■ヒルツェブルフの符号数定理とベルヌーイ数

 
 フィールズ賞の森重文博士の記事に「業績(論文)を理解できるものは十数名だ」という記事がありましたが,数学者が証明の内容を見てもその正当性は判断できないほど,現代数学の最先端は専門家以外には手の届かないところに進んでしまい,内輪の数学者たちにさえ解読不能だといいます.プロの数学研究者ではない私にとっては,たとえそれが平凡な学者の論文であっても同様なのです.
 
 私自身は本業のかたわら趣味で数学に取り組んでいるアマチュア数学愛好家であり,大した天分もなく数学的素養さえおぼつきません.しかし,数学の多岐にわたる分野に興味をもつことができるのは,数学の専門家ではないことがかえって幸いしているのだと思います.
 
 普段からちょっと調べたことや気がついた解釈,計算法などを忘れないように書き留めておいた備忘録が「閑話休題」のネタとなっているのですが,今回のコラムでは,生兵法は怪我の元を覚悟で,位相不変量とベルヌーイ数の関係を取り上げることにしました.
 
 数学的にいうと特性類に属する話なので,私には理解できなかったと告白しなければならないところも多いのですが,分かる範囲でできるだけ説明を試みることにします.
 
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【1】ガウス・ボンネの定理
 
 空間の不変量が特性数であり,特性数の最も簡単な例がオイラー標数であるのですが,特性類の理論は古くはガウス・ボンネの定理にその雛形を見いだすことができます.
 
 ガウス・ボンネの定理とは,
  ガウス曲率の積分=2π×オイラー数
で表されます.オイラー標数については,コラム「4次元・5次元を垣間みる」などで解説してあるので割愛しますが,この定理は,曲面の各点における曲がり具合を知れば,穴の数がわかることを意味しています.
 
 われわれの住む世界にいくつ穴が空いているかは,外側からみれば一目瞭然ですが,内部に住む人間(曲面人)にはなかなか理解できません.しかし,面・辺・頂点の数を数えたり,世界の曲がり具合を調べることによって,内部に住む人間も穴の数を知ることができるようになるというわけです.
 
 ガウス・ボンネの定理は,
  ∫(微分幾何学的データ)=位相幾何学的データ
の形をしています.すなわち,ガウス・ボンネの定理は,局所的に記述されるガウス曲率を全体で積分すると位相不変量(大域的で連続的に変形していっても変化しない量)になることをいっているわけで,微分幾何学と位相幾何学の異なる2つの世界を結びつけているところから,微分幾何学で最も美しい定理といわれています.
 
 そして,ガウス・ボンネの定理に類似の図式は,リーマン面のリーマン・ロッホの定理やディラック演算子に関するアティヤ・シンガーの定理などにも表れ,美しい定理の1つの型となっています.
 
 オイラー数を曲率の積分で表すガウス・ボンネの定理は,2次元に限らず,2n次元についても拡張されて成り立ちます.これは,ポアンカレ・ホップの指数定理とも呼ばれています.その後,ガウス・ボンネの定理はチャーン(陳省身)によって高次元に拡張されました.また,ガウス・ボンネ・チャーンの定理,リーマン・ロッホの定理,ヒルチェブルフの符号定理など,それ以前に知られていた幾何学の代表的ないくつかの定理を統一したものが,アティヤ・シンガーの指数定理なのです.
 
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【2】ヒルツェブルフの符号数定理
 
 次に,ヒルツェブルフの符号数定理(指数定理)について紹介することにしましょう.
 
 Mを4の倍数次元の閉じた向きづけ可能な多様体(manifold)M^4kで,概平行性をもつと仮定する.Mの次元をnとするとき,
  n=8なら,Mの指数は7で割り切れる
  n=12なら,Mの指数は62で割り切れる
  n=16なら,Mの指数は127で割り切れる
  n=20なら,Mの指数は146で割り切れる
 
 一般に,n=4k(4の倍数)なら,Mの指数は
  2^(2k)(2^(2k-1)−1)/(2k!)・Bk   Bkはベルヌーイ数
を既約分数になおしたときの分子で割り切れるというのが,ヒルツェブルフの指数定理です.
 
 ここで,Bmはm番目のベルヌーイ数を指します.ベルヌーイ数の最初のいくつかを書くと,B1=1/6,B2=1/30,B3=1/42,B4=1/30,B5=5/66,B6=691/2730,B7=7/6,B8=3617/510,・・・→【注】
 
 多様体M^4kの符号数がそのL種数に等しいというのが,ヒルツェブルフの符号数定理ですが,実は,実は,ここに掲げたヒルツェブルフの指数定理は,次項で述べるミルナーの定理の証明に都合のよい形に書き直してあります.
 
