■等周問題(変分の問題)

 
 古代ローマの叙事詩「アエネイス」に次のような物語があります.
『ディドーはフェニキアの王女であったが,弟のピグマリオンが彼女の夫を殺して王位に就いたため,臣下たちとともに脱出,地中海に面したアフリカの地に漂着した.その土地の支配者は,一頭の牛の皮を拡げただけの土地を売ってもよいとしぶしぶ約束した.ディドーはこの条件を最大限に活かすために,牛の皮を細く切り3ミリほどのひもにして,地中海の海岸線から半円を描き土地を囲んだ.こうしてカルタゴが建国され,ディドーはカルタゴの女王になった.』
 
 平面凸集合に関して,周の長さLが一定で面積Aが最大の図形(面積が一定で周の最小な図形)は円であるという事実はよく知られています.そのことは
  L^2≧4πA
という不等式(等周不等式)で表現されます.等号は円のときだけ成立します.
 
 これは周の長さが一定という付帯条件を課して,面積を最大にするという変分問題の1種であって「等周問題」と呼ばれますが,変分法の起源とみなされている問題で,その答が円であることは古代ギリシアの時代からよく知られています.ところが,厳密な証明が与えられたのは19世紀になってからのことで,シュタイナーやシュワルツ,フロベニウスによるものなど,いくつかの証明があります.直観に反して,厳密な証明は簡単ではないのです.
 
 同様に,3次元凸集合に対し,表面積をS,体積をVとするとS^3≧36πV^2が成り立ちます.等号成立は球のときだけで,すべての立体中で球が表面積に対して最大の体積をもっています.立体図形のS^3/V^2は平面図形のL^2/Aの相当していて,等周比あるいは等周定数と呼ばれます.コラム「幾何の問題(PartU)」では,等周不等式
  L^2≧4πA,S^3≧36πV^2
をどんな次元にも適用できるように公式化しましたが,それによると
  n次元表面積^n≧n次元体積^(n-1)n^nπ^(n/2)/Γ(n/2+1)
等号は超球のときに限ります.
 
 変分の問題は,幾何学の問題というよりも,解析学(微分積分学)の問題であって,18世紀半ばにオイラーとラグランジュによって,汎関数の最大・最小の問題を取り扱うための方法として基礎が固められました.変分は微分のアナローグであり,また,汎関数は関数を変数とする関数のことであって,関数の関数と理解されます.今回のコラムでは,由緒ある(古典的?)変分問題とともに,統計学における変分問題を取り扱ってみたいと思います.
 
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【統計学における変分問題】
 
 変分問題は,統計学ではノンパラメトリック法における漸近理論を展開するためにしばしば応用されます.コラム「SDとSE」の中で,検定のピットマン効率について触れましたが,ピットマン効率とは,母分布に応じて平均値の差異に関して最適な検定を想定して,その推定量が最良の推定量と同等の精度をもつために必要なサンプル標本サイズの逆数を示す指標です.
 
【t検定に対するウィルコクソン検定の漸近相対効率】
 
 証明はコラム「SDとSE」に譲りますが,ホッジス=レーマン推定量の漸近分散は
  φ(t)=2t-1,φ(t,f)=-f'[F-1(t)]/f[F-1(t)]
として,
  {∫(0,1)φ(t)φ(t,f)dt}^2/∫(0,1){φ(t)-φ}^2
  =12*{∫(-∞,∞)f(x)^2dx}^2
で与えられますから,t検定に対するウィルコクソン検定の漸近相対効率は
  {∫(0,1)(2t-1)φ(t,f)dt}^2σ2=12*{∫(-∞,∞)f(x)^2dx}^2σ2
で表されることになります.
 
 母分布を対称の範囲でいろいろに仮定したときのt検定に対するウィルコクソン検定の漸近相対効率は,この値を計算することによって
 
一様分布       1
三角分布       1.33(4/3)
正規分布       0.95(3/π)
ロジスティック分布  1.10(π^2/9)
両側指数分布     1.5(3/2)
コーシー分布     -
t分布
  (df=2)      -
  (df=3)      1.90
  (df=4)      1.40
  (df=5)      1.24
  (df=10)      1.05
 
 母分布がロジスティック分布ならば,ウィルコクソン検定は他の順位検定と比較して,最良の検出力をもっています.また,母分布が正規分布のとき,t検定は最適な検定(一様最強力不偏推定)となりますが,t検定に対するウィルコクソン検定のピットマン効率は0.95(3/π)と計算されます.これは,観測値のうちの5%を捨てるのと同じことになり,ウィルコクソン検定がt検定と同等の検出力を得るには1/0.95=1.05すなわち5%増のサンプルサイズを要することを意味しています.同様に,母分布が正規分布のとき,F検定に対するクラスカル・ワリス検定も3/π=0.95です.
 
 しかし,母分布が裾の重い分布に従うときには,ピットマン効率が1以上となり,t検定よりウィルコクソン検定のほうがかえって例数が少なかったりします.たとえば,表より,母分布が自由度5のt分布であれば,ウィルコクソン検定では1/1.24=0.81倍となり,かえって例数が少なかったりします.このように,母分布が裾の重い分布に従うときには,t検定よりウィルコクソン検定のほうが望ましいことがわかります.
 
