■偉大なるサイエンティストの流出

 
【注】私の悪い癖なのですが,今回のコラムでもタイトルとはほとんど関係のない書き出し部分が長くて,なかなか本題までたどり着けません.書き出しを読むのも待てない(せっかちな)人は【ここからが本題】のところからお読み下さい.
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 連日,旧石器発掘ねつ造事件が新聞紙上を騒がせていますが,科学論文には間違ったものがいくらでもあるといったら驚かれるかもしれません.F氏の行為は,いわば功を争うあまりの勇み足であり,科学研究分野であってもこのようなガセネタは数多く実在するのです.なぜなら,ひとつの分野に科学者が集中すると必然的に激しい競争が展開されることになり,そうなると各研究者のサバイバルをかけた生存競争は,生産性の向上のみならずモラルの低下にも繋がりますから,その結果,まったくうその報告文を書く科学者も出現するし,ネイチャー誌などファッショナブルな科学雑誌になればなるほど虚偽報告の頻度も高くなるという始末です.
 
 「ねつ造」とよく似た行為に「改ざん」があります.通常,医学・薬学データでは大きなバラツキがみられますから,自分にとって都合の悪いデータを特異なものとみなして,故意に検討の対象から除外して解析するというケースは少なくありません.極めて残念なことですが,かつて私も某研究者がデータを改ざんし「対共産圏輸出用」と嘘ぶく姿を目の当たりにしたことがあります.そこまでして教授を喜ばせたいのか?と思うと悲しくなりましたが,このようなデータ改ざんは日常的に行われているととられても仕方ありません.科学者はこれまで科学研究上の誤りに対して,科学者同士で相互批判しあうことによって排除してきたのですが,近年は自浄努力が少し揺らいできた証拠でもあります.
 
 研究をする動機は人さまざまでしょう.競争心や負けん気から,または名誉心・功名心から,一身の栄達・地位を確保するため,あるいは人に忘れ去れぬため,等々.どのような動機にせよ,よい仕事の生まれることもあるでしょうから,人間の営みである以上,競争心や功名心も一概に排斥すべきではないと思いますが,旧石器発掘ねつ造事件の場合,単なる功名心や権力志向から起こったものだとはいい切れないところがあります.
 
 誤解を覚悟でいえば,私は大学内で自然科学をこよなく愛する人と巡り会ったことがありません.一方において,アマチュアの考古学研究家から出発したF氏の方が学問そのものの魅力に惹かれ,純粋な気持ちで仕事にあたっていたと思われるのです.ところが,業績があがるにつれてさらなる結果が求められるようになり,庇護してくれる学閥等をもたないF氏は追いつめられるはめになったのでは,・・・.
 
 厳しいノルマを課せられている人,常に結果を出すことを要求されている人は研究者に限らず大勢いるでしょう.もちろんF氏の行為はペナルティーものですが,ことの善悪はさておき,ノルマ達成をかかげられている人達にとって,F氏をねつ造に駆り立てた気持ちはよく理解できるのはないでしょうか?
 
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 さて,私は大学で自然科学をこよなく愛する人と巡り会ったことがないと書きましたが,それは言い過ぎでした.とはいっても,そのような人はほんの数人に過ぎませんから,前言を撤回するまででもありません.
 
 たとえば,S氏の場合,本来は学者肌の人ですが,同時にジャーナリスティックな時代感覚をもっていて,鋭い社会論評もよく彼の才能を証明していました.しかし,このような幅の広い才能は,学問の世界でも,現実的な世界でも居心地の悪い思いをするものであって,自分のイマジネーションとインスピレーションに自信を喪失したことをきっかけに,さっさと数学の世界から引退してしまいました.
 
 また,I氏の場合,彼は自分の学問とはかけ離れた分野のことであっても,完全には理解できないまでも,その重要性だけは認識できるタイプの研究者でした.すなわち,名伯楽の素質を備えていたのですが,彼自身に伯楽の椅子(ジッツ)はとうとう与えられることはなく,その後は屈折した生活(彼自身の言葉を借りれば食いつめ浪人)を送るはめになりました.
 