 これについては項をあたらめて説明することにして,ここでは,概平行性について説明すると,たとえば,2次元球面上には,必ず特異点があり,特異点のないベクトル場は存在しない(ホップの定理)のですが,2次元球面から円板をくり抜いてみることにします.そうすると,残りの部分も円板に変形でき,その上には1次独立な2本のベクトル場があるので,平行性をもつことになります.n次元多様体M^nからn次元円板D^nをくり抜いた部分が平行性をもつことを概平行性をもつというのですが,歯切れの悪い説明で申し訳ありません.
 
 また,指数とは,交点行列(対称行列)を対角化したとき,対角成分のうち+のものがl個,−のものがm個あるとすると,その差:l−mのことであって,対称行列には指数(または符号数)と呼ばれる不変量が対応します.行列Aの指数はAだけで決まり,対角化の仕方には依存しないことは,初等解析学のシルベスターの慣性法則で学んだとおりですが,これが空間の符号数の不変性なのです.
 
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【3】エキゾチックな球面(ミルナーの定理)
 
 半径が1の球面の公式は
  1次元球面:x^2+y^2=1
  2次元球面:x^2+y^2+z^2=1
  3次元球面:x^2+y^2+z^2+w^2=1
という具合に変数を増やしていくだけですから,そこには本質的な違いは生じないような気がします.
 
 ところが,ある次元を境にして奇妙なことが起こることが知られています.奇妙なことというのは,米国の数学者ミルナーが発見した7次元球面(8次元球の表面)では,微分同型写像で互いに移ることができない孤立した微分構造が28個もあるというものです(ミルナーの定理:1956年).
 
 ミルナーはエキゾチックな球面Σ^7を構成し,それが通常の7次元球面S^7とは異なることを,ヒルツェブルフの指数定理を用いて証明しました.M^8の交点行列の指数は8であるが,微分同相であると仮定すると7で割り切れなければならず,背理法でミルナーの主張がいえるのです.
 
 通常の微分構造が球面を除いた27個はエキゾチックな球面と呼ばれます.「7次元球面には8次元ユークリッド空間の単位球面とは異なる微分構造が入る」といっても,これだけでは何が何だか意味不明ですが,Σ^7とS^7は位相同型であっても微分同相にならない,すなわち,なめらかさの構造がまったく異なるというのです.
 
 しかし,微分構造とか微分同型写像とかの意味はよくはわからなくても,ミルナーの発見が衝撃的な事実であることはすぐに理解できます.われわれは,微分という言葉を何気なく使っていますが,微分が1種類とは限らないというのは直観に反していて実に驚くべきことであり,当時,ほとんどだれも予想し得なかったことだからです.ミルナーはこの業績でフィールズ賞を受けました.
 
 球面に許される微分構造の数を表にしてみると,
  次元  微分構造  次元  微分構造
  1   1      7   28
  2   1      8   2 
  3   1      9   8 
  4   -      10   6 
  5   1      11   992
  6   1
 
 このように,微分構造に関しては次元に関する制約がでてくるので,7次元以上では本質的に異なっていると考えられるのです.トポロジーは曲げたり伸ばしたりの連続変形を施しても変わらないようなもの(=位相不変量)を研究するのですが,空間の性質は,次元が変わるごとに劇的といってよいほど変わります.しかし,それは単にオイラー標数の話だけでなく,そこにはもっと深い幾何学的な事情があったのです.→コラム「ひもの棲む世界」参照
 
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【4】ベルヌーイ数
 
 ヒルツェブルフの符号数定理は微分トポロジーにおける定理であり,一方,ベルヌーイ数は主に数論の世界で用いられる定数であって,ベルヌーイ数など意外なものが顔を出すところに,ヒルツェブルフの定理の奥深さ(?)が感じられます.
 
 ベルヌーイ数は,数多くの魅惑的な整数論的特性をもっていて,元来はベキ乗和の公式
  Σk^s=1^s+2^s+3^s+・・・+n^s
を求めるために1713年に考案されたものですが,次のようなベキ級数展開に現れる係数として定義されます.
  x/(1−exp(-x))=1+1/2x+Σ(-1)^(k-1)Bk/(2k)!x^2k
 
 同じことですが,ベルヌーイ数は
  x/tanhx=xcoshx/sinhx
=1+B1/2!(2x)^2−B2/4!(2x)^4+B6/2!(2x)^6−・・・
 あるいは,x/tanhx=2x/(exp(2x)−1)+xより,
  x/(exp(x)−1)=1−1/2x+B1/2!x^2−B2/4!x^4+B3/6!x^6−・・・
の係数として得られます.
 