 さて,表より,密度が正規型でなければ,ウィルコクソン検定の検出力はt検定以上となります.従って,検出力という観点から,もっとも好ましくない分布型は正規分布です.そこで,y=f(x)をy軸に関して対称な任意の分布の密度関数としたとき,この漸近相対効率(ARE)が最小となる分布は何か考えてみることにします.
 
 もちろん,この条件を満たす関数は無数に存在するわけですが,目的とする関数の関数,すなわち,汎関数を
  I[y]=∫(-∞,∞)f(x)^2dx
とおくと,この値を付帯条件:
  ∫(-∞,∞)f(x)dx=1
  ∫(-∞,∞)xf(x)dx=0
  ∫(-∞,∞)x^2f(x)dx=σ2
の下で最小にする,すなわち,もっとも不利な分布を求める変分問題ということになります.ラグランジュの未定乗数法を用いると,最も不利な分布の候補を簡単に見つけることができます.
 
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【ラグランジュの未定乗数法】
 
 ラグランジュの未定乗数法とは,たとえば,
「x3−3xy+y3=0の条件のもとでx2+y2の極値を求めよ」
といった条件つき極値問題などの解を得るために導入された方法です.
 
 x3−3xy+y3=0はデカルトの正葉線と呼ばれる曲線で,この曲線は原点(0,0)を通ったところでループを描き,その後はy=−x−1を漸近線とする長くゆるやかに曲がった弓形曲線を描きながら(∞,−∞),(−∞,∞)に遠ざかっていきます.
 
 一方,x2+y2は原点からの距離の2乗ですから,原点(0,0)で最小になること,無限遠点で無限大となることは関数の形から直ちにわかりますが,それ以外の点における挙動についてはよくわかりません.
 
  s(x,y)=x2+y2
として,極値の必要条件により,
  ∂s/∂x=2x=0
  ∂s/∂y=2y=0
としても,原点(0,0)で極小になることがわかるだけです.
 
 x3−3xy+y3=0が要請されている条件ですが,そこで,変数λを新たに導入して,目的とする関数を
  s(x,y)=x2+y2−λ(x3−3xy+y3)
として,sを極値にするx,yを求めます.
 
 極値の必要条件により,
  ∂s/∂x=2x−λ(3x2−3y)=0・・・・・(1)
  ∂s/∂y=2y−λ(3y2−3x)=0・・・・・(2)
  ∂s/∂λ=−(x3−3xy+y3)=0・・・・・ (3)
(1)より,λ=2/3・x/(x2−y)
(2)に代入して,λを消去すると,
  x2y+x2−y2−xy2=0
  (x−y)(xy+x+y)=0
したがって,
  x=y,または,(x+1)(y+1)=1
 
 計算を略しますが,x=y=0とx=y=3/2が候補として求められます.前者については極小値0,後者については極大値9/2をとることがわかります.このように,制約条件のある極値問題を解くには未定乗数λを導入して方程式を解けばよいことになり,制約条件のない場合の手法を用いて容易に解くことができることが理解されるでしょう.
 
 なお,デカルトの正葉線:x3 −3xy+y3 =0では,y/x=t,すなわちy=txとおくことによってパラメータ表示の形
  x=3t/(1+t3 ),y=3t2 /(1+t3 )
に書くことができますから,これを利用して変数の数を1つに減らすことも可能です.→【補】
 
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 当該の変分問題も,関数の候補を見つけるために,ラグランジュの未定乗数法を用います.微分の場合のラグランジュの未定乗数法に倣って,目的とする汎関数に付帯条件を課すと,
  I[y]=∫(-∞,∞)f(x)^2dx-λ∫(-∞,∞)f(x)dx-ν∫(-∞,∞)x^2f(x)dx
    =∫(-∞,∞){f(x)^2-λf(x)-νx^2f(x)}dx
 
 また,関数y=f(x)の近傍における比較関数
  y+δy=f(x)+αη(x)
を考えます.これをI[y]に代入すればαの関数
  I[y+αη]=∫(-∞,∞)[{f(x)+αη(x)}^2-λ{f(x)+αη(x)}-νx^2{f(x)+αη(x)}]dx
となります.
 
 α=0で極値をとらなければならないという必要条件,および,微分・積分の順序交換から,
  ∂I/∂α|(α=0)=∫(-∞,∞)[2f(x)-λ-νx^2]ηdx=0
したがって,解は放物線型密度関数になることがわかります.
 
 密度関数は偶関数ですから
  y=-ax^2+b  a>0,b>0
として,付帯条件を満足させるように未定係数を決定すると,
  a=3√5/(100σ^3),b=3√5/(4σ)
のとき,最小値
  I[y]=3√5/(25σ)
が示されます.
 
 これより,t検定に対するウィルコクソン検定のピットマン効率は任意の分布に対して12*(3√5/25)^2=108/125=0.864以上とかなり高い値となり,ウィルコクソン検定は非常に望ましいノンパラメトリック検定法であることがわかります.
 
