■空間充填立体

 非常に単純だが,深淵な数学的発見が今日なお可能である一つの例として,平面充填や空間充填があげられる.平面充填の必要条件は一つの頂点の回りの内角の和が360°であるのに対し,空間充填では一辺の回りの二面角の和が360°となることである.

 ここでは平行多面体(周期的空間充填多面体)の例をあげるが,平行移動のほかに回転や鏡映操作も許せば,さらに多くの多面体が空間充填可能となる.ちなみに現在は4≦f≦38であるすべてのfに対し,空間充填可能な凸f面体が存在することが判明している.さらにそれらに伸縮変形やねじり変形を加えたもの,曲面をもつ空間充填多面体,非周期的空間充填多面体なども知られている.

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【1】複数の種類による空間充填例

 一種類の合同な正多面体による空間充填では立方体だけが空間充填形なのですが,もし2種類以上を使ってよければ,正四面体と正八面体の二面角が互いに補角ですから,両者を組み合わせて空間充填が可能になります.正多面体同士の組合せでは,正四面体と正八面体を組み合わせたものだけが空間を充填します.

 2種類以上の多面体による空間充填例は正四面体と正八面体の組み合わせ以外にもたくさん知られています.たとえば,切頂四面体と正四面体の組み合わせ,切頂立方体と正八面体の組み合わせ,立方八面体と正八面体の組み合わせ,切頂八面体と大菱形立方八面体と立方体の組み合わせ,小菱形立方八面体と立方八面体と立方体の組み合わせ等々.

 プラトン立体とアルキメデス立体による空間充填を分類してみましょう.

[1]プラトン立体のみによるもの・・・立方体,正四面体+正八面体

[2]アルキメデス立体のみによるもの・・・切頂八面体,

[3]プラトン立体とアルキメデス立体の組み合わせによるもの・・・切頂四面体+正四面体,切頂立方体+正八面体,切頂八面体+大菱形立方八面体+立方体,小菱形立方八面体+立方八面体+立方体

[4]アルキメデス立体とアルキメデス角柱によるもの

[5]アルキメデス角柱のみによるもの

 つい最近,中川宏さんはジョンソン・ザルガラー多面体J91が加わった空間充填を発見しました.J91は4個の正五角形面,2個の正方形面,8個の正三角形面をもつ双月形双円形体として知られており,菱形12面体と同じ2回回転対称性をもっています.J91の正三角形面を合わせるように繋いでいくと,立方体と正十二面体の隙間が現れます.すなわち,J91・立方体・正十二面体の3種類の立体で空間充填することが可能であることがわかったのですが,これまで知られていなかった空間充填例が見つかったことは奇跡的といってもよく,これこそ非常に単純だが深淵な数学的発見が今日なお可能である一つの例となっているのです.

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【2】単一種による空間充填の例

 1種類のブロックを使って,空間を隙間なく埋め尽くすにはどうすればいいでしょうか? レンガはそのひとつの答えなのですが,どんな形のブロックなら空間を埋め尽くせるでしょうか? そのようなブロックをすべて決定せよというならばこれは大変な難問です.空間充填四面体の場合ですら無数にあることが知られているからです.

[1]正三角柱の切断によって得られる空間充填立体

 ここでは面白い性質をもっている空間充填四面体を紹介しましょう.まず,2:√3:√3の合同な二等辺三角形4枚からできる三角錐ですが,この三角錐を8個組み合わせるともとと同じ形で2倍(体積は8倍)の一回り大きい四面体になります.3個組み合わせると三角柱ができますが,この三角柱を垂直に切った断面は正三角形になります.この三角錐の展開図は二等辺三角形あるいは平行四辺形ですから,展開図が平面充填可能という特徴があります.

 また,展開図が平面充填五角形になる空間充填四面体は

  [参]中村義作「数理パズル」中公新書427

に紹介されていますが,この三角錐も正三角柱を切断することによって作ることができます.ついでにいうと,正三角柱を切断して側面が正方形の2つの正三角柱を作り,正方形面に沿ってねじって貼り合わせるとジョンソン多面体J26を得ます.この多面体も単一空間充填多面体として知られています.

[2]正四面体の切断によって得られる空間充填立体

 つぎに,正四面体を切断することによって得られる空間充填をとりあげます.正四面体に切頂率:t=1/3の切頂を施すと準正多面体である切頂四面体が得られます.しかし,ここでは切頂率と切頂する尖端数を変えた

(1)4つの尖端からt=1/4の相似形を切り取った8面体

(2)3つの尖端からt=1/3の相似形を切り取った7面体

(3)2つの尖端からt=1/2の相似形を切り取った6面体

も,空間充填体になります.

  [参]別宮利昭「忍者もおどろくマキビシの術」別冊・数理科学「創作パズルVI」サイエンス社,1981年

 これらの空間充填体の平行多面体と異なる特徴は面をずらさなけれならないということです.平行多面体に限らなければもっと多くの空間充填が考えられるということなのでしょうが,ちょっと意外な首をかしげたくなるような空間充填です.

[3]立方体の切断によって得られる空間充填立体−−−九章算術の幾何(角錐台の体積公式)−−−

 魏の時代に書かれた劉徽の「九章算術」の体積計算では棊(き)と呼ばれる4種類のブロックを利用して,角錐や角錐台の体積公式を得ている.4種類のブロックとは立方体,塹堵(ぜんと:1/2立方体),陽馬(1/3立方体),鼈臑(べつどう:1/6立方体)である.鼈臑とはすっぽんのすね(前足の骨)の意であるそうだ.