 さらに,ベルヌーイ数を用いたベキ級数展開をいくつか掲げておきます.
a)1/sinh2x=1/tanhx−1/tanh2xより,
  x/sinhx=1−(2^2−2)B1/2!x^2+(2^4−2)B2/4!x^4−・・・
 
b)1/tanhx=2/tanh2x−1/tanhxより,
  tanhx=2^2(2^2−1)B1/2!x−2^4(2^4−1)B2/4!+・・・
 
c)tanhix=itanxより,
  tanx=2^2(2^2−1)B1/2!x+2^4(2^4−1)B2/4!+・・・
 
 母関数は,整数の性質を調べるのにベキ級数の問題(関数論)に翻訳することによって答えを見つけることができる強力な発見手段となっているのですが,これらの式はベルヌーイ数の別の形の母関数表示を与えているものと考えられ,実際,数論的に面白い性質を証明するのに利用することができます.
 
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 ベルヌーイ数が,整数論にとって欠かすことができない存在なのは,ゼータ関数との関係にその理由があり,リーマンのゼータ関数
  ζ(s)=Σ1/n^s=Π(1−p^(-s))^(-1)
とベルヌーイ数との間には,次の公式が成り立ちます.
  Π1/(1−p^(-2m))=ζ(2m)=Bm/2・(2π)^(2m)/(2m)!
 
 また,どんなBn/nの約数にもならない素数は正則素数と呼ばれるのですが,与えられた素数pの正則性を確かめるためには,クンマーの合同式により,
  1≦n≦(p−1)/2
について,Bnの分子を調べればよいことになります.
 
 1850年,クンマーはどんなBn/nの分子の約数にもならない素数(正則素数)をベキ指数とする場合に,フェルマーの最終定理を証明して以来,正則素数の判定にも顔を出す興味深い数となりました.(クンマーは円分体の整数論の研究に専念し,正則素数であるすべてのnに対してフェルマー予想が成立することを示したのですが,正則素数pはBp-3 までのベルヌーイ数Bkの分子を割り切ることのできない素数として定義されていて,100以下の非正則素数は37,59,67ですべてですから,この3つの数以外では100までのnに対してフェルマー予想が正しいことが証明されたことになります.)
 
 Bn/nを既約分数で表したときの分母を求めることは,1840年,クラウセンとフォン・シュタウトの定理により,厳密に求めることが容易になったのですが,Bn/nの分子はnに対して急激に増加するため,計算はずっと難しかしくなります.
 
 以下に,nが小さいときの表を掲げておきますが,
  Bn/nの分子>Bn/n>4/√e(n/πe)^(2n-1/2)
より,
  (n/πe)^(2n)
のオーダーとなりますから,n>πe=8.539・・・のとき,分子は急激に大きくなることが示されます.
 
  n  Bn/nの分子  n  Bn/nの分子
 ≦5    1      9     43867
  6   691      10    174611
  7    1      11     77683
  8   3617      12   236364091
 
 この分子の値は,平行化可能な多様体の境界となるエキゾチック(4n−1)次元球面の微分同相からなる群が,位数
  2^(2n)(2^(2n-1)−1)・Bn/nの分子
の巡回群であることから,微分トポロジーの研究者の注意を引くものとなっていたのですが,B7の分子が7で割り切れることが,ミルナーがエキゾチック球面の証明に用いた方法に繋がったのです.
 
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【5】ヒルツェブルフのL種数とポントリャーギン類
 
 突飛な連想に思われるかも知れませんが,ここで,基本対称式におけるニュートンの公式・ジラールの公式について簡単に述べておきたいと思います.ニュートンの恒等式は,基本対称式とベキ和を結びつけているのですが,特性類の説明を見通しよく行うためにも必要になってくるのです.
 