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【t検定に対する符号検定の漸近相対効率】
 
 次に,t検定に対する符号検定(中央値検定)の漸近相対効率を求めてみます.標本中央値の漸近分布は,母集団のメジアンをμmとすると,メジアンの分布は漸近的に正規分布N(μm,1/{4n[f(μm)]^2})になりますから,標本平均の漸近分散と標本中央値の漸近分散の比をとることによって,t検定に対する符号検定の漸近相対効率は,
  ARE=4f^2(0)σ^2
で定義されます.
 
 母集団分布が正規分布に従うとき,標本平均値と標本中央値は一致しますが,分散は標本中央値のほうが大きくなり,標本中央値の分散は標本平均値の分散のπ/2倍になることが示されます.これより,標本中央値は標本平均に比べて(σ2/n)/(πσ2/2n)=2/π=0.637(約63.7%)の有効性しかもたないことがわかります.また,自由度νのt分布であれば母分散はν/(ν-2)ですから,標本平均の漸近分散はν/(ν-2)/n,一方,標本中央値の漸近分散は1/4n{f(0)}2=1/4νπΓ2(ν/2)/Γ2((ν+1)/2)/4nです.また,母分布が両側指数分布ならば,符号検定は他の順位検定と比較して,最良の検出力をもっています.
 
 これらを,まとめると以下の表が得られます.
 
一様分布       0.33(1/3)
三角分布       0.67(2/3)
正規分布       0.64(2/π)
ロジスティック分布  0.82(π^2/12)
両側指数分布     2
コーシー分布     -
t分布
  (df=2)      -
  (df=3)      1.62
  (df=4)      1.13
  (df=5)      0.96
  (df=10)      0.76
 
 標本平均は,母集団が正規分布N(μ,σ2)に従うとき,それぞれ母平均μ,の不偏推定量であり,かつ,あらゆる不偏推定量のなかで分散が最小です.したがって,正規分布の平均を推定するには,標本平均が一番よい推定量です.しかしながら,母分布が正規でなかったりという状況では必ずしも最適な推定量とはいえませんし,また,標本平均は外れ値の影響を受けやすいという欠点もあります.
 
 正規分布の場合は標本中央値の分散のほうが大きくなりましたが,表からわかるように,正規分布より少しでも裾が長いと想像されるときには,それがどんな分布であっても,位置母数推定に関しては,標本中央値のほうが標本平均よりAREが1より大きいか,または小さくてもそれ程小さくないという点で優れていると考えられます.この性質を称して,標本中央値は位置母数のロバスト推定量であるといいます.
 
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 y=f(x)をy軸に関して対称な任意の分布の密度関数としたとき,t検定に対する符号検定の漸近相対効率が最小となる分布は何かという変分問題を考えてみることにしましょう.
 
 汎関数を
  I[y]=∫(-∞,∞)x^2f(x)dx
とおいて,この値を付帯条件:
  ∫(-∞,∞)f(x)dx=1
  ∫(-∞,∞)xf(x)dx=0
の下で最小にするにするには,t検定に対するウィルコクソン検定の漸近相対効率の場合と同様にして,
  I[y]=∫(-∞,∞)(x^2-λ)f(x)dx
  ∂I/∂α|(α=0)=∫(-∞,∞)(x^2-λ)ηdx=0
 
 0≦f(x)≦1,f(0)=1としても一般性を失わないわけですから,これより解は一様分布になることがわかり,ARE≧1/3を示すことができます.
 
 なお,
  f(x)=-a|x|^n+b  a>0,b>0
なる分布は,n=0のとき一様分布,n=1のとき三角分布,n=2のとき放物線分布ですが,nが大きくなるにつれて,テレビのブラウン管のように角が押しつぶされた矩形になり,ディラックのδ関数に近づいていきます.三角分布では4f^2(0)σ^2=2/3,放物線分布では4f^2(0)σ^2=9/20と計算されます.
 
 また,両側指数分布(ラプラス分布)を一般化した誤差分布がSubbotinによる指数べき分布です.
 
  f(x)=[2^(δ/2+1)Γ(δ/2+1)]^(-1)φ^(-1)exp[-1/2|(x-θ)/φ|^(2/δ)]
    μr=0  (r:奇数)
    μr=φ^r2^(rδ/2)Γ((r+1)δ/2)/Γ(δ/2)  (r:偶数)
 
 これはパラメータの値によって,両側指数分布(δ=2)→正規分布(δ=1)→一様分布(δ→0)と形を変えるところから,誤差関数を一般化したものと考えることができます.この分布では,
  4f^2(0)σ^2=[Γ(δ/2+1)]^(-2)・Γ(3δ/2)/Γ(δ/2)
と計算されます.
 
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【スプライン関数】
 
 スプライン関数とは,多項式を連続条件を満たすように接続した区分多項式であり,たとえば,3次スプライン関数はその多項式に2次導関数まで連続となるような3次式を用いたものです.
 
 3次スプライン曲線   : y=ax3 +bx2 +cx+d
 1次導関数(曲線の傾き): y’=3ax2 +2bx+c
 2次導関数(曲率)   : y”=6ax+2b
 
 通常,曲線の始点と終点ではその外側に接続されるべきセグメントがないので,境界条件としては両端点における2次微係数を0とした自然スプライン曲線により任意の点における曲線形状を定めます.
 
