+5型素数はアイゼンスタイン素数ですが,3および6k+1型素数はアイゼンスタイン素数の積に分解されます.
  3=(1−ω)(1−ω^2)
  37=(4−3ω)(4−3ω^2)
 
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【6】高次元の正多胞体とルート系
 
(問)1つの3角形を辺に関して次々折り返していって,3角形が互いに重なることなく,平面を埋めつくすことができるか?
 
(答)この問題は平面を鏡映三角形で埋めるというものですが,1つの頂点に会する三角形は偶数に限る必要はありません.
 
 頂点の角度をαとおくと,頂点を一回りしたので,
  α=2π/p   ただし,pは3以上の自然数.
まったく,同様に残り2つの内角に対しても
  β=2π/q,γ=2π/r
また,α+β+γ=πより
  1/p+1/q+1/r=1/2
が成り立ちます.
 
 ここで,3≦p≦q≦rと仮定すると
  1/2=1/p+1/q+1/r≦3/p
より,3≦p≦6
 
 さらに,pが奇数のとき,頂点Aからでる2辺の長さは等しくならなければなりません.そうしないと,折り返しでうまく重ならないからです.したがって,
 
(i)p=3のとき,q=rなので,
  q(q−12)=0
これより,(p,q,r)=(3,12,12)
 
(ii)p=4のとき,(q−4)(r−4)=16
これより,(p,q,r)=(4,5,20),(4,6,12),(4,8,8)ですが,(p,q,r)=(4,5,20)は必要条件を満たすものの,十分条件を満たさない,すなわち,1点のまわりだけは完全に埋められても平面のタイル張りになりません.凸な多角形では七角以上になるとどんな型のものも平面充填はうまくいかないのです.
 
(iii)p=5のとき,q=rより,
  q(3q−20)=0
これを満たす3以上の整数はありません.
 
(iv)p=6のとき,(q−3)(r−3)=9
これより,(p,q,r)=(6,6,6)
 
 結局,求めるタイル張りは
  (6,6,6) → 正三角形
  (4,8,8) → 直角二等辺三角形
  (4,6,12) → 30°,60°,90°の三角形
  (3,12,12)→ 30°,30°,120°の三角形
の4通りあることになり,実際に十分条件を満たします.
 
 30°,30°,120°の角をもつ三角形は,正三角形格子(3,6)の各面を3個の合同な三角形に分解することによってできるモザイク模様です.「麻の葉」文様と呼ばれるくり返し文様なのですが,日本では古くから装飾工芸品や寄木細工のデザインなどとして用いられていますから,ご存じの方も多いと思います.
 
 30°,60°,90°のモザイクは,30°,30°,120°の三角形からなるモザイクをさらに2個の直角三角形に分解してできる模様,直角二等辺三角形モザイクは正方格子(4,4)を4分割したもの,正三角形は正三角形格子(3,6)そのものです.
 
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 (その3)にも記しましたが,基本単体を鏡映も許しながら自分自身に重ねていく操作がルート系であり,それは,アメリカのキリングやフランスのカルタンによって成し遂げられた単純リー群の分類と関係しています.
 
 n次元空間において高度の対称性をもったベクトルの集合がルート系なのですが,n次元正単体とn次元立方体の対称群は,それぞれAn-1,Bn(Cn)で表されます.
 
 ルート系では,ベクトルの間の角度は30°,45°,60°,90°またはその補角に限られるので,2次元の可能なルート系は
  A2(正六角形:正三角形格子)
  B2=C2(正方形)
  G2(星形六角形:正6角形を2個合わせたもの)
しかありません.
 
 また,このようにルート系のベクトルの末端を結んでできるn次元図形が正多胞体になるのは比較的少数です.他には
  D4(正24胞体の3対性)
  Cn(双対立方体)
  F4(正24胞体を2個合わせたもの)
があげられます.
 
 正24胞体は,すべての次元を通じて,単体以外の唯一の自己双対な正則胞体です.この24胞体の対称性を,鏡映で生成される既約な有限群(ルート系)との関係でみても興味深いものがあります.たとえば,正24胞体に含まれる正16胞体は互いに60°をなしますから,D4の3対性をもっているというわけです.
 
 また,正24胞体は1つの例外型対称群F4をもつことが知られています.2個の正24胞体を中心を一致させて重ねて回転させます.これはちょうど平面上でダビデの星が2つの正六角形を30°ずらして重ねたものと似ているわけですが,この対称性がF4に相当します.正24胞体は単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であるという事実がF4と関係しているのですが,この点もまた注目すべきものでしょう.
 
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[補]単純リー群を分類するという問題はある意味では興味深い幾何学の可能性を決定することになります.
 
 既約ルート系の分類の基づいて,複素単純リー代数の分類を行ったものがカルタンの分類定理であり,それは『いかなる複素単純リー代数もAk(k≧1),Bk(k≧2),Ck(k≧3),Dk(k≧4),E6,E7,E8,F4,G2の型のものに限られる.』というもので,Ak,Bk,Ck,Dk型の複素単純リー代数は古典型,E6,E7,E8,F4,G2の型のものは例外型と呼ばれます.すなわち,単純リー群には9つの型があり,それらはA,B,C,Dと名づけられた4つの無限系列とE6,E7,E8,F4,G2と名づけられた5つの例外群であったのです.
 
