数列{an}と{bn}がともに無限大に発散し,差{an−bn}は無限大に発散するが,比{an/bn}は1に近づくという例に,階乗n!とその近似値として使われる公式として有名なスターリングの公式:
n!〜√(2πn)n^nexp(−n)
があります.
”〜”記号は漸近的に等しい,すなわちnが十分大きいとき両者の比が1に近づくという意味であって,両者の差がなくなるという意味ではありません.いいかえれば,この近似式の絶対誤差はnの増大とともに増大するが,相対誤差は減少する,つまり,左辺と右辺の比はnを∞にすると極限が存在して0でも無限大でもなく,1に収束するということです.スターリングの公式ではnが大きくなるほど相対誤差は小さくなります.
スターリングの公式にはπが出現しますが,この公式は2項分布の正規分布への収束を示すド・モアブル=ラプラスの定理の証明などに用いられます.この定理は中心極限定理の特別な場合に相当しています.
スターリングの公式の初等的証明については,黒川信重(数学セミナー,1972年6月号)などにも掲載されているそうですが,今回のコラムではいくつかの初等的証明を紹介します.
[参]砂田利一「ダイヤモンドはなぜ美しい?」シュプリンガー・ジャパン
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【1】スターリングの公式の誘導
スターリングの公式を誘導してみましょう.
logn!=log1+log2+・・・+logx=Σlogx
ここで,y=logxのグラフを幅が1の長方形に分割していくと,xが十分大きければ相対的に和の間隔が小さくなるので,和は積分に置き換えられます.
Σlogx≒∫(1,x)logtdt
logxの原始関数は置換積分よりxlogx−x+Cと計算されますから,右辺はxlogx−x+1となります.したがって,
n!≒en^nexp(−n)
が得られます.
logn!=nlogn−n+o(n)
ただし,limo(n)/n=0
としても大体了解されますが,もっと正確に近似すると
∫(0,n)logtdt<logn!<∫(1,n+1)logtdt
より
nlogn−n<logn!<(n+1)log(n+1)−n
したがって,両辺の相加平均に近い(n+1/2)logn−nでlogn!を近似できることになり,
∫(1,x)logtdt
=log1+log2+・・・+logx−1/2logx+δ
であること,また,ウォリスの公式:
√π〜(n!)^22^2n/(2n)!√n
より,結局,
n!〜√(2πn)n^nexp(−n)
にたどりつきます.
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スターリングの近似公式は階乗の一般化であるガンマ関数の近似値としても使われています.
Γ(x+1)=∫exp(−t)t^xdt〜√(2πx)x^xexp(−x)
近似の程度を進めると
Γ(x+1)〜√(2πx)x^xexp{-x[1+1/(12x)+1/(288x^2)-139/(51840x^3)-.....}
が得られます.これらの公式ではxが大きくなるほど相対誤差は小さくなります.
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【2】別証
(Q)任意の自然数nに対して
n!=√(2πn)n^nexp(−n)exp(θ/12n)
を満たす0≦θ≦1が存在することを証明せよ.
(A)f(x)=(1/2)log(1+x)/(1−x)−x
とおく(0≦x≦1).
f(0)=0
f’(x)=x^2/(1−x^2)>0
さらに,
g(x)=f(x)−x^3/3(1−x^2)
とおけば,
g(0)=0
g’(x)=−2x^4/3(1−x^2)^2<0
よって,
0≦(1/2)log(1+x)/(1−x)−x≦x^3/3(1−x^2)
が成り立つ.x=1/(2n+1)を代入すると
0≦(n+1/2)log(n+1)/n−1≦1/12(1/n−1/(n+1))
an=n^(n+1/2)exp(-n)/n!,bn=anexp(1/12n),an<bnとおくと
logan+1/an≧0よりan+1≧an
logbn+1/bn≦0よりbn+1≦bn
よって
cn^(n+1/2)exp(−n)≦n!≦cn^(n+1/2)exp(−n)exp(1/12n)
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【3】ウォリスの公式
さらに,ウォリスの公式より,c=√2πが示される.
(証) 1/2B(1/2,(n+1)/2)=∫(0,π/2)(sinθ)^ndθ
この値をSnとおくと,部分積分により漸化式
Sn=(n-1)/nSn-2
が得られるから,
n=2k(偶数)なら1・3・・・(2k-1)/2・4・・・(2k)*π/2
n=2k+1(奇数)なら2・4・・・(2k)/1・3・・・(2k+1)
これより
lim1・3・・・(2k-1)/2・4・・・(2k)*√(k)=1/√(π)
変形するとウォリスの公式
(2n)!/(2^nn!)^2√(n)=1/√(π)
が得られる.
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