 すなわち,3次スプライン関数はyもy’もy”も連続となるように接続したものですが,m次スプライン関数は連続条件を満たすように接続したm次の区分的多項式であり,m−1次導関数まで連続となります.
 
 スプライン関数における変分問題では,まず,n個のデータ点(xi,yi)を通る曲線y(x)を考えます.もちろん,これらの条件を満たす関数は無数に存在します.たとえば,単純なものでは折れ線がありますが,ラグランジュ補間関数(n個の標本点において与えられた値をとるn−1次の多項式)やエルミート補間関数(標本点における微分係数まで一致する2n−1次の多項式)なども候補に上げられます.
 
 そこで,それらのなかで歪エネルギーを最小にする関数を求めます.歪エネルギーE[y]とは,曲率半径の逆数の2乗になりますから,
  E[y]=Σ∫(y")^2/(1+(y')^2)^5/2dx
しかし,これを解くのはかなり困難です.そこで,分母の(y')^2を無視して,
  E[y]=Σ∫(y")^2dx
を最小にするy(x)を求めることにします.
 
 計算は略しますが,一般に
  E[y]=Σ∫{y(k)}^2dx
が最小になるのはy=f(x)が2k−1次の自然スプライン関数のときであることがわかっています.k=2,すなわち,スプライン関数が3次のとき
  E[y]=Σ∫(y")^2dx
の値が最小になりますが,これは曲率最小化の性質と呼ばれます.
 
 このように,3次のスプライン関数は歪エネルギーを最小にする曲線であり,自在定規によって描かれた曲線は3次のスプライン関数に近似的に等しいこと,および,近似精度と計算量の兼ね合い(1次・2次では近似精度が不十分,3次を越えれば計算量がかなり増加する)からもっとも多く利用されています.
 
 また,ラグランジュ補間・エルミート補間は計算量は少ないのですが,高次式であるため振動しやすい欠点を有しています.それに対して,3次スプライン補間は3次式で補間するため多項式補間よりも振動しにくく,変曲点も表現できる優れた性質をもつ補間法ですので,実験データの処理に有効です.
 
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【懸垂線】
 
 伸び縮みしないひもの両端を固定しぶら下げてできる曲線を懸垂線(カテナリー)といいます.ひもの両端をもちあげたときに,そのひもがどのような形状をとるかは,古くからある変分問題のひとつで,長さと端点が固定されている曲線:y=f(x)の位置エネルギーを最小とする関数形を求めよということになります.
 
 微小部分における曲線の長さは√{(dx)^2+(dy)^2}=√{1+(y')^2}dx
また,そこでの位置エネルギーは高さyに比例しますから,位置エネルギーは,
  U[y]=∫y(1+(y')^2)^1/2dx
で定義されます.
 
 また,ひもの長さは
  L[y]=∫(1+(y')^2)^1/2dx
であり,この問題は条件付き極値問題ですから,ラグランジュの未定乗数法を用いて解くことができます.
 
 ここでは問題を定式化するだけで,実際の計算は略しますが,その解は端点の位置に関わらず,双曲余弦関数
  y=a/2{exp(x/a)+exp(-x/a)}
になります.懸垂線はちょっとみると放物線ではないかと思われがちですが,放物線よりもずっときつく上昇する曲線です.
 
 一方,ゴムひものように伸び縮みする素材で作られたひもの両端をもってぶら下げたときに,ひもがとる形状はカテナリー(懸垂線)とはなりません.この場合,ひもの長さは固定されておらず,位置エネルギーだけでなく,張力エネルギーとの和を最小とするような形状をとるからです.
 
 張力エネルギーは微小部分のひもの伸びの2乗になりますから,
  T[y]=∫{(1+(y')^2)^1/2-a}^2dx
ここで,(1+(y')^2)^1/2がaに比べてきわめて大きい状態に理想化すると,
  T[y]=∫(1+(y')^2)dx
 
 そして,c1*U[y]+c2*T[y]の変分問題を考えると,その解は放物線となります.カテナリーは代数曲線ではありませんでしたが,ここでまた代数曲線が登場しました.
 
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【懸垂曲面】
 
 懸垂線の問題を解いたのはベルヌーイであったのですが,変分法によって,懸垂線は与えられた2点を両端とする一定の長さの曲線をx軸を軸として回転させたときにできる曲面の表面積を最小にする曲線であることも簡単に導かれます.
 
(証明)y=f(x)>0のグラフをx軸を中心に回転させてできる曲面の面積を最小にしたい.曲面の面積は
  S[y]=2π∫y(1+(y')^2)^1/2dx
 これは懸垂線で考えた位置エネルギーの2π倍ですから,解は懸垂線を回転させたものであり,懸垂曲面(カテノイド)と呼ばれています.なお,回転極小曲面は懸垂面のみであることが示されています.
 
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【弾性曲線】
 
 ピアノ線を曲げたときにできる形(弾性曲線)について考えてみることにしましょう.
 