 キリングやカルタンの研究は面白い幾何学がどれだけできるかという設問に対する解答でもあり,大ざっぱにいえば,A型が複素ユニタリ幾何,B型とD型がそれぞれ奇数次元と偶数次元の実ユークリッド幾何,C型が4元数上の幾何学,5つの例外型は8元数上の幾何学に対応しています.→コラム「群と月光」「エルランゲン・プログラムと変換群」参照
 
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【7】高次元の星形正多胞体
 
 空間充填系と星形正多胞体は拡張された正多胞体と考えることができます.したがって,空間充填形の次には星形正多胞体の話をするのが筋でしょう.
 
 星形正多角形(n/d角形)は,正n角形の頂点をd個おきにとってできる図形です.ソロモンの星は5/2角形,ダビデの星は6/2角形となるのですが,nとdが互いに素でないとき,n/d個のd角形に分かれます.たとえば,正6角形からはダビデの星が得られますが,ダビデの星は2個の正三角形に分かれるので,雪型正多角形とも呼ばれます.ダビデの星がユダヤ人の象徴とされ,イスラエルの国旗にも使われているのに対し,ソロモンの星はピタゴラス派のシンボルマークで黄金比と関係しています.
 
 3次元星形正多胞体が4通りしかないことは,1811年,コーシーによって証明されています.星形正多面体ではp,qは整数とは限らず,有理数になるのですが,辺数はすべて30本,基本単体数120個です.また,複合正多面体(雪形正多面体)5通りであることが知られています.
 
 4次元星形正多胞体が10通りであることは,1915年,ファン・オスが不完全ながら証明し,1931年,コクセターにより完全な証明が与えられました.その基本単体数14400個です.4次元雪形正多胞体は46通りあります(コクセター,1933年).1種類の星形多角形による平面充填は不可能なのですが,4次元星形正多胞体による4次元空間充填も同様の結果(不可能)です.
 
 なお,5次元以上の星形正多胞体も不可能ですから,星形正多胞体は4次元で多彩となり,そこで突然終わりになる・・・5次元以上では3種類の標準正多胞体がすべてということになります.
 
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【8】双曲空間の空間充填系
 
 三角形P(黒塗り)とそれを裏返した三角形Q(白塗り)の2つを交互に並べて,平面全体をタイル張りすることを考えます.たいていの場合は途中でタイル同士が重なってしまいますが,うまくいくと市松模様のタイル張りができあがります.
 
(問)Pがどのような形のとき,このようなタイル張り(平面の市松模様三角形タイル張り)が可能であろうか?
 
(答)これが可能なためには,1つの頂点で偶数個の3角形が交わらなければならないので,これを2aとおく.また,その頂点の角度をαとおくと,頂点を一回りしたので,2aα=2π.ゆえに,
  α=π/a   ただし,aは2以上の自然数.
 まったく,同様に残り2つの内角に対しても
  β=π/b,γ=π/c
 また,α+β+γ=πより
  1/a+1/b+1/c=1
 
 この等式を満たす(a,b,c)の組は非常に少ない.便宜上,a≧b≧cとすると
  (3,3,3) → 正三角形
  (4,4,2) → 直角二等辺三角形
  (6,3,2) → 30°,60°,90°の三角形
の3種類が得られる.
 
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 以上の解は平面を鏡映三角形で埋めることをユークリッド面(放物的)で考えたものですが,リーマン面(楕円的),ロバチェフスキー面(双曲的)を問題にするならば,解は非常に異なるものになります.
  α+β+γ>π,=π,<π
 すなわち
  1/a+1/b+1/c>1,=1,<1
に応じて楕円幾何学,ユークリッド幾何学,双曲幾何学の三角形が得られます.
 
 1/a+1/b+1/c>1を満たす正の整数の組(a,b,c)は高々有限個で,(n,2,2)は正2面体群,(3,3,2)は正4面体群,(4,3,2)が正8(6)面体群,(5,3,2)は正20(12)面体群に対応しています.
 
 一方,1/a+1/b+1/c<1の場合は(n≧7,3,2),(n≧5,4,2),(n≧4,3,3),(n≧3,4,3)など無限個あり,双曲幾何学における市松模様三角形タイル張りの可能性は無限にあることになります.
 
 すなわち,楕円的平面では基本領域は有限個しかなく,有限個の基本領域をならべることによって全平面を埋めつくすことができます.一方,双曲的平面の場合には,無限に多くの種類の基本領域があり,全平面を隙間なく埋めるには無限個必要となります.ユークリッド平面はその中間で,基本領域は有限種類しかないが,全平面を埋めつくすには無限個必要であるというわけです.
 
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 このことから,2次元双曲平面では正p角形が頂点のまわりにq個ずつ集まる
  1/p+1/q<1/2
を満たす無限個の基本領域があることがわかったわけですが,3〜5次元双曲空間では有限個(3次元:22個,4次元:13個,5次元:5個)しかなく,6次元以上ではこのような基本領域が存在しないことが証明されています(コクセター,1954年).
 
 次に,双曲空間の星形充填形を考えると,3次元の星形正多胞体は4種類ありますが,それらは3次元双曲空間の星形充填形にはなりません.4次元双曲空間には4通りの星形充填形があり,5次元以上にはそもそも星形正多胞体がないので5次元以上の双曲空間には星形充填形はあり得ないことになります.
 
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