 日本の大学ほど安定した恒久的な教授職という地位はなく,ある人達にとってはそれが人生の目的でさえあったりします.そして,その流れのままに講義ノートを作ったり,試験問題を考えたり採点したり,ゼミを開いたり,学位論文の審査をしたり,・・・.それはよい教師ではあっても研究者としては極めて危険な状態であり,純粋な研究者の生活からは滑り落ちてしまうのですが,何人かの優秀な院生を指導していれば,それで科学と携わっていると考えられなくもありません.私の経験では,どちらかといえば,名馬よりも名伯楽のほうが教授たるにふさわしいと思えるのですが,ともあれ,優れた名馬は多かれど名伯楽は少なく,素質をもちながらも陰に隠れて不当に低く評価されている,あるいは正当な評価を妨げられた逸材がその才能を発揮することなく埋もれてしまっている姿はしばしばみうけられました.
 
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 【ここからが本題】
 
 繰り返しになりますが,日本の大学ほど安定した恒久的な教授職という地位はなく,そのため,大学という研究環境下では,研究の独創性や創造性が評価の対象とされることはほとんどないといってもよいのですが,逆に,革新的なアイデアをもっている人は独創的で平均からはずれているがゆえに,変わり者あるいは一種のマッドサイエンティストとみなされることが往々にしてあります.以下では,内心の命令に忠実に,おもしろいことがあるとなりふり構わずどんどんそっちに行っちゃうというような,私が知りうる中で最も自然科学を愛し,サイエンティストという呼び名がふさわしい研究者G氏について紹介したいと思います.
 
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 彼の通称はドクターG,アミノ酸・核酸・タンパク質,そして生命の起源の研究者である.私とはひとまわり年が違うはずだから,もうすぐ還暦にもなりなんとする年齢であるが,その彼がアメリカにポストを得て来春にも渡米することになった.恒久的な教授職を提供されたわけではなく,60歳を目前としてのことだから,頭脳流出といえるかどうか異論はあるが,ともかく留学ではなくれっきとした流出である.
 
 留学と流出をあまり区別しておられない人もいるのではないかと思うので補足しておくと,いうまでもなく留学は外国に行って勉強して(帰って)くることであるが,流出とは何か貴重なものが惜しまれながら流れ出てしまい,帰ってくる義務はない.もちろん,こちらとは比較にならない待遇と研究環境を提供され,恒久的なポストに就くことを求められることだってあり得るのだ.
 
 以前に書いたコラムで,英国の首相だった鉄の女,マーガレット・サッチャーが単分子膜の研究者であったことを紹介したが,ドクターGも大学院時代,生体膜の研究の没頭していたらしい.彼はこわれやすくて,到底作れそうにもないと思われていた二分子膜からなる直径1ミリメートルほどの小胞(リポソーム:簡単にいえば水の中のシャボン玉のことである)を作り,それが水溶液中でいかに安定に存在しうるかを実証した.このシャボン玉は水中で24時間以上も保たれたのであるが,この長寿命のシャボン玉が彼に水中における疎水結合の威力を確信させることとなった.
 
 ドクターGの研究の原点はこのシャボン玉にあるといえるのだが,さらに彼はその膜にタンパク質を埋め込み,小胞中にDNAを封じ込める方法を開発して,いわば生命の原型といえるものまで作っている.(現在,リポソームにはさまざまな薬剤が封入され,医学・薬学方面で実用化されるようになった.)私の大学院時代といえば,ヒトの肺内に沈着している粉塵中の微量元素の分析が関の山だったから,アカデミシズムの点で私と彼のレベルには雲泥の差があるし,それになにより彼の科学者としての資質と才能,研究センスの良さが感じられる.
 
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 次に,ドクターGが最近はまっている研究について説明しよう.とはいっても,断片的にしか知らないところもあるし,また,肝心のところは彼の企業秘密に抵触する恐れもあるので,オリジナリティーとプライオリティーを尊重する意味で詳細には言及できない.お茶を濁す程度の解説になるのだが,痛し痒しといったところである.
 
 説明の前に,タンパク質についておさらいをしておきたい.人間の体は,髪の毛や皮膚を構成する構造タンパク,筋肉を収縮させたり酸素を結合し運搬するなどの機能タンパク,化学反応の触媒として作用する酵素タンパクなど,何千何万というタンパク質を作り出している.
 
 これらはすべてアミノ酸と呼ばれる20種類ほどの分子でできている.それが連なって特定の長い糸状のタンパク質分子をつくる(1次構造)が,ある部分はらせん状にねじれ,ある部分は折れ曲がってシート状になったりする(2次構造).
 
