■高次元の正多胞体(その4)

 ω=Σωi^2≦1をn次元超球の表現とすると,それに外接するn次元立方体は|ωi|≦1,内接する双対立方体はΣ|ωi|≦1で表される.
 
 コラム「ロボットアームとn次元直方体(その1)」では,n次元単位超球に外接するn次元超立方体[-1,1]^n(体積2^n)を2次元平面上に直投影した際の面積について考えてみたが,今回のコラムで取り上げるテーマは,それの双対立方体版,正単体版である.
 
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【1】双対立方体の体積
 
 n次元の幾何学の例をあげよう.三角形の面積は底辺かける高さ割る2であるが,三角錐になると底面積かける高さ割る3,四次元の三角錐なら底体積かける高さ割る4,五次元なら底四次元面積かける高さ割る5・・・.高次元の多面体ではこのようになることが知られている.
 
 これは底面の形に関わらず成り立つこと,双対立方体は重角錐であることより,n次元双対立方体の体積Vnの漸化式は
  Vn=Vn-1×2/n
で表される.
 
 したがって,
  Vn=2^n/n!
となる.すなわち,与えられた体積は,n次元立方体の体積の1/n!であって,
  V2=2,V3=4/3,・・・
 
 ここで,指数関数的増大(ねずみ算)に較べてみても,階乗的増大は非常に速い増大の仕方であるから,n→∞のとき,
  Vn=2^n/n!→0
となることがわかる.
 
 また,外接超球の体積
  π^(n/2)/Γ(n/2+1)
と較べても
  2^n/n!/π^(n/2)/(n/2)!=(4/π)^(n/2)(n/2)!/n!
              ≒1/√2(2e/nπ)^(n/2)→0
となることがおわかり頂けるであろう.
 
[補]スターリング近似
  n!≒√(2πn)n^nexp(-n)
 
 両辺の対数をとると
  logn!=(n+1/2)logn-n+0.92
となるが,nが大きい場合には,nlognやnに較べて1/2lognや0.92は無視できるので,
  logn!=nlogn-n
としている本も多い.
 
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【2】正単体の体積
 
 三角形の面積は底辺かける高さ割る2であるが,三角錐になると底面積かける高さ割る3,四次元の三角錐なら底体積かける高さ割る4,五次元なら底四次元面積かける高さ割る5・・・.
 
 正単体の体積を求めるにあたって問題となるのは,その高さである.高さを求めるために,n次元正単体の頂点の座標を
  (1,0,・・・,0)
  (0,1,・・・,0)
  ・・・・・・・・・・・
  (0,0,・・・,1)
  (x,x,・・・,x)
とする.稜の長さが√2の正単体であるから,
  x={1−√(1+n)}/n
とすることができることは(その2)に記した通りである.
 
 これらの座標が与えられたとき,底面
  (1,0,・・・,0)
  (0,1,・・・,0)
  ・・・・・・・・・・・
  (0,0,・・・,1)
の重心は
  (1/n,1/n,・・・,1/n)
であるから,頂点
  (x,x,・・・,x)
との距離(高さ)Hnは,
  Hn=√(1+1/n)
で与えられることになる.
 
 したがって,漸化式
  Vn=Vn-1×Hn/n
より,
  Vn=√(1+n)/n!
を得ることができる.
 
 V2=√3/2,V3=1/3,・・・
となるが,V2,V3はピタゴラスの定理を使えば中高生でも簡単に確かめることができるであろう.
 
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【3】双対立方体の投影面積
 
 コラム「ロボットアームとn次元直方体(その1)」において,n次元単位超球に外接するn次元超立方体[-1,1]^n(体積2^n)を2次元平面上に直投影した際の面積について記した際,原点から最も遠い点は頂点までの距離√nであるから,半径√nの円に内接する正2n角形を考えればよいことを述べた.
 
 したがって,その面積は,
  So=n^2sin(π/n)
で与えられることになる.
 
 また,そこには記さなかったが,原点から最も近い点までの距離は,n−1次元面までの距離で1となる.これらの最も近い点を結んだものがn次元双対立方体である.
 
n次元双対立方体の影は,n次元立方体と同様に正2n角形になるので,半径1の円に外接する正2n角形を考えればよい→[補].その面積は
  Si=2ntan(π/2n)
である.
 