 一般のn次方程式:
  f(x)=a0x^n+a1x^(n-1)+・・・+an=a0Π(x−αi)=0
の根と係数の関係は,
  α1+・・・+αn=−a1/a0
  α1α2+・・・+αn-1αn=a2/a0
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  α1α2α3・・・αn=(−1)^nan/a0
(ジラール)ですが,対称式の基本定理より,n変数のどんな対称式も基本対称式を用いて表すことができます.たとえば,2変数の場合,
  α1^2+α2^2=(α1+α2)^2−2α1α2
  α1^3+α2^3=(α1+α2)^3−3(α1+α2)α1α2
  α1^2α2+α1α2^2=(α1+α2)α1α2
など.
 
 そこで,n変数対称式:
  sj=α1^j+α2^j+・・・+αn^j
を基本対称式:
  σ1=α1+・・・+αn
  σ2=α1α2+・・・+αn-1αn
  σ3=α1α2α3+・・・+αn-2αn-1αn
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  σn=α1α2α3・・・αn
を用いて表してみることにしましょう.
 
 余分な変数tを導入して,
 f(t)=Π(1+tαi)=1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n
とおくと,
 f'(t)/f(t)=d/dtlogf(t)=Σαi/(1+tαi)=ΣΣ(-1)^kαi^(k+1)t^k
      =Σ(-1)^ks(k+1)t^k
 
 ゆえに,
  f'(t)=f(t)Σ(-1)^ks(k+1)t^k
となり,
  σ1+2σ2t+・・・+nσnt^(n-1)
=(1+σ1t+σ2t^2+・・・+σnt^n)(s1−s2t+s3t^2−・・・)
 
 両辺の係数を比較することによって,順次
  s1=σ1
  s2=σ1s1−2σ2=σ1^2−2σ2
  s3=σ1s2−σ2s1+3σ3=σ1^3−3σ1σ2+3σ3
  s4=・・・=σ1^4−4σ1^2σ2+2σ2^2+4σ1σ3−4σ4
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  s(k+1)=σ1sk−σ2s(k-1)+・・・+(-1)^(k-1)σks1+(-1)^k(k+1)σ(k+1)=f(σ1,・・・,σ(k+1))
が得られます(ニュートンの公式).
 
 また,t=1とおくことにより,
  (-1)^ksk/k=Σ(-1)^(i1+・・・+ik)(i1+・・・+ik-1)!/i1!・・・ik!σ^i1・・・σ^ik   i1+2i2・・・+kik=k
が証明されます(ジラールの公式).
 
 ニュートンの恒等式から
  『α1,α2,・・・,αnの基本対称式は,累乗和:α1^j+α2^j+・・・+αn^jの有理数を係数とする整式で表される』
という結果が導き出されます.不思議なことに,何次の累乗和であっても方程式の係数を使って表せるのです.
 
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 母関数を考えるときには,収束するかどうかは問題にせず,多項式を考えるのですが,それを形式的ベキ級数と呼びます.ここでは,形式的ベキ級数の等式としてニュートンの恒等式を導き出したのですが,同様の方法,すなわち,αiを交点行列の固有値として,チャーン多項式
  f(t)=Π(1+tαi)=Σckt^k  (ckはチャーン類,c0=1)
を考えれば,チャーン標数は
  ch=n+Σsk/k!   (skはベキ乗和)
    =ch0+ch1+ch2+ch3+・・・
ただし,
  ch0=n
  ch1=c1
  ch2=1/2(c1^2−2c2)
  ch3=1/6(c1^3−3c1c2+3c3)
  ch4=1/24(c1^4−4c1^2c2+2c2^2+4c1c3−4c4)
  chn=chn(c1,・・・,cn)
とチャーン類で書き下すことができ,これがチャーン標数の定義となります.
 
 ポントリャーギン類については,
  f(t)=Π(1+tiαi)=Σpkt^k  (pkはポントリャーギン類,p0=1)
で定義され,
  1−p1+p2−・・・±pn=(1−c1+c2−・・・±cn)(1+c1+c2+・・・+cn)
より,チャーン類とは
  pk=ck^2−2ck-1ck+1+・・・+2c1c2k-1−2c2k
で関係しています.
 
 また,ベキ級数
  g(x)=√(x)/tanh√(x)
      =1+1/3x−1/45x^2+・・・+(-1)^(k-1)2^(2k)/(2k!)・Bk・x^k+・・・
として,Πg(x)がヒルツェブルフのL種数の母関数となっていますから,したがって,ヒルツェブルフのL種数は,
  L=Πg(x)=1+Σ(-1)^ksk
   =ΣLn=L0+L1+L2+L3+L4+・・・
 
 ポントリャーギン類を用いて書くと
  L0=1
  L1=1/3p1
  L2=1/45(7p2−p1^2)
  L3=1/945(62p3−13p2p1+2p1^3)
  L4=1/14157(381p4−71p3p1−19p2^2+22p2p1^2−3p1^4)
  Ln=Ln(p1,・・・,pn)
によって定義されます.
 
