■三線・四線軌跡問題

 今回のコラムで扱う問題は,ユークリッドが考察していたとされ,アポロニウスが取り上げ,パップスが成果をあげた難題「三線・四線軌跡問題」である.この問題は17世紀に至るまで波紋を広げることになった.

  [参]カッツ著「数学の歴史」,共立出版

===================================

【1】三線問題・四線問題

 3本の定直線が与えられたとき,ひとつの直線への距離の平方が,ほかの2直線への距離の積に対して与えられた比をもつ点の軌跡を求める問題が三線問題である.また,四線問題とは1組の直線への距離の積がほかの2直線への距離の積に対して与えられた比をもつ点の軌跡を求める問題である.(ここでいう距離は,各々の直線に対して定められた角度をもつように測るものとする.)

 3直線のうち2本が平行で,第3の直線が最初の2本に垂直な場合,このような点の軌跡は円錐曲線である.ギリシアの数学者にとって問題となったのは,3本の直線がどのような位置にあっても,解の軌跡が円錐曲線であることを証明することであった.アポロニウスは「円錐曲線論」に,ユークリッドは三線問題を部分的にしか解決できなかったが,新たな結果によって問題は完全に解決できると書いていて,実際,円錐曲線は与えられた点から曲線に引いた2接線と2接点を結ぶ割線に対して三線問題の軌跡となる.

 円錐曲線が四線問題の解となることも証明される.ギリシアではもっと線の数の多い場合の軌跡を求める試みがなされたが,はかばかしい結果は得られなかった.パップスは5本(6本)の直線が与えられた際に,これらの直線の3本に対して与えられた角度の引かれた線で囲まれた直角平行六面体が残りの2本(3本)の直線に囲まれた直角平行六面体に対して与えられた比となるようにある点の軌跡を求める問題を考察したが,7本以上の直線に対しては(3次元を超える図形は描くことができないから)それらのうちの4本によって囲まれた図形はもはやできないと指摘している.

 これこそが17世紀においてデカルトが解析幾何学によって解決できることを証明した問題である.デカルトはn本の直線の場合に一般化し,完全な解答を与えた.すなわち,3本ないし4本の直線が与えられたときには2次になり,5本ないし6本(五線問題,六線問題)では3次になり,直線が2本加わるたびに次数が1次増加する.

===================================

【2】カッツ著「数学の歴史」

 私はこの本を阪本ひろむ氏から借りて読んだが,阪本氏の書評によると

(1) エジプト,バビロニアなどの算術に対し,非常に詳しく説明されている.他の時代も同様.他の数学史の説明で理解出来なかった事が理解できた.ネイピアの対数の発見などもわかりやすい.

(2) 練習問題がたくさんある.各時代の算法で問題を解かなければならない.

(3) 切手の図版が多い.おそらくフィラテリストであろう.

(4) 従来の数学史は,ギリシア以降,西洋を中心に書かれているが,本書はヨーロッパ以外の数学に多くを解説している.

 阪本氏のいう通り「数学の歴史」には非常におもしろいことはいろいろ書かれてある.たとえば,トリチェリのラッパのパラドックス「曲線y=1/xのx≧1の部分をx軸のまわりで回転させて得られるのがトリチェリのラッパである.無限に長いラッパの表面積は無限大であるが,体積は有限となる逆説的な立体である.

  V=π∫(1,∞)(1/x)^2dx=π[−1/x](1,∞)=π

  S=∫(1,∞)1/x(1+1/x^4)^1/2dx>∫(1,∞)1/xdx=[logx](1,∞)=∞

であるが,ラッパ形でなく塔形にすると調和級数に帰着され,複雑な積分計算を回避することができる.

  V=π∫(1,∞)(1/x)^2dx<πΣ1/n^2=π^3/6

  S=∫(1,∞)1/x(1+1/x^4)^1/2dx>2πΣ1/n=∞」

 数学史の本には珍しく練習問題があり,練習問題の存在自体も面白いと思う.それぞれの章に練習問題があるが,たとえば,バビロニアの数学を読んだ後,練習問題を解くときには60進法で計算しなければならない.問題は,果たして全てを読み通せるかどうかわからないほどエライ本(大部)であるということであろう.

===================================