 実際の投影面積Sは,
  Si≦S≦So
となるが,nが大きくなるほどSoに近づくことが予想され,n→∞のとき,
  So=n^2sin(π/n) 〜 nπ
すなわち,超球との投影面積比は漸近的に
  nπ:π=n:1
に近づくものと思われた.
 
 なお,その際,外接正2n角形の面積は
  Si=2ntan(π/2n)→π
であるから,単位超球の投影面積に近づくことが理解される.
 
[補](その2)を書いた時点では,n次元双対立方体の影の形が2n角形なのか,2(n−1)角形なのか,また,正多角形になるのかどうか,いまひとつはっきりしなかったのであるが,正八面体の模型を作ってみると,正六角形に投影される方向が簡単に見つかった.この方向は見取り図を描くだけでは気づきにくく,死角とでもいうべきか,ひとつの盲点であった.
 
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 双対立方体の場合も同様に求められるはずである.最も遠いのが
  (±1,0,・・・,0)
  (0,±1,・・・,0)
  ・・・・・・・・・・・・
  (0,0,・・・,±1)
までで距離1,最も近いのが
  (±1/n,±1/n,・・・,±1/n)
までの距離1/√nである.最も近い点を結ぶとn次元立方体ができあがる.
 
 したがって,半径1の円に内接する正2n角形
  So=nsin(π/n)
と,半径1/√nの円に外接する正2n角形
  Si=2tan(π/2n)
を考えればよいことになる.
 
 立方体の場合と同様に,
  Si≦S≦So
であるが,立方体の場合とは逆に円に外接する正2n角形の面積を考える.すると,
  Si=2tan(π/2n) 〜 π/n
このことから超球との投影面積比は
  π/n:π=1:n
となるものと思われる.
 
 なお,内接正2n角形では
  So=nsin(π/n)→π
となる.
 
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【4】正単体の投影面積
 
 正単体において,底面から頂点までの高さは
  H=√(1+1/n)
であることがわかっている.
 
 ここで,簡単な補助定理
a)n次元球に内接および外接するすべての単体のなかで正則単体はそれぞれ最大および最小の体積をもっていること
b)一様な棒の重心は両端の間の距離を1:1に,三角形の重心は中線を2:1に,四面体の重心は頂点と向かいあう面の重心との距離を3:1に内分します.すなわち,四面体の重心は1つの面の重心から対頂点に引いた直線の1/4の点にあること,・・・
を使うことにしよう.
 
 この規則を高次元へ拡張するのであるが,4次元以上でもこの規則性が失われることはありそうもなく,同様に類推される.すなわち,n次元単体では
c)重心からの最大距離は頂点までの距離,
  H×n/(n+1)=√(n/(n+1))
d)重心からの最小距離は底面までの距離,
  H×1/(n+1)=√(1/n(n+1))
である.
 
 したがって,半径√(n/(n+1))の円に内接する正n+1角形
  So=n/2sin(2π/(n+1))
と,半径√(1/n(n+1))の円に外接する正n+1角形
  Si=2/ntan(π/n+1)
より,n→∞のとき,
  Si=2/ntan(π/n+1) 〜 2π/n(n+1)
となることが理解される.
 
 なお,内接正n+1角形では,
  So=n/2sin(2π/(n+1))〜nπ/(n+1)→π
が成り立つ.
 
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 正単体の外接球の半径は√(n/(n+1))であるから,単位超球の半径より小さい.したがって,重心を原点に移動させ,√((n+1)/n)倍に引き伸ばすことによって,正単体を単位超球に内接させることができることになる.
 
 n+1個の頂点:
  V1(1,0,・・・,0)
  V2(0,1,・・・,0)
  ・・・・・・・・・・・
  Vn(0,0,・・・,1)
  Vn+1(x,x,・・・,x)
の中心座標は
  ((x+1)/(n+1),・・・,(x+1)/(n+1))
  x={1−√(1+n)}/n
であるから,単位超球に内接させるためには
  m=√((n+1)/n)
一方,外接させるためには
  m=√(n(n+1))
として,
  V1(m(1−(x+1)/(n+1)),−m(x+1)/(n+1),・・・,−m(x+1)/(n+1))
  ・・・・・・・・・・・
  Vn+1(mx−m(x+1)/(n+1),mx−m(x+1)/(n+1),・・・,mx−m(x+1)/(n+1))
とすればよいことも理解されるところであろう.このことをプログラム化すると,以下のようになる.
 