 弾性曲線の問題では,弾力のある素材からできていて,ひものように容易に曲がったり,ゴムひものように伸び縮みするわけでもないわけですから,数学的には曲線の長さ:
  L[y]=∫(1+(y')^2)^1/2dx
を固定して,弾性エネルギー:
  E[y]=∫(y")^2/(1+(y')^2)^5/2dx
を最小にするy(x)を求めることになります.
 
 その際,弧長の制約条件や被積分関数の分母の(y')^2を無視して大ざっぱに計算すると,この解は3次曲線で近似されるわけですが,きちんと計算すれば,解は初等関数では表されず,楕円関数になります.
 
 表面積:
  S[y]=2π∫y(1+(y')^2)^1/2dx
を固定して,y=f(x)をx軸を軸として回転させたときにできる回転体の容積:
  V[y]=π∫y^2dx
を最小にする曲線は,冒頭に掲げたディドーの等周問題の拡張版ですから,回転体は半球.したがって,曲線は四分円となります.
 
 ここでは,表面積ではなく,曲線の長さ:
  L[y]=∫(1+(y')^2)^1/2dx
を固定して,回転体の容積:
  V[y]=π∫y^2dx
が最大になる曲線を考えてみます.この解は楕円関数になることが知られています.
 
 楕円関数はフェルマー予想の解決で注目された曲線ですが,弾性曲線や最大容積回転体の変分問題の解を数学的に表現したものになっていて,歴史的にみて,これらの変分問題は楕円関数の研究動機のひとつとなったということができましょう.→【補】
 
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【サイクロイド】
 
 固定した直線上を円が滑らずに転がるとき,回転円上の固定点のなす軌跡はサイクロイドと呼ばれ,回転円の半径をrとすると
  x=r(θ−sinθ),y=r(1−cosθ)
と書くことができます.この曲線は2変数多項式f(x,y)=0の形に表せませんから,代数曲線でありません.
 
 サイクロイド弧が囲む面積は3πr2 (回転円の面積の3倍に等しい),弧長は8r(回転円に外接する正方形の周に等しい)になります.また,サイクロイドには,
  dx/dθ=y
の他にも,いくつかの興味深い特性があります.
 
【最速降下線】
 
 1696年,ベルヌーイによってヨーロッパ中の優れた数学者に対して,質点が重力だけの作用の下で滑らかな曲線に沿って運動するとき,到達までの所要時間が最小になるような曲線は何か?という「最速降下線」の問題が提出されました.
 
 微小部分における曲線の長さは√{1+(y')^2}dx,また,そこでの速度は重力だけの作用下ですから,高さの平方根√yに比例します.したがって,変分問題は,
  T[y]=∫{(1+(y')^2)/y}^(1/2)dx
を最小とするyを求めることになります.解は直線ではありません.
 
 ニュートンは直ちにこれを解き,匿名で解答を送ったが,ベルヌーイはその解法を見てすぐに解答者を知ったという逸話は余りにも有名です.私には,たとえ積分公式集があったとしても,計算は面倒そうに思えるのですが,その答えがサイクロイドだったのです.そして,重力場において2点間を滑りおりる最短時間の曲線の問題を解決するために工夫された方法が,のちに変分学に発展しました.
 
【等時曲線】
 
 ガリレオ・ガリレイは16世紀の終わりにピサの斜塔で有名な落体の実験を試みましたが,さらに大聖堂のシャンデリアの動きから振子の等時性を発見しています.
 
 糸の長さlに質量mの錘のついた振り子の運動方程式は,
  mldθ2 /d2 t=−mgsinθ
で表されますが,
  sinθ=θ−1/3!θ3 +1/5!θ5 −・・・
より,小さな振幅に限るとsinθ≒θとしてよいので
  mldθ2 /d2 t=−mgθ
となります.この方程式は線形なので解くことができ,周期
  T=2π√l/g≒2√l
が得られます.したがって,周期はl=25cmで約1秒,l=1mで約2秒となり,振幅には拠りません.
 
 これが有名な「振り子の等時性」ですが,この現象は振幅が小さい場合に限って成立します.しかし,振幅が大きいと,復元力はsinθに比例し,積分は楕円積分となります.その場合の周期として
  T=4√(l/g)K(k)
が得られますが,この式は振幅が小さいとき
  T≒2π√(l/g)
と近似されます.
 
 現実には振幅はそれ程小さくなく,無視できない差が生じます.楕円積分が登場するため,線形性はくずれ非線形になるからです.しかし,サイクロイドを用いると,周期が振幅に依存しない正確に等時性をもった振り子を作ることができます.振幅角が大きいとき振子の長さを短くすればよいのですが,ホイヘンスはサイクロイドが等時曲線(所要時間が質点の位置に関係なく一定である曲線)であることを発見し,等時性からのずれを補正するためにサイクロイドの縮閉線を利用しました.サイクロイドの縮閉線にはもとのサイクロイドと合同なサイクロイドになるという性質があるからです.→【補】
 
 なお,サイクロイド振り子の周期は
  T=4π√r/g≒4√r
です.サイクロイドはそもそもガリレイによって発見され,ホイヘンスによって振子時計の設計に使われ,そしてパスカルの積分法の研究にも貢献しています.
 