 その後,さらに曲がったりねじれたりしてコンパクトにまとまり,最後には特定の3次構造に落ち着くが,個々のタンパク質がどう働くかはどのような3次元の形になるかで決まってくる.また,3次構造体(サブユニット)がいくつか寄り合って,さらなる高次構造をとることもある.この構造を4次構造と呼ぶが,たとえばヘモグロビン分子は4次構造をとり,4つのサブユニットからなるブドウの房のような構造となっている.
 
 1次構造・2次構造・3次構造・4次構造は,英語ではprimary, secondary, tertiary, quaternary structureと呼ばれる.それぞれcomposition, constitution, conformation, configurationとほぼ対応していたと記憶しているが,20年以上も前の学生時代の記憶なので定かではない.ともあれ,長い糸状のタンパク質分子がどのようにして小さく折りたたまれるかを理解し,アミノ酸配列からタンパク質の最終的な形を予測できれば,ウィルス感染に対する新薬を設計するなど,きわめて重要で生産的な研究になりうるのである.
 
 現在のバイオテクノロジーをもってすれば,タンパク質のアミノ酸配列(1次構造)を決定することはそう難しくない.また,ヒトゲノム計画(人間のDNA配列を全部読みとろうという世界規模で進められているプロジェクト)が実際に完成される日は目前に迫っている.それに対して,タンパク質の3次構造を知るのはいまだにとんでもなく難しい課題である.現在,3次構造まで知られているタンパク質はタンパク質全体からすればほんの一握りであって,それらの多くはX線回折や核磁気共鳴により明らかにされたものである.計算物理的に決定されたものではないことを強調しておくが,なぜそれほど難しいのかその理由を述べておこう.
 
 20種あるアミノ酸は水分子を引きつけるか(hydrophilic),はじくか(hydrophobic)で2つに分類でき,水溶液中では水をはじくアミノ酸は内側,水に引きつけるアミノ酸は外側に配置されるような3次元構造をとる.タンパク質のたたまれ方は,原理的にはこのような単純な物理法則によって決まる.ところが,アミノ酸が2種類しかないデカペプチドという簡単な場合でさえ,2^10=1000通りもの3次元構造が考えられる.タンパク質1個あたり平均400個のアミノ酸があるが,20種類のアミノ酸が400個繋がっている配列ともなると20^400=10^540通りとなる.宇宙開闢以来,10^18秒しか経っていないし,宇宙の中の原子の総数が10^80しかないことを考えると,これは超天文学的な数字である.自然が全部の配列を試して,最適な3次元構造を探し出したとは到底考えられず,そこにはある必然が存在するに違いないのである.
 
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 とはいっても,タンパク質のたたまれ方に関する研究は,過去に比べてそのスピードが格段に速くなってきていて,現在,1万数千種のタンパク質の3次構造がすでに確定している.そうなると,それらにはいくつかの共通する構造があることが知られるようになった.しかし,それらの共通する構造はどのような役割を果たしているのだろうか? あるいは,進化の過程でどのような役割を果たしてきたのだろうか? この疑問はいまだに解決されておらず,深い科学的関心の的になっている.すなわち,タンパク質の構造からその目的や存在意義を抽出するという未解決問題に解答を与えることは,アミノ酸・核酸・タンパク質そして地球上の生命の起源を考える上で極めて重要なことなのである.
 
 例えば,共通する構造のひとつにαβバレル(樽)構造があるが,ドクターGはαβバレルが酸素との結合を支配する特徴的な構造だと推定している.そこで,ドクターGはαβバレル構造をもつことがすでに知られているタンパク質にターゲットを絞り,その活性中心(ヘモグロビンであれば酸素結合部位)に対して,コンピュータ上で基質を結合・解離させるという分子動力学的なシミュレーション実験を行った.コンピュータシミュレーションは,モデルとなるシステムを設定してさまざまな現象に関する模擬実験を行なうことであるが,実験を行なわなくともシミュレーションで済む問題に汎用されていて,実験と理論につぐ第3の科学(計算機実験学)と呼ばれる分野を開拓している.現在,実験が不可能な状況下における現象の情報を提供してくれる唯一の手法であり,今後ますます重要性が増すものと考えられている.たとえば,人体のように臓器構成が複雑で直接実験の対象とすることに危険を伴うもの,飛行機の翼のように大規模で実験をするには経費のかさむものに対して,これと類似の構造をコンピュータ内部に実現できればもっとも望ましい条件設定が得られるものと期待できるからである.
 