5070 '
5080 ' *** 内接化 ***
5090 '
5100 *INTERNAL:
5110 X=(1-SQR(1+M))/M
5120 G=SQR(1+1/M)
5130 FOR GS=1 TO M
5140  S(GS)=(S(GS)-(X+1)/(M+1))*G
5150 NEXT GS
5160 RETURN
 
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【5】雑感
 
 今回のコラムでは,n次元超立方体,双対立方体,正単体の投影面積に関する不等式をみてきた.正単体においては,重心の位置を求めることが必要になったが,これに関連する不等式が「三角不等式」である.
 
[1]三角不等式
 
 三角不等式とは,任意の三角形の外接円の半径をRおよび内接円の半径をrとすると,
  R≧2r   等号は正三角形のときに限る.
というものである.
 
 三角不等式は3次元空間へも拡張できて,4面体では
  R≧3r   (4面体不等式)
n次元単体でも同様に
  R≧nr   (単体不等式)
が成り立つ.
 
 これらのことは,上に掲げた法則b)に由来しているのであるが,三角形の重心の性質は四面体,n次元単体に遺伝するというわけである.
 
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[2]球殻不等式
 
 三角不等式は
  R/r≧2
とも書けるが,Rとrは対象となる図形を外と内から押さえるものであるから,R/rに関するこの不等式は「球殻不等式」と呼ぶこともできる.すなわち,R/rが最小となるもの(最小球殻)を求める問題と考えることができるのである.
 
 n次元単体については,
  R/r≧n
が成り立つが,ここでは次元を大きくするのではなく,辺数nを大きくしてn角形へ拡張してみることにすると,任意の凸n角形において,不等式
  R/r≧sec(π/n)
が得られる.等号は正n角形の場合にのみ成り立つ.
 
 とくに,n=3の場合,sec(π/3)=2より,
  R/r≧2   (三角不等式)
となる.
 
 一般に,凸n角形の面積S,周長L,内接円の半径r,外接円の半径Rの間には,次の不等式が成り立つことがわかるだろう.
  2nrtan(π/n)≦L≦2nRsin(π/n)
  nr^2tan(π/n)≦S≦1/2nR^2sin(2π/n)
 
 等号は正n角形の場合にのみ成り立つから,定円に外接するn角形の中で,正n角形は周長・面積が最小であり,内接するn角形の中で,正n角形は周長・面積が最大となるが,このことは直観的にも理解されるところであろう.
 
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 今回のコラムで取り上げた投影面積に関しては,
  nr^2tan(π/n)≦S≦1/2nR^2sin(2π/n)
が重要な役割を果たしている.コラム「幾何学的不等式への招待」には,この不等式を多角形でなく多面体の場合に拡張したものを含め,数多くの不等式を掲げている,たとえば,・・・
 
[3]等周不等式
 
  L^2≧4πS     (2次元等周不等式)
  S^3≧36πV^2   (3次元等周不等式)
 
 任意のn次元の等周不等式は,
  S^n/V^(n-1)≧n^nvn   (vnはn次元単位球の体積)
         =n^nπ^(n/2)/Γ(n/2+1)
で表される.
 
 また,各種不等式から派生する問題として,たとえば,3次元版の球殻不等式からは,「同じ大きさの球に内接する正12面体と正20面体とでは,正12面体の方が体積Vも表面積Sも大きい.」が導かれる.
 
 そんなばかなと思われるかもしれないが,直感に反して,正12面体は球の66.5%,正20面体は球の60.6%を占めるのである.したがって,正多面体を球に内接させたとき最も球に近い正多面体は正12面体で,一方,外接させれば体積も表面積も正20面体の方が球に近くなる.
 
 また,等周比S^3/V^2の点からいえば,5種の正多面体では正4面体が最も球に遠く,正20面体が最も球に近いことになる.それでは,f個の面をもつ多面体の中で等周比の最小値を与えるものはなんであろうか?
 
 答えはf=4,6,12ではプラトンの正多面体,すなわち,正四面体,立方体,正十二面体が最小値をとる.しかし,f=8で等周比の最小値をあたえるものは正八面体ではなく,2個の正方形と8個の正三角形からなるアルキメデスの反プリズムである.f=20の場合は未解決である.
 
 コラム「幾何学的不等式への招待」ではこれらの問題も提示してある.三次元の問題は一筋縄ではいかないものが多いが,それはそれで大いに興味深いものがあるので,是非とも参照されたい.
 
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