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【石けん膜と極小曲面】
 
 19世紀のベルギーの物理学者プラトーは,石けん膜に関する面白い実験結果を報告しました.その実験によれば,針金で輪をつくれば,それがどんな形の囲いであっても,必ず石けん膜が張られるというものです(1873年).
 
 物理的には,石けん膜では表面張力によって表面積最小の曲面が実現します.もし,輪をひねって立体的な形にしたものを石けん液に浸して引き上げると,そこの複雑な形の曲面ができることになりますが,その場合でも針金の枠のなかでは最小の表面積をもった膜が実現し,こうして一定の枠のなかにできる最小面積の曲面の形が決定できるわけです.
 
 プラトーによって提起された問題は,いい換えれば,閉曲線を境界とする最小表面積の曲面を求める変分問題に他なりません.これに対する数学的な問題は,3次元ユークリッド空間の中に任意の閉曲線Cを与えたとき,Cを境界とする極小曲面は,どんな閉曲線に対しても存在するかどうかという問題となり,プラトー問題として知られるようになりました.プラトー問題の解は物理的には石けん膜として存在しますが,数学的には極小曲面の存在証明がなされたわけではないのです.
 
 極小曲面の存在と一意性を扱うこの問題は,1930〜1931年,アメリカの数学者ダグラスとハンガリーの数学者ラドーによって独立に解決されました.この業績により,ダグラスは1936年に第1回フィールズ賞を受賞しています.
 
 懸垂面は極小曲面(表面積最小曲面)の重要な例ですが,常螺旋面,エネッパー曲面,シェルク曲面など,極小曲面については非常に多くの例と結果が知られています.
 
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【シャボン玉と平均曲率一定曲面】
 
 石けん膜の数学的定式化として,極小曲面がありますが,石けん膜といえば,シャボン玉を思う浮かべる方も多いと思われます.しかし,シャボン玉は極小曲面ではありません.シャボン玉は中の空気が閉じこめられていて,その容積が変わらないという条件のもとで,面積の変分問題に対応しています.
 
 ところで,シャボン玉はなぜ丸いのでしょうか? はしがきで述べた等周不等式
  S^3≧36πV^2
に関係していることは直感的に発想できるでしょうが,球面はその自明な解です.また,極小曲面が石けん膜であったとき,膜の両側の気圧は等しい状態にあるのですが,膜の両側に気圧差があれば,シャボン玉の中の気圧と表面張力のバランスで半径が決まることになります.
 
 曲面の各点で曲がり方が最もきつい方向と緩やかな方向がありますが,平均曲率とは2方向の曲率の相加平均で定義されます.実は,体積固定の表面積の変分問題は,平均曲率一定曲面に対応しています.すなわち,平均曲率が一定(≠0)の曲面は,体積一定のまま表面積を最小にすることによって得られますが,球面はその自明な例です.また,平均曲率が恒等的に0である曲面は極小曲面と呼ばれ,これがプラトー問題の数学的な定式化でした.
 
 前述したように,回転面で極小曲面は懸垂面(カテノイド)に限られたのですが,回転面で平均曲率一定曲面は球面とは限りません.このような曲面はドローネー曲面と呼ばれていますが,1841年,ドローネーは,平均曲率一定の回転面をすべて決定し,それが平面・円柱面・球面・懸垂面・アンデュロイド・ノドイドに分類されることを示しました.
 
 また,ホップの予想「球面がただひとつの閉じた平均曲率一定曲面である」は正しいと思われていたのですが,1984年,ヴェンテによって,球面とは異なる平均曲率一定曲面の反例が発見されたのを契機に,平均曲率一定曲面の研究は大きな進展をみせることとなりました.
 
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【擬球面上の幾何学】
 
 曲面の曲がり方を測る尺度としては,平均曲率のほかにも,ガウス曲率があります.ガウス曲率は曲率の最大値と最小値の積で定義されますが,ガウス曲率は非ユークリッド幾何学発展の基礎として重要です.
 
 たとえば,正の定(ガウス)曲率をもつ回転面としては,半円を回転させた球があるのに対して,負の定曲率回転面としては追跡線:
  x=a(logtan|θ/2|+cosθ),y=asinθ
を回転してできる擬球面があります.→【補】
 
 前術したカテナリー(懸垂線)の伸開線が,トラクトリックス(追跡線)であって,追跡線上の点とその点での接線がx軸と交わる点との距離aは常に一定です.この性質が追跡線というこの曲線の名前の由来で,ある長さのひもの先に石を結びつけて引っ張りながらx軸上を歩くと,石は常に引く人の方向に向かって進みますから,石の通る軌跡が追跡線になります.石を犬に置き換えると,追跡線は犬の散歩をするときの曲線ですから,別名,犬線あるいは犬曲線とも呼ばれています.
 
 擬球は追跡線をx軸のまわりに回転して得られる回転体で,2つのラッパを広い方の口のところで張り合わせたような格好になっていて,交わるところで滑らかでありません.また,x軸の±方向に無限に伸びている部分がありますから,非コンパクトです.球とは似ても似つかないのですが,擬球という名前はどこから来ているのでしょうか?
 
