■幾何学的不等式への招待(その2)

 
 充填(パッキング)と被覆(カバリング)をもとにしていくつかの不等式が得られるのですが,今回のコラムでは,平面・球面・空間を円(球)でパッキングあるいはカバリングするときの密度から出た不等式を取り上げて,以下に紹介することにします.
 
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【1】平面(空間)における円(球)の最密充填と最疎被覆
 
 平面充填形には正三角形格子,正方格子,正六角形格子の3種類あるのですが,平面上において,円形が互いに重なり合わないように配置したり,平面を完全に覆いつくす配置問題を考えるとき,正三角格子がきわだった役割を果たします.
 
 最密な円充填密度は
  d≦π/√12=0.9068・・・
最疎な円被覆密度は
  D≧2π/√27=1.209・・・
で与えられますが,等号は,円の中心が正三角格子の頂点におかれたとき,すなわち,各々の円が正六角形の頂点で6個の他の円と接している場合および切断されている場合に成り立ちます(蜂の巣型).
 
 一方,空間における球の配置を考えると,球の中心が面心立方格子を形成したとき,球の最密充填であることはほぼ確実です(証明することにまだ誰も証明に成功していないのですが・・・).
  d≦π/√18=0.74048・・・
 
 面心立方格子のボロノイ多面体は菱形12面体ですから,この意味で,菱形12面体は正6角形を3次元空間に拡張したものと見なすことができます.ケプラーは雪の結晶が正六角形をしているのはなぜかと考え,史上初めて菱形十二面体をみつけました.4次元の雪(超正六角形)はケプラーが予想したとおり菱形十二面体なのです.
 
 ところが,球による空間の最疎被覆は面心立方格子ではありません.面心立方格子型配置では
  2π/3=2.094・・・
それに対して,体心立方格子型配置では
  5√5π/24=1.463・・・
とかなり小さくなることがわかります.
 
 球の最密充填はケプラーやガウスによって既に知られていたのですが,最疎な球被覆問題は球の中心が体心立方格子をつくるときであることが証明されたのは,1954年になってからのことなのです.
  D≧5√5π/24=1.463・・・
 
 平面では充填配置も被覆配置も正六角形配置になっていたのですが,平面における正六角形の役割を菱形12面体がすべて引き継いでいるわけではないのです.その理由は,平面では正六角形は円に内接および外接するのに対して,菱形12面体は球に外接するが内接しない,一方,切頂8面体は球に内接するが外接しないことに起因しています.そのため,ある問題では球に外接する多面体が重要になり,別の問題では内接する多面体が重要になるのです.
 
 たとえば,球形の素材を型に詰め込んでおいて,それをぎゅとつぶすという過程を考えてみましょう.結晶化の過程では,実際,このようなことが起こっていると考えられるのですが,その場合,最密充填から最疎被覆への状態移行が問題になると思われます.ところが,平面の場合とは異なって,最密充填から最疎被覆には球の中心点が面心立方格子から対心立方格子に移行しなければならなりません.このような移行はどのようにしたら可能になるのでしょうか? 連続的それとも飛躍的におこなわれるのでしょうか?
 
 ところで,3種類ある平面充填形は,空間充填形の退化したものと見なされます.実際,空間充填形である立方体の断面には,正三角形,正方形,正六角形が現れることから,そのことを理解することができます.それと同様にして,空間への凸多面体の分割は4次元胞体の退化したものと見なされます.菱形12面体は4次元超立方体(あるいは正24胞体)の3次元空間への投影,切頂8面体は6次元超立方体の投影として得られます.
 
 ここで,空間を体積が等しい凸多面体で,平均表面積ができるだけ小さくなるように分割せよという問題が生じます.この問題はかなり長い間,菱形12面体による空間分割が解だと考えられていたのですが,これに対して,体積1のときの表面積を求めると,菱形12面体型分割では
  3√108√2=5.345・・・
切頂8面体型分割では
  3/43√4(1+√12)=5.314・・・
と後者の方が約0.5%少なくなることが,1887年,ケルビン卿によって発見されています.→コラム「ビールの泡と多面体」参照
 
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【2】オイラーの多面体定理の応用
 
 球面において,球面上の円(球帽という)の最密な円配置および最疎な円被覆問題を考えると,それは多面体の性質と関連していることが理解されます.
 
