■はじめに

 科学技術を立国基盤とするわが国では、科学技術の強化が政策の大きな柱となっていて、基礎的研究を強化するとともに、高度な自主技術の開発を積極的に推進することが必要になります。科学技術が国民生活の向上に果たしてきた役割については評価を待たないところであって、技術立国である日本が経済大国を維持し生き残るためには、さらなる科学技術の発展が不可欠ですが、近年、工業先進国では「理数離れ」が叫ばれ、わが国とてその例外ではありません。理数系は社会での必要性が高いにもかかわらず、賢明な学生までもが理数系を拒否しているという理由はなんなのでしょうか。氾濫する情報と過剰な物質にこそ恵まれてはいるが、精神の豊かさを尊重しない先進工業国にあっては何も創造しようとしないまま環境に翻弄され、それでよしとしてしまうのでしょうか。

 大袈裟かもしれませんが、わたしは、科学がこれほど人気がないというのは危険な状態だと思いとても心配でなりません。そこで、「閑話休題」では理数系の人気回復を図るために、数学や物理がおもしろくなり、科学する心を育みそれを磨きあげるための挿話や最近の気になる話題をまとめることにしました。月に1篇のペースで数学や物理に関連した事項を解説していきたいと考えています。空想力・想像力(イマジネーション)なしには創造(クリエーション)はできません。理数離れをくいとめるには想像力に訴えること、現代科学の内容を知ることが必要になってきますが、まずは過去の研究業績を理解して楽しむことから始めたいと思います。過去の研究業績を理解して、解決した問題、否定的に解けた問題、新たな未解決問題を知ることは独創性の高い研究をめざすヒントとしても役立つはずで、科学に潜んでいる底知れぬおもしろさが伝わり独創性へのチャレンジ精神が啓発できれば幸甚です。初回は数学の話題(オイラーのゼータ関数)について取り上げますが、漸次、物理の話題(量子力学の概念が体系化されるきっかけとなった熱放射とゼータ関数の関連など)についても述べてみたいと存じます。

 本稿は科学について知りたい方となぜ科学が必要かを知りたい方のために書きましたが、数理をまったく理解できない方へのはなはだ乱暴な説明法として、平易な喩えをいったらすんなり理解してもらえたという経験から、小説のように読めることを目指して構成しています。とはいっても、私自身は本業のかたわら趣味で数学に取り組んでいるアマチュア数学愛好家であり、大した天分もなく数学的素養さえおぼつきません。一般の人にとって(無論、私にとっても)数学はとっつきにくいものです。芸術作品ならば、ともかくみることだけは可能ですが、現代数学の最先端は専門家以外には手の届かないところに進んでしまい、内輪の数学者たちにさえ解読不能だといいます。ましてやプロの数学研究者ではない私が、自分の能力を超えて、数学や物理の未解決問題が最終決着するまでの解説をするという大愚を敢行するわけですから、誤解や混同があるやもしれません。材料の性質上、あまり誉められたことではありませんが、何卒ご勘弁、ご容赦を願います。(最初にお断りしておきますが、本稿のような荒っぽい説明でわかる人はたいしたものです。)