 多様体の符号数はポントリャーギン数の1次結合として表されることが示されていて,任意の多様体のL種数は整数ですから,ポントリャーギン数p1[M^4]は3で割り切れるし,7p2[M^8]−p1^2[M^8]は45で割り切れます.これを用いると,ヒルツェブルフのL多項式:Ln(p1,・・・,pn)におけるpnの係数が
  2^(2k)(2^(2k-1)−1)/(2k!)・Bk
になることが証明されます.
 
 こういうわけで,ヒルツェブルフの符号数定理と彼による一般化されたリーマン・ロッホの定理(リーマン・ロッホ・ヒルツェブルフの定理)の出現以来,トポロジストにとってベルヌーイ数とその数論的性質を知ることは大変有益なものになっているのです.
 
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【注】これと混乱しやすい記号も慣用的に使用されているので,注意が必要です.
 
 たとえば,「ベルヌーイ数とは,x/(exp(x)−1)
=1+B1/1!x+B2/2!x^2+B3/3!x^3+・・・
=ΣBn x^n/n!
によって定義される有理数で,x/(exp(x)−1)は数列{Bn}の指数型母関数になっています.」
と書かれている場合は,奇数番目を飛ばさずに定義されているため,B1=−1/2で,
  x/(exp(x)−1)−B1/1!x=x/2・(exp(x)+1)/(exp(x)−1)
は偶関数ですから,奇数項は第一項以外は0で,偶数項はB2=1/6,B4=−1/30,B6=1/42,B8=−1/30,B10=5/66,B12=−691/2730,B14=7/6,B16=−3617/510,B18=43867/798,・・・
 
 あとは分子が急速に大きくなり,たとえば,B32=−7709321041217/510,B34=2577687858367/6です.分母は必ず6で割り切れます.この場合,ベルヌーイ数については,再帰公式
  (B+1)^n-B^n=0
が成り立ちます.ただし,2項展開してからB^nをBnで置き換えることにします.
 
 数論の本では,ベルヌーイ数の定義として,これを採用しているものが多いのですが,この場合,よく知られた公式は,
  B2k=(-1)^(k-1)・2(2k)!/(2π)^2k・ζ(2k)
と表されます.
 
 定義より,ベルヌーイ級数は,べき級数
  (exp(x)−1)/x=1+1/2!x1 +1/3!x2 +1/4!x3 +・・・
の反転級数と考えることができます.
 
 exp(x)=1+1/1!x+1/2!x2 +・・・
ですから,
x/(exp(x)−1)
=x/(x+x^2/2!+x^3/3!+・・・)
=1/(1+x/2!+x^2/3!+・・・)
=1-(1+x/2!+x^2/3!+・・・)+(1+x/2!+x^2/3!+・・・)^2-・・・
=1-1/2x+1/6x^2-1/30x^4+・・・
 
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 また,ベルヌーイ数と似たものにオイラー数やタンジェント数があります.オイラー数は,
  sechx=ΣEn/n!x^n
=E0/0!+E2/2!x^2+E4/4!x^4+・・・
で,べき級数
  coshx=1+1/2!x^2+1/4!x^4+1/6!x^6+・・・
の反転級数として定義されます.
 
 オイラー数では再帰公式
  (E+1)^n-(E−1)^n=0
が成り立ちます.
  E0=1,E2=-1,E4=5,E6=-61,E8=1385,E10=-50521,・・・
  E1=E3=E5=・・・=0
 
 一方,三角関数:tanxのベルヌーイ数を用いた展開
  tanx=Σ(-1)^(n-1)2^2n(2^2n−1)B2nx^(2n-1)/(2n)!
におけるx^(2n-1)/(2n−1)!の係数
  Tn=(-1)^(n-1)2^2n(2^2n−1)B2n/2n
はタンジェント数と呼ばれ,ベルヌーイ数の別の形の母関数表示を与えてくれます.
 
 すなわち,三角関数の展開公式にもベルヌーイ数がでてくるのですが,三角関数を楕円関数に置き換えても,展開係数はベルヌーイ数と似たような数論的性質をもってきます.これは三角関数についての現象を一般化するときの常套手段なのですが,その展開係数がフルヴィッツ数です.
 
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