 結論を先に述べると,円の個数が4,6,12の場合には,円の中心がそれぞれ正4面体,正8面体,正20面体の頂点に一致するような円配列が導かれます.それに対して,8,20の場合,円の中心は正6面体,正12面体の頂点にくるわけではありません.
 
 このことから,この問題では3稜頂点(あるいは三角形面)からなる正多面体が特別な役割を果たすことがわかりますが,球面における最密充填と最疎被覆の話に入る前に多面体に関する不等式を押さえておくことにしましょう.
 
 凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,
  v−e+f=2  (オイラーの多面体定理)
が成り立ちます.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈されます.元の立体の頂点の数vと面の数fを互いに入れ替えた立体を双対多面体といいますが,この式は頂点と面に関しての双対性も表現しているのです.
 
 さらに,各々の面の辺数を
  p1,・・・,pf(≧3)
頂点に結合する辺数を
  q1,・・・,qv(≧3)
で表すと,明らかに
  3f≦p1+・・・+pf=2e
  3v≦q1+・・・+qv=2e
ここで,オイラーの多面体定理より,3f+3v=3e+6ですから,
  e+6≦3f≦2e
  e+6≦3v≦2e
 
 したがって,面が何角形になるかを求めてみると,これはもちろん1通りではありませんが,1本の辺は2個の面によって共有されることを考慮し,各頂点に平均してp~角形がq~面会するとすると,
  p~f=2e,q~v=2e   (握手定理)
より,その平均辺数p~と平均会合面数q~については
  p~=2e/f≦6−12/f<6
  q~=2e/v≦6−12/v<6
という不等式が導かれます.
 
 各面の辺数の平均は<6なのですが,2次元以上ですべての頂点の次数が6以上となることは不可能であり,必ず次数が5以下の頂点をもつことが導き出されます.
 
 つぎに,3次元立体では必ず頂点に結合する辺の個数が3の頂点か3角形の面をもつことを示します.
 
 n本の辺をもつfn枚の面とn本の辺が交わるvn個の頂点をもつ凸多面体について,
 i)Σnfn=Σnvn
 ii)Σf2n+1は偶数
 iii)v3+f3>0
を順に示していきます.
 
 (答)各辺は2個の頂点をもつから,Σnvn=2E
    また,各辺では2枚の面が交わるからΣnfn=2E
 (答)i)より,Σ(2n+1)f2n+1=(偶数)
    したがって,Σf2n+1も偶数
 (答)E=Σen,V=Σvn,F=Σfn,Σnfn=Σnvn=2E
    もしv3=0,f3=0ならば,
    2E=4v4+5v5+・・・≧4V 同様に,2E≧4F
    これより,V−E+F≦E/2+E/2−E=0
    これはオイラーの多面体定理:V−E+F=2に矛盾するから,
    v3,f3のうち,少なくとも1つは0でない.
 
 もっとよい評価を与えると
  f3+f4+・・・=f,3f3+4f4+・・・=2e
  v3+v4+・・・=v,3v3+4v4+・・・=2e
したがって,
  f3−f5−2f6−・・・=4f−2e
  v3−v5−2v6−・・・=4v−2e
 
 オイラーの多面体定理より,4f+4v=4e+8ですから,これらを加えると,
  f3+v3=8+(f5+v5)+2(f6+v6)+・・・≧8
 
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 p角形面およびq稜頂点をもつ正多面体を,シュレーフリにしたがって
  (p,q)
で表すことにしましょう.前項より,
  a)p,qのいずれかは3に等しくならなければならない.
  b)p,qは5を越えることができない.
ですから,このような整数の組は(p,q)=(3,3),(3,4),(3,5),(4,3),(5,3)の5通りで,それぞれ,正4面体,正8面体,正20面体,正6面体,正12面体に対応します.
 
 すなわち,正多面体は正4・6・8・12・20面体の5種類あって5種類しかないことが比較的簡単に証明できます.このことはギリシャのプラトンの時代にはすでに見つけられていて,それらがプラトンの自然哲学で重要な役割を演ずるところから,正多面体はプラトンの立体(Platonic solod)とも呼ばれています.
 
