■菱形多面体(その3)

 現在,金原博昭さんは菱形90面体の紙模型を製作中である.菱形90面体は対角線の長さの比が1:τ^2(2.618)の菱形30枚と白銀菱形60枚から構成される美しい形の多面体だそうで,菱形30面体が6次元空間における立方体の3次元版,菱形12面体が4次元空間における立方体の3次元版のに対して,菱形90面体は10次元空間における立方体の3次元版に相当する多面体である.

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【1】黄金2乗菱形

 対角線の長さの比が2:2τ^2の菱形を黄金2乗菱形と呼ぶことにすると,斜辺の長さは(1+τ^4)^1/2ですから,菱形の鈍角をθとすると

  cos(θ/2)=1/(1+τ^4)^1/2

  cosθ=2cos^2(θ/2)−1=−√5/3

となって,これは正二十面体の二面角に一致します.

 一方,対角線の長さの比が2:2τの黄金菱形の斜辺の長さは(1+τ^2)^1/2ですから,菱形の鈍角をθとすると

  cos(θ/2)=1/(1+τ^2)^1/2

  cosθ=2cos^2(θ/2)−1=−√5/5

となって,これは正十二面体の二面角に一致します.

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【2】白銀2乗菱形

 対角線の長さの比が2:2√2の白銀菱形の斜辺の長さは√3ですから,菱形の鈍角をθとすると

  cos(θ/2)=1/√3

  cosθ=2cos^2(θ/2)−1=−1/3

となって,これは正八面体の二面角に一致します.

 それでは対角線の長さの比が2:4の白銀2乗菱形の場合はどうなるのでしょうか? 斜辺の長さは√5ですから,菱形の鈍角をθとすると

  cos(θ/2)=1/√5  (正十二面体の二面角の補角)

  cosθ=2cos^2(θ/2)−1=−3/5

となって,これに対応する正多面体はありません.

 しかし,この角度は黄金菱形の鋭角φの2倍になっています.

  cos(φ/2)=τ/(1+τ^2)^1/2

  cosφ=2cos^2(φ/2)−1=1/√5

  cos2φ=2cos^2(φ)−1=−3/5=cosθ

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【3】菱形90面体の黄金化と白銀化

 以前,金原博昭さんは菱形十二面体の白銀菱形を黄金菱形で,菱形三十面体の黄金菱形を白銀菱形で置き換えることを思いつきました.

 いままで余り見たことのない多面体と思われるのもそのはず,それらは平面とはならず,菱形を対角線で折り曲げた空間4角形を構成します.そうしないと閉じた多面体にならないからです.実際の形は黄金比二等辺三角形2枚で置き換えた24面体と菱形三十面体の黄金菱形を白銀比二等辺三角形2枚で置き換えた60面体になりますが,各々,対角線で折り曲げる方向(mountain fold, valley fold)から2種類の多面体,

(1)黄金菱形を長軸で山折りにしたm24面体

(2)黄金菱形を短軸で谷折りにしたv24面体

(3)白銀菱形を長軸で谷折りにしたv60面体

(4)白銀菱形を短軸で山折りにしたm60面体

の計4種類ができます.

 そして,おもしろいことに対角線の長軸方向で折り曲げられた2つの多面体(1)(3)において,m24面体の凸部はv60面体の凹部にはぴったりはまりこみます.その部分の二面角δを計算してみると,

  tanδ=−2(√5−√2)/3

より151.281°となって,両者は完全に一致します.

 すなわち,両者は相互補完的な関係にあることが判明したわけです.黄金比は西洋人に愛される形,白銀比は東洋人に好まれる形といわれますが,実際,黄金比と白銀比は対比されるばかりでこれまで接点が論じられたことがなかったように思われます.西洋的・東洋的の対比はともかく,このような相補関係は気づきにくく,おそらく初めての発見だと思われます.

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 金原博昭さんは菱形90面体の黄金化・白銀化模型も併せて製作中ですが,[1][2]で述べたことより,60枚の白銀菱形を黄金菱形に置き換えて2分割し,30枚の黄金2乗菱形を白銀2乗菱形に置き換えて2分割するのが最も妥当と考えておられます.

 「対角線を折り曲げて新たな多面体を創る」という手法自体がこれまで誰も考えていなかったユニークなアイディアと思われますが,さらにユニークなアイディアです.乞うご期待.

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