 追跡線の方程式:
  x=a(logtan|θ/2|+cosθ),y=asinθ
と,原点を中心とする半径aの円の方程式:
  x=acosθ,y=asinθ
を比べてみましょう.x座標のalogtan|θ/2|が異なるだけです.ですから,両者にはかなり似ている性質があるのではないかと思われます.実際,以下の対応関係をみると,非常に似た関係にあることがわかります.
 
    トラクトリックス          円
  回転体は擬球         ←→ 回転体は球
  回転体の断面積(πa^2)   ←→ 円の面積(πa^2)
  回転体の表面積(4πa^2)  ←→ 球の表面積(4πa^2)
  回転体の体積(4/3πa^3) ←→ 球の体積(4/3πa^3)
 
 追跡線をx軸(漸近線)のまわりに回転すると,ガウス曲率が負で一定の曲面(擬球面)ができます.定数aをその擬半径といいますが,このように球と比較してみると,名前の由来がうなづけます.
 
 ところで,曲面上の2点を結ぶ最短の線を直線とみなせば,驚いたことに,この擬球面上の幾何学はユークリッド幾何学の平行線の公理を「直線外の1点を通り,その直線に平行な直線は無数に存在する」によって取り替えて導かれる双曲的非ユークリッド幾何学と同じになります.双曲的非ユークリッド幾何学はボヤイとロバチェフスキーがそれぞれ独立に,しかも同じ時期に発見したもので,擬球面は,非ユークリッド幾何を3次元ユークリッド空間内の曲面として実現させている曲面なのです.
 
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【参考文献】
 
1.Hodges JL, Lehmann EL (1956): The efficiency of some nonparametric competitors of the t-test, Ann. Math. Statist., 27(2), 324-335
2.小磯憲史「変分法」共立出版
3.剣持勝衛「曲面論講義」培風館
 
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【補】ワイエルシュトラスの楕円曲線
 
 y=ax3 +bx2 +cx+dという方程式で定まる曲線はおなじみの3次曲線ですが,yのところがy2 に変わるとワイエルシュトラスの楕円曲線:
  y2 =ax3 +bx2 +cx+d
になります.ただし,a,b,c,dは有理数で,右辺の3次式は重根をもたないものと仮定します.楕円曲線をワイエルシュトラス形式に制限しても一般性を失いません.実際,どのような楕円曲線もワイエルシュトラス形式の楕円曲線に双有理的に同値だからです.
 
 また,x2 の項の係数はx’=x+b/3aと変数変換することによって簡単に消すことができますから,
  y2 =x3 +ax+b   (4a3 +27b2 ≠0)
を楕円曲線と定義しても構いません.4a3 +27b2 ≠0は重根をもたないための条件です.
 
 楕円曲線の例として,y2 =x3 +1(a=0,b=1)をあげますが,この曲線のグラフはまったく楕円ではありません.楕円と楕円曲線はまったく異なるもので,楕円の孤の長さを求める楕円積分問題とかかわっていることから楕円曲線という名前がつけられています.
 
 ところで,x座標もy座標も整数である点を整数点,座標が有理数である点を有理点といいます.また,命題
  「x4+y4=z4をみたす自然数は存在しない」
は,命題
  「y2=x3−xの有理数解は(x,y)=(0,0),(±1,0)のみである」
に帰着できます.なぜなら,x4=z4−y4の両辺にz2/y6をかければ
  (x2z/y3)2=(z2/y2)3−(z2/y2)
となるからです.実際,y2=x3−xの有理点は点(0,0)(±1,0)のみであり,この命題は真であると判定されます.
 
 また,命題
  「1以外の3角数は立方数ではない」
すなわち,1/2y(y+1)=x3は,(2y+1)2=(2x)3+1と書き換えられますから,楕円曲線:y2=x3+1の整数解に関する主張だと解釈できます.楕円曲線:y2 =x3 +1には無限に多くの整数点があるでしょうか.あるいは一つでも整数点はあるでしょうか.実は,これには整数点は(2,±3),(0,±1),(−1,0)の5つしかありません.したがって,この命題も真であると判定されます.また,この楕円曲線には有理点もやはりこの5つしかないのです.
 
 また,y2 =x3 −2は(3,±5)以外の整数点をもちませんが,無数に有理点が得られます.たとえば,(129/100,±383/1000).y2 =x3 −4の整数点は(2,±2),(5,±11)ですが,有理点は(106/9,±1090/27)など無数個存在します.一般に,バシェの方程式:y2 =x3 −aには有限個の整数解しかないのですが,たとえば,a=−7に対しては1つも整数解がありません.また,a≠−1,432ならば曲線上には無限個の有理点があることがわかっています.
 
 少し挑戦してみると分かるのですが,これらを証明するのはほとんど不可能に見えるほど難しい問題です.楕円曲線上に有理点が無限個のっていたり,有限個であったり,あるい全くなかったりすることは図をいくらにらんでもわからない問題ですが,これらは,以下に述べる性質に拠っているのです.
 
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【補】有理曲線のパラメトライズ
 
 曲線上の有理点全体を1つの変数の有理式として表すことのできる曲線を有理曲線といいます.楕円曲線は有理曲線でないことが知られています.
 