 これに平面充填形(3,6),(4,4),(6,3)を加えておくと都合がよいのですが,(3,6)は正三角形格子,(4,4)は正方格子,(6,3)は正六角形格子で,平面充填形は,面数が無限大となって全体が一面に広がってしまった正多面体(退化した多面体)ですから,一種の正2面体群と解釈することができます.
 
 また,2種類以上の正多角形から構成されている立体が準正多面体で,プラトンの立体に対してアルキメデスの立体(Archimedean solid)とも呼ばれています.準正多面体は合計16種あります.正多角形,正多面体は円,球に内接・外接しますが,準正多面体は球に内接するだけで外接しません.
 
 準正多面体の定義は,人によっていろいろなのですが,アルキメデスの立体に,アルキメデスの正角柱(Archimedean prism:上下の底面が正多角形で,側面がすべて正方形であるもの),アルキメデスの反角柱(Archimedean antiprism:アルキメデスの正角柱を少しひねって,側面をすべて正三角形にしたもの)を加えることもあります.各々無限個存在します.
 
 また,元の立体の頂点の数と面の数を互いに入れ替えた立体を双対多面体といいます.正多面体の双対は正多面体ですが,アルキメデスの立体はアルキメデス双対で,たとえば,菱形十二面体は,立方八面体の各面の中心をつないで余分なところを切り落とすと現れる双対多面体です.また,正角柱の双対は重角錐(dipyramid),反角柱の双対はねじれ重角錐(trapezo-hedron)となります.
 
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 ついでに,4次元の話もしておきます.R^2の正多角形は無限個あります.しかし,R^3のなかの正多面体としては5種類,R^4では6種類,5次以上では正(n+1)胞体(正4面体の拡張),正2n胞体(正6面体の拡張),正2^n胞体(正8面体の拡張)の3種類しか存在しないことが知られています.
 
 正4面体,正6面体,正8面体の多次元への拡張はわかりやすいと思われますが,三次元の正多面体は5種類であり,五次元以上でも3種類しかないのに,四次元では6種類もあることは四次元の不思議ともいうべき事実です.
 
 4次元の正多胞体とは,正5胞体(4次元正4面体),正8胞体(4次元正6面体:超立方体),正16胞体(4次元正8面体),正24胞体,正120胞体(4次元正12面体),正600胞体(4次元正20面体)の6種類ですが,正24胞体に相当する3次元正多面体はありません.
 
 正24胞体(24胞,正3角形のみからなる96面,96辺,24頂点)こそが,四次元特有の物体であると考えられます.正24胞体は,四次元空間で三次元空間の立方体にあたる正八胞体(8胞,24面,32辺,16頂点)と正八面体にあたる正十六胞体(16胞,32面,24辺,8頂点)を重ねてできますから,その意味で4次元版の菱形十二面体に相当します.
 
 また,平面充填正多角形は3種類(正三角形・正方形・正六角形),空間充填正多面体は1種類(立方体)ですが,4次元空間を1種類の正多胞体で埋めつくす図形は,正8胞体,正16胞体,正24胞体の3種類であり,4次元の最密規則的充填構造は,正24胞体で埋めつくされているときであることが知られています.
 
 なお,4次元多胞体では,頂点,辺,面,胞の個数の間に,シュレーフリの公式:
  v−e+f−c=0
が成立します.これを高次元へ一般化したものがオイラー・ポアンカレの定理です.
 
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【3】球面上の点配置のミニマックス問題,マックスミニ問題
 
 球面上の有限個の点の集合で,よい性質をもつものは? というきわめて漠然,曖昧模糊とした問題を考えると,これはある意味で,球によって最もよく近似できるn頂点あるいはn面の多面体を求める問題であり,球面に内接する正多面体の頂点のつくる集合は,いろいろな意味でその例といえるでしょう.
 
 さらに,凸な一様多面体(面が正則,頂点が等価)であるプラトン立体,アルキメデス立体,半正則プリズム,反プリズムなどがよい性質をもつ多面体の例となり得るでしょうし,一様な多面体の他に,すべての面が正多角形である凸多面体(ザルガラー多面体)が正多面体,準正多面体を除くと92種類存在することもわかっています.
 
