多面体の剛性と柔軟性

 今回のコラムでは,多面体の剛性や柔軟性の根本原理を扱う.

  [参]一松信「コーシー・近代解析学への道」現代数学社

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【1】コーシーの剛性定理

 多面体に関するコーシーの業績というと,凸多面体の剛性定理(1813年)があげられる.この定理より凸多面体は変形しない.ただし,百年以上たった1930年代にコーシーの証明に小さい欠陥のあることがわかった.それは変形中に面が凸多角形である必要があるのに,それが保証されていないという点であった.シュタイニッツとラーデマッハはこの欠陥を修正してコ−シーの結果は正しいことを再証明した(1934年).剛性定理自身はコーシーの偉大な業績として認知されている.

 コーシーはラグランジュの指導で多面体の研究に打ち込み,正多面体の変換群を扱った処女論文はかなり好評であった.この処女論文は3次元空間の回転群の有限部分群,とくに星形正多面体の決定に関するもので,正多面体は5種,星形正多面体がさらに4種あり,それ以外にはない(ケプラー・ポアンソの星形正多面体4種に限る)という解答を与えたのが若きコーシーである.

 まず,3次元空間の回転群の有限部分群は,コーシーが示したように

  (1)巡回群Cn

  (2)正二面体群D2n

  (3)正多面体群,すなわち

   a)正四面体群(4次交代群:A4)

   b)正八面体群(4次対称群:S4)

   c)正二十面体群(5次交代群:A5)

に限られる.→[補1]

 正多面体は3,4,5次元以上でそれぞれ5種,6種,3種存在するが,双対正多面体や自己同型があるので,正多面体群としては3次元のときは3種,4次元のときは正5胞体群,正16胞体群,正24胞体群,正600胞体群の4種,5次元以上では正単体群と超立方体群の2種である.→[補2]

 星形正多面体はn=3のとき4種あり,3次元の9種の正多面体(凸型5種+星形4種)を,

  (1)三角四角型(S4,A4):3種

  (2)五角型(A5):6種

と分類することもできるだろう.なお,星形正多面体はn=4のとき10種あるが,n≧5では存在しない.

 コーシー自身はその後多面体の研究から遠ざかったため,これらの定理は後の成果(近代解析学)とは縁が薄い.コーシーはその後群の概念をまったく忘れてしまい,ガロア群の意義を理解できなかったという説もあるそうだ.コーシーが初期にこのような研究をして評判になったことは,いまではほとんど忘れられている.

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【2】柔軟な多面体と蛇腹予想

 空間内の閉図形は剛性的であるかという問題は,オイラーの剛性体予想(1766年)として知られている.ほとんどすべての多面体は剛性的であるが,面をそのままにして全体を変形することができる反例もある(コネリーの折り曲げ可能多面体,1975年).

  [参]コラム「変形する多面体とふいご予想(その2)」

 面が自己交差する折り曲げ可能多面体は19世紀に知られていたが,コネリーのは自己交差しない真の折り曲げ可能多面体である.この折り曲げ可能多面体は変形中に体積が一定であると予想された(蛇腹予想).1997年,体積が変化する折り曲げ可能多面体は存在しないことが証明されている(コネリー,ワルツ,サビトフ).

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[補1]少々逸脱するが,そしてこのことは超幾何関数が代数関数になったり,初等関数になったり,特殊関数になったりを決定する条件と関係している.なぜならば,1次分数変換は複素数球面上で考えると1つの回転に対応していて,たとえば,数xを

  (x−1)/(x+1)

に置き換えるには,北極と南極が赤道のところにくるように球を90°回転させればよい.

 そして,写像関数が1価となるためには,有限な回転群である場合を調べれはよいことになるが,球面上の運動の有限群は5つの回転群(巡回群,正2面体群,正4面体群,正8面体群,正20面体群)=広義の正多面体群に限ることが知られているというわけである.このように回転群の話がまったく別の方面から現れることになにか「数学の神秘」を感じないだろうか.

 超幾何関数は普通超越関数であるが,ときどき代数的になることがあり,ガウスの超幾何関数2F1に対しては,これが起こる状況が1873年,シュワルツにより決定されている.それは大ざっぱにいって,リーマンスキーム(λ,μ,ν)の分母が2,3,4,5の有理数となることである.

 また,2F1が初等関数になる条件は福原・大橋(1949,1955)によって与えられている.2F1→3F2→4F3→・・・と進んで,現在,一般化された超幾何関数nFn-1が代数的になる条件はボイカーズとヘックマンにより決定されている(1989年).→[参]コラム「超幾何関数とフックスの問題」

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[補2]高次元の正多面体群について,コクセターはn次元ユークリッド空間の反転によって生成される群の研究を進め,コクセター群とよばれる一連の群について詳しく研究した.詳細については

  一松信「高次元の正多面体」日本評論社

をご覧頂きたいのであるが,n次元ユークリッド空間の変換群で,その基本領域が単体(正多胞体の基本単体)になるものの決定である.

 正多面体群とリー群との関連では,n次元の正単体群はAn,超立方体群はBnまたはCn,3次元の正二十面体群はG3,4次元の正24胞体群はF4,4次元の正600胞体群はG4と関連している.

  ・−・・・・・−・  (An:n≧2のとき位数2の自己同型がある)

         /

  ・−・・・・・    (Dn:n≧4のとき位数2の自己同型がある)

         \

          ・

      3

     /

  1−2    (D4:位数3の自己同型がある)

      4

      4

      |

  1−2−3−5−6  (E6:位数2の自己同型がある)

  1=2 (B2)  1≡2 (G2)  1−2=3−4 (F4)

  1≡2−3 (G3)  1≡2−3−4 (G4)

 ここで,G3,G4はG2に1個または2個の節点をつないだグラフであり,単純リー群では許されない形である(拡張されたディンキン図形).また,例外群はDn,E6,E7,E8のいずれかの形になることが示されている.

 ユークリッド空間の有限群(正多面体)または無限離散群(空間充填形)になるのは,4つの無限系列(An,Bn,Cn,Dn)と6つの例外的な場合(G3,F4,G4,E6,E7,E8)に限るのである.

 単独で空間を充填する平面充填正多角形は3種類(正三角形・正方形・正六角形),空間充填正多面体は1種類(立方体)である.それに対して,4次元空間を1種類の正多胞体で埋めつくす図形は,正8胞体,正16胞体,正24胞体の3種類であり,4次元の最密正則胞体充填構造は,正24胞体で埋めつくされているときであることが知られている.

 正24胞体に相当する3次元正多面体はない.なぜかというと,正24胞体は自己双対かつ中心対称であり,3次元空間でそれに対応する正多面体はないからである.実は24胞体は,すべての次元を通じて,単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であって,例外中の例外といってもよいものなのであるが,この正24胞体は1つの例外型対称群F4をもつことが知られている.

 正24胞体は単体以外の唯一の自己双対な正則胞体であるという事実がF4と関係しているらしく,この点もまた注目すべきものである.

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