 神経伝達物質であれ,ホルモンであれ,薬物であれ,生体内の現象はレセプターとの結合・解離によって左右されるが,αβバレルは,ドクターGの推測通り,酸素と結合することによっていろいろな作用(殺菌など)を示すことが明らかになったのである.−−−このように書くと,ドクターGはコンピュータにデータを打ち込むことによって,αβバレルの存在意義をいとも簡単に導きだしたかのように思われるかもしれない.そこで,一言補足しておきたい.実はこのシミュレーション実験は,秀才(あるいは紙上の勉強家)にとっては成功するはずがないと常識的には考えられることなのである.既存の知識によれば,αβバレルの中に酸素を入れたとたん,酸素は外にはじき出されることになっているからである.
 
 わが国では既存の知識を能率よく取り入れできる秀才が尊重される.そのような秀才は既存の知識の基づいて実験計画を立てるので,失敗の可能性は低く,そうなると確実に成果が得られるので,研究は一見活発に見える.このような最も安全確実な道(本や論文の知識に追従した研究)はわが国では高く評価されるのだが,それは平均レベルの向上には役立っても,突出した研究の芽を確実につみとることになる.わが国では実験補助員のような研究者しか育てることはできないといわれているのも,そうした事情があるからなのである.
 
 いうまでもなく,既存の知識から結果を予測しやすい実験ほど面白さは少なく,実験科学の醍醐味は予想外の結果が得られることにある.そこにこそ人知の及ばない真理が発見される可能性があるからである.ドクターGはいわゆる秀才ではなので,一見常識的には考えられないことにも取り組むようにみえるが,自分の思想というものを所有していて,驚くべきことに彼はこのシミュレーション実験の結果を当然のものと確信していたのである.
 
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 さらにまた,酵素上における基質の切断機構については,従来,クーロン力の釣り合いに束縛された結合,とりわけイオン結合力がその推進役となると説明されていたのであるが,ドクターGのシミュレーション実験では,イオン結合だけではどうしても腑に落ちない−−−結合後期に対してはそのモデルでもうまく説明がつくが,結合初期については矛盾するという結果が得られたというのである.
 
 真空中であればイオン結合でよいのであるが,酵素反応は水溶液中でおこる現象である.そのため,結合前期では疎水結合,いいかえれば水を排斥しようとする力が推進力となることを仮定しないとうまくいかないのであって,結合過程の前半・後半で推進力が変わるという結論に至ったのである.もちろん,疎水結合だけで,後半の説明はつかないのであるが,ドクターGの理論的研究を正しいと認めるならば,タンパク質に関わるこれまで説明のつかなかった現象が矛盾なく解明されるし,また,新たな現象までもが予見されるという.すなわち,無矛盾性と先見性をもっていることになる.
 
 これまで私は,基質分解の前半と後半で状況が変わるなどと考えたこともなかったので,ドクターGのシミュレーション実験で,タンパク質の研究に新しいページがめくられたと思った.しかし,既成の学説を破る新説なり新理論なりが発表されたとき,それを受容するか拒絶するかは人によりさまざまである.というよりも拒絶する人の方が圧倒的に多いに違いない.多くの人にとっては教科書のみが真実であって,教科書に書かれている説明でうまくいくならばそれを鵜呑みにするだろう.このように,真理とはその人にとっての繰り返された記憶にしかすぎないのであって,絶対的なものではない.真理は人ごとに異なるのである.
 
 そのため,学会で既成の学説を破る新説なり新理論なりが発表されたときの風景はいきおい次のようなものとなる.『一瞬,学会場はどよめきの渦に包まれ騒然となる.しかし,講演者はマイナーな学者であり,しかも,非常に話し下手ときている.したがって,参加者の多くは半信半疑というよりは,むしろ懐疑的な眼で見ている.予想に反し,賛同者は少ないのである.』
 
 私もこれに似た経験をしたことがあるが,はたせるかな,ドクターGの場合もそうなった.説明が速い拙いということもあったのであろうが,場内がシーンと沈黙してしまったのである.短時間の学会発表では,もとより共感は期待できないのであるが,新説・新理論の類はいつの時代・何処の国にあっても,発表後直ちに多くの人に支持されるという状況にはならない運命なのである.
 