 ところで,正多面体の頂点は外接球上に分布していますが,どの2点の最短距離もできるだけ大きくなるような点の分布をなしているとは限りません.たとえば,6個あるいは12個の点の分布はそれぞれ正八面体と正20面体になりますが,8個の点については立方体にはならないからです.
 
 さらに,正則な配置問題だけでなく,任意の不規則な配置も考慮に入れられるのですが,たとえば,7個の点の球面最小距離を最大にするミニマックス問題,マックスミニ問題となるとどうしてよいのやらわかりません.
 
 そこでまず球面上にn個の点を配置して,点間の最小球面距離が最大になるようにするとき,最短距離の上限が,面積2π/(n−2)の球面正三角形の1辺の長さδn以下となることを証明しましょう.
 
(証明)
 ガウス曲率は,
  K=1/R1R2
で定義されますが,球面三角形ABCにこのことをあてはめると,三角形の頂点の角度をα,β,γとおいて,
  S=∫∫KdA=α+β+γ−π   (ガウス・ボンネの定理)
(球面凸n角形に対しては,S=α1+α2+・・・+αn−(n−2)π)
 
 したがって,球面正三角形の1つの内角をαとすると,その面積は
  △=3α−π
3α−π=2π/(n−2)より,α=nπ/(3n−6)
 
 ここで,球面余弦定理により,
  cosδn=cosα/(1−cosα)
  δn=arccos{cosα/(1−cosα)}
 
 ωn=α/2=n/(n−2)・π/6   n≧3
すなわち,2ωnは面積が6ωn−πの球面正三角形△nの1つの内角を表しているのですが,以上より,
a)単位球面上のn個の点の中から,距離が
  d≦√(4−cosec^2(ωn))
を満たす2点をつねに取り出すことができる.
b)この2点の球面距離に関しては
  δn≦arccos{(cot^2(ωn)−1)/2}
が成り立つ.
 
 右辺は面積が2π/(n−2)の球面正三角形の1辺の長さδnにほかなりません.これよりd≦δですが,n=3,4,6,12に対しては等号が成り立ち,正確な値を与えてくれます.
 
 このことを使うと,ミニマックス問題の解は,n=4,6,12の場合には,それぞれ正4面体,正8面体,正20面体の頂点に一致するような配置が導かれます.n=8の解は,単位球に内接し8個の頂点をもつ反プリズム(2個の正方形と8個の正三角形からなる),n=24では,アルキメデスの多面体(3,3,3,3,4)の頂点,n=20は未解決のまま残っています.
 
 一方,マックスミニ問題の解は,n=6のとき,正則な二重ピラミッドの頂点,n=12のとき,反プリズム的二重ピラミッドの頂点であることが導かれています.二重ピラミッドとは,プリズムあるいは反プリズムの底面および上面にそれぞれひとつずつピラミッドをおくときにできる立体です.
 
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【4】球面における最密充填と最疎被覆
 
 n個の頂点をもつ三角形面多面体では,3f=2eですから,
  (v,e,f)=(n,3n−6,2n−4)
すなわち,球面上にn個の点を配置した場合,2n−4はn個の頂点をもつ三角形面正多面体の面数となります.
 
 一方,n個の面をもつ3稜頂点多面体では,3v=2eであり,
  (v,e,f)=(2n−4,3n−6,n)
となります.これらは互いにもとの多面体と面と頂点の関係が逆向きの正多面体であり,表と裏の関係にある双対多面体となっています.
 
 前項では
  ωn=n/(n−2)・π/6   n≧3
を導入しましたが,球面上に大きさの等しい球帽を埋め込むときの充填密度はωnを用いて,
  d≦n/2(1−1/2cosecωn)
球面が等大球帽で被覆されるときの被覆密度は
  D≧n/2(1−1/√3cotωn)
なる不等式を満たすことが求められます.
 
 等号はn=3,4,6,12の場合のみ成立し,それぞれ円の中心が正三角形,正4面体,正8面体,正20面体の頂点にくる場合に対応します.また,これらの不等式の上界・下界は,nの増加とともにそれぞれ平面における極限値
  π/√12,2π/√27
に近づくことが示されます.
 