(2次曲線)
 原点を中心とする半径1の円:x2 +y2 =1の円周上のひとつの有理点が(0,1)です.この点を通る直線y=mx+1と単位円との交点は,代入して因数分解すれば
x2+(mx+1)2=1
x((1+m2)x+2m)=0
より
x=(2m)/(1+m2 ),y=mx+1=(1−m2 )/(1+m2 )
と表すことができます.これによって,円周上の点(x,y)が有理点であるためには,mが有理数であることが必要十分条件であることがわかります.すなわち,単位円上のすべての有理点は,mの関数
x=(2m)/(1+m2 ),y=±(1−m2 )/(1+m2 )
で表すことができます.
 
 x2 +y2 =2(半径√2の円)において(1,1)は有理点で,この点を通る直線の方程式
y−1=m(x−1)を(x2−1)+(y2−1)=0に代入して因数分解すると
x=(m2−2m−1)/(m2+1)
y=(−m2−2m+1)/(m2+1)
が得られます.m=∞に対応する(1,−1)も有理点です.
 
 このように,円の有理点全体は1つの変数mによって一意化できますが,円ばかりではなく,現在では2次曲線に1つでも有理点があると実は無限に有理点があることがわかっています.2次曲線は有理点を無限のもつか,1つももたないかのどちらかであって,たとえば,x2 +y2 =3(半径√3の円)の上には有理点は1つも存在しません.このことは,互いに素な整数a,bに対する平方の和a2 +b2 は3で割れないということからわかります.
 
(3次曲線)
 デカルトの正葉線:x3 −3axy+y3 =0(a>0)
はx+y+a=0を漸近線とする3次曲線ですが,原点(0,0)が有理点ですから,y=mxとおくことによってパラメータ表示の形に書くことができます.
x=3am/(1+m3 ),y=3am2 /(1+m3 )
 
 この3次曲線は重根をもち,原点(0,0)が特異点になります.そのため,この曲線上のすべての有理点を,このようにパラメトライズすることができました.同様に,y2=x3やy2=x2(x+1)は楕円曲線ではありません.前者は(t3,t2),後者は(t2−1,t(t2−1))とパラメトライズできます.一般に,f(x,y)=0が3次式のとき,その曲線上に特異点と呼ばれる点が存在するかどうかで,曲線のもつ性質が大きく異なってきます.
 
 ワイエルシュトラス形式の特異点は有理点であり,曲線上に特異点があれば,適当なパラメータmによりx,yはmの多項式として表されます.そして,xとyがmの有理式として表されるとき,有理曲線となり,2次曲線とよく似た性質をもちます.
 
 一方,特異点がなければ,楕円曲線と呼ばれる非有理曲線で2次曲線とは本質的に異なってきます.2次曲線はすべて有理曲線ですが,3次曲線が異なる3根をもつ有理係数の多項式の場合は,有理勾配の方法によるパラメトライズは有効には働きません.すなわち,楕円曲線は有理曲線でないため有理関数で表わすことはできませんが,楕円関数でパラメトライズすることは可能です.
 
 ところで,フェルマーの最終定理
『x^n+y^n=z^nでn≧3のとき,x,y,zは正の整数解をもたない.』
を解くことは,2変数n次多項式f(x,y)=x^n+y^n−1=0に,有理数解があるか,すなわち有理点をもつかどうかを考える問題に対応します.1970年代,フェルマーの問題を征するために必要となるのが楕円曲線であることが明らかになりました.楕円曲線には,楕円曲線と三点で交わる直線で,そのうちの二つの交点の座標がわかれば他の一点の座標も計算でき,二つの点の座標が有理数ならば,他の一点の座標も有理数であるなどの性質をもっています.a^p+b^p=c^pを満たすような楕円曲線:
  y^2=x(x+a^p)(x−b^p)
が保型関数によってパラメトライズできないことの証明がフェルマーの最終定理の証明に繋がるのですが,これ以上はかなりこみいった話になるので追求しないでおきましょう.(楕円曲線の有理点の有無ではなく,楕円曲線そのものが存在しないことを示すのである.)
 
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【補】伸開線と縮閉線
 
 曲線Lのまわりに巻かれた糸があり,この糸をぴんと張ったままほどくと糸の自由端によって曲線Mが描かれるとします.MをLの伸開線(インボリュート),LをMの縮閉線(エボリュート)と呼びます.
 
 円の伸開線,すなわち円に巻きつけた糸の一端の軌跡は
  x=a(cosθ+θsinθ),y=a(sinθ−θcosθ)
と表され,歯車の歯形として工学に応用されています.また,放物線:y=x2 の縮閉線はy=1/2+3(x/4)2/3 です.逆に,半立方放物線:y2 =ax3 の伸開線は放物線になります.
 
 サイクロイド:
  x=r(θ−sinθ),y=r(1−cosθ)
の縮閉線は
  x=a(θ+sinθ),y=−a(1−cosθ)
です.ここで,θ=π+tとおけば
  x=a(t−sint)+aπ,y=a(1−cost)−2a
ですから,もとのサイクロイドと合同なサイクロイドになることが示されます.
 
 また,カテナリー(懸垂線)の伸開線は,トラクトリックス(追跡線):
  x=a(logtan(θ/2)+cosθ),y=asinθ
と呼ばれています.
 
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