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 日本人には創造性がないとよくいわれるが,そんなことはない.八木アンテナ(テレビのアンテナ),岡部マグネトロン(電子レンジ)などは,実験設備も十分でない環境にもかかわらず,先進国の研究に先だってなされたオリジナルな成果の例である.しかし,これらの世界的発明が日本人の手によってなされたということ,そしてこれらの発明品によって毎日受けている恩恵に対しても,日本人の多くが忘れている.あるいは初めから教えられなかったのかもしれないが,不思議なことに,八木アンテナや岡部マグネトロンは国内よりも海外でその能力が高く評価され,実用化に近づいてからあわてて逆輸入されたという経緯をもっている.
 
 これらの発明が国内で認められなかったという事情は,日本人社会がその仲間の独創性を認めないという性癖の表れではないだろうか? すなわち,お互いの足の引っ張り合いをし,でる杭は打つ.人の欠点を指摘してよいところは決して褒めない.その結果,公平正当な評価ができない.−−−日本人がパイオニアになるために欠けているのは,創造性ではなく,他人の突出を許さないという狭小な精神構造(島国根性)なのだと私は思う.
 
 ドクターGは個人的には人好きのする,ときには物忘れもする,面白い学者らしい性格である.立身出世など眼中にないというタイプではないし,ときには独自の定説の宣伝もするが,私は彼が他人に対して尊大な態度を示すところをみたことがない.このことが彼のひととなりを端的に物語っていると思うし,それになにより未知の領域を解明しようという強い意志と実行力をもっているところがすばらしいと思う.そのため,私は彼に対して,何事にも興味を示す奇妙な学者という意味で,親しみを込めてドクターGと愛称している.
 
 しかし,研究者としてのドクターGの一行一動に対しては,毀誉褒貶さまざまである.どちらかといえば賞賛よりも批判の方が多いと思われるが,常識的には考えられないことにも取り組む研究者であるから蔑視もされるし,場合によっては屍した後ですら難じられることだってあるかもしれない.ともかく,イカサマ師とも呼ばれペテン師とももくされたドクターGの理論的研究は,海外で受け入れられることになった.
 
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 ドクターGのことを理解するためには発想の転換が必要とされるが,彼の思考の底辺にあるものは相似形からの発想であるように思われる.しかし,相似形と口でいうことはたやすいが,リンゴが木から落ちるのと月が地球のまわりを周回するのが同じ力の作用だと発想できる人はどれほどいるのだろうか? たとえば,あなたは月が地球に向かって落下しているイメージを現実のものとして描くことができるだろうか?
 
 ニュートン,アインシュタインは相似形の発想から真空中の物理学を完成させたわけであるが,ドクターGは水中の物理学を完成させたと私は思っている.私には同じ釜の飯を食った仲間として,彼の生き方に度を過ぎた思い入れがあるかもしれないが,数少ない信奉者の一人として,いつの日にか彼の理論的研究が日本に逆輸入されることを願っている.そのときこそ,私は彼に偉大なる科学者(Scientist the Great),科学の巨人(Scientist the Giant)の称号を贈りたいと思う.また,そのときにこそ,ドクターGの「G」はGreatのG,GiantのGとなり得るのである.
 
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 優れた学者は,私がしているような論文以外の雑文を書くなどという堕落は決してしないものなのでしょうが,逆に,自分自身をサイエンティストと呼べる人はどれほどいるのでしょうか? 自らを質してみられたい.
 
  1)イマジネーションとインスピレーションで仕事をしていますか?
 
 教科書に書かれていることを鵜呑みにして,考えをやめてしまうのは慢心というものです.さらにいわせてもらえば,既存の知識を信じて疑わない人は,秀才ではあってもサイエンティストとは云い難いのです.
 
  2)自分に思考の訓練を課していますか?
 
 研究者には抽象的な知識を具体的にかつ系統的に把握することが必要とされます.また日々,思考の鍛錬をしていないと,いざというときよい発想が浮かびません.よくわからないままそれでよしとして済ませていませんか?
 
  3)日々のテーマ,月単位・年単位のテーマ,ライフワークと呼べる課題がありますか?
 
 常々のテーマをもたないと,科学者としてのアイデンティティーを確かめ,自立再生を果たすことができません.そのためには,過去の研究業績を理解して,解決した問題・否定的に解けた問題・新たな未解決問題を知ることが必要になってきます.これは独創性の高い研究をめざすヒントとしても役立つはずで,自らの中に独創性へのチャレンジ精神を啓発しましょう.
 
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