 なお,平面上において等大円を配置して,1個詰められるだけの隙間の存在しないように最も不経済な円配置(飽和した系)をつくることにすると,それは最疎な円被覆において,各円をその半分の半径の円によって置き換えることにより生じますから,その最疎密度は,
  d≧π/√108=0.302・・・
になります.
 
 球面上において,同様の問題を考えると,球帽の最疎な飽和系では
  d≧1−√2/2=0.29289・・・
であり,等号は球面半径π/4をもち球の両極に位置する2つの球帽の場合に限り成立します.
 
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【5】ニュートン数
 
 単位球に内接する正20面体の稜の長さは,
  √(4−cosec^2(π/5))=1.0514・・・
であり,1つの球は正20面体の頂点において,12個の他の球と接触することができます.
 
 ニュートン数を,球に限らず一般の図形Sに接することができるSと合同な図形の最大数と定義して,ニュートン数を求めてみると,
 
   平面図形      ニュートン数
  正三角形         12
  正方形           8
  正n角形(≧5)      6
  ルーローの三角形      7
  定幅図形         ≦7
  平面充填可能な凸板   ≦21
 
 30°30°120°の角をもつ三角形のニュートン数は21ですが,この三角形は正三角形格子(3,6)の各面を3個の合同な三角形に分解することによってできるモザイク模様です.日本では古くから障子や寄木細工のデザインなどとして用いられていますから,ご存じの方も多いと思います.
 
 一般に,n次元ユークリッド空間において,1つの単位球に同時に接触することのできる単位球の最大個数τnは
 
  n     τn       n     τn     
  1       2        13    1130〜2233   
  2      6        14    1582〜3492   
  3      12        15    2564〜5431   
  4     24〜25       16    4320〜8313   
  5     40〜46       17    5346〜12215  
  6     72〜82       18    7398〜17877  
  7    126〜140      19   10668〜25901  
  8      240       20   17400〜37974  
  9    306〜380      21   27720〜56852  
  10    500〜595      22   49896〜86537  
  11    582〜915      23   93150〜128096  
  12    840〜1416      24     196560    
 
が知られていて,4次元以上の高次元では,8次元(240個)と24次元(196560個)の場合を除いて未解決です.
 
 n次元球のニュートン数については,最密充填構造と深い関連があるのですが,その下界はコクセターの方法によって求められます.一方,上界は単体的密度限界dnで粗雑ながら押さえられます.
 
 単体的密度限界とは,稜の長さが2rのn次元正則単体の頂点に半径rの球を描いたときの充填密度dn,外接球Rを描いたときの単体における球の被覆密度Dnのことであって,平面の場合は既に紹介した
  d2=π/√12=0.9068・・・
  D2=2π/√27=1.209・・・
空間の場合は,
  d3=√18(arccos(1/3)−π/3)=0.7797・・・
  D3=9√3/2(arccos(1/3)−π/3)=1.431・・・
となります.
 
 1958年,ロジャースは,四面体配置から空間充填率の上限を77.97%とはじき出しました.四面体配置は,3次元で相互に接するように球を配置するときの最大数となる配置ですが,全空間を充たすことはできないので,空間充填率の上限と考えられるわけです.
 
 任意のn次元空間においても,単体は空間充填体でないという都合の悪い事情が現れますので,充填密度はdnより決して大きくはなく,被覆密度はDnより小さくないので,これを使って,上側からの粗い評価をすると,
 
  n     τn 
  1       2  
  2      6  
  3      12  
  4     24〜26 
  5     40〜48 
  6     72〜85 
  7    126〜146
  8    240〜244
 
となり,現在知られている上界よりほんの少し大きい方に偏っています.
 
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【補】球面三角法
 
 平面正弦定理では,
  sinα:sinβ:sinγ=a/R:b/R:c/R
ですが,球面正弦定理は
  sinα:sinβ:sinγ=sin(a/R):sin(b/R):sin(c/R)
で表されます.
 
 一方,双曲的三角法では,RをiRに置き換えることによって,
  sinα:sinβ:sinγ=sinh(a/R):sinh(b/R):sinh(c/R)
が得られます.
 
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