 たとえば,正四角台は中央にある立方体,側面にある4つの塹堵,各隅に1つずつある4つの陽馬に細分される.それらをうまく組み換えることによって,3個の三角錐(V=a^2h/3,abh/3,b^2h/3)に転化させることができる.このことは角錐台の体積公式が

  (a^2+ab+b^2)h/3

となることを示している直接的な証明法である.

 劉徽の「九章算術」では,台形の面積公式

  (a+b)h/2

が台形を2個の三角形(S=ah/2,bh/2)に転化させて得られるのと同様のアイディアで角錐台の体積を求めているのである.すなわち,「九章算術」の立方体,塹堵(ぜんと),陽馬,鼈臑(べつどう)はピースを並べ替えて等積変形により立体の体積を求積するもので,同じく中国生まれの「タングラム」の立体版と考えられる.

 なお,鼈臑(テトラドロン)はペンタドロン2原子を凧型面で接合させた2原子分子σ2であるが,それ自体を1個の原子とみなすこともできる.σ2にはいくつかの空間充填異性体が存在することになる.

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【3】平行多面体の5種とミンコフスキーの定理

 フェドロフの平行多面体とは平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,平行辺(したがって平行四辺形面,平行六辺形面に限られる),平行面から構成されている多面体である.フェドロフの平行多面体には立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂8面体の5種類しかないことが証明されている(1885年).

 立方体は単独で空間全体を格子状に埋めつくすことができる.単純立方格子状配置,すなわち角砂糖の箱の封を切ったときに見えるパターンについてはこれ以上説明するまでもないだろう.立方体以外の単一多面体による空間充填体としては,菱形十二面体や切頂八面体がよく知られている.両者はしばしば対比され,どちらも単独で空間充填可能な立体図形であるが,菱形十二面体が面心立方格子のボロノイ図であるのに対して,切頂八面体は体心立方格子のボロノイ図となっている.

 これら5種類の図形は3次元格子の幾何学的分類であり,5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないが,少なくとも同じ程度に重要であるし,結晶学の観点からすると平行多面体は正多面体以上に重要であると考えられる.結晶格子には面心立方格子,体心立方格子,単純立方格子,六方晶格子などの別があるが,結晶の骨格の基本形はフェドロフの平行多面体に限定されるといってよいからである.

 平行多面体のうち14面体は切頂8面体だけであるが,切頂八面体には6組の平行な辺があり,6次元立方体と相同と考えることができる.切頂8面体(f=14,d=6)の辺を点に縮めることによって,長菱形12面体(f=12,d=5)→菱形12面体(f=12,d=4),6角柱(f=8,d=4)→立方体(f=6,d=3)ができる.すなわち,6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものとなっていて,空間充填図形の基本形は切頂8面体と考えることができる.同様に2次元充填の基本形は6角形である.

 3次元充填の基本形は14面体であることはわかったが,それでは4次元,5次元,・・・,n次元での空間充填多面体の基本形はどうなるのだろう? どのような形になるのかを知る人はたとえいたとしても非常に少ないであろう.そこで(証明抜きで)次元論の敷石定理について解説する.

「n次元の舗石定理」

[1]n次元空間充填では,各頂点の周りに少なくともn+1個の多面体が集まる(ルベーグ).

[2]n+1個のとき,空間充填の基本細胞の面数は最大2(2^n−1)個である(ミンコフスキー).

 すなわち,平行多面体の最多面数は2次元では6角形,3次元では14面体,4次元では30胞体,5次元では62房体となるのである.

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【4】面数最多の空間充填多面体とは?

 平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる5種類の平行多面体(フェドロフ)はよく知られている.平行多面体のなかでは切頂八面体が面数最大の空間充填多面体であるが,平行移動のほかに回転や鏡映操作も許せば,さらに多くの多面体が空間充填可能となる.面数の多い単独空間充填多面体の例をいくつか紹介しよう.

[1]Foepplの16面体(1914年)

 正四面体は単独では空間充填できない.同様に,正四面体の辺の3等分点で切頂すると切頂四面体となるが,切頂四面体も空間充填多面体ではない.しかし,切り取った小正四面体を各面と底面として中心から四等分した三角錐片を切頂四面体の切頂面に載せた形は単独で空間充填し得るようになる.

 すなわち,切頂4面体の正三角形部分に正4面体を4分割した扁平な4面体をくっつけたものであるが,扁平な4面体の二面角は120°であり,120°は3つの多面体が合して1稜をつくる際の重要な二面角になっている.

[2]Loeckenhoff and Hellnerの18面体(1971年)

 この空間充填18面体は12個の4角形面と6個の8角形面からなる多面体である.3回回転対称性を有しているものの直観ではとらえきれないほど複雑な形をしているが,二面角を計算すると70.5288°(正四面体の二面角)や120°と計量され,馴染み深い値が得られる.

 この多面体では正四面体の場合とは違って,回転対称軸同士が交わらずにねじれの位置にあり,3回対称軸の周りで120°回転させると回転操作に伴って4軸がどれかの4軸に移るという関係になっている.このことから,この空間充填18面体が合同な円柱だけを寄せ集めた周期的4軸構造をなしていることが理解される.なお,4軸をどれかの4軸に移す回転操作全体は正4面体群をなし,その位数は12である.

[3]Engelの38面体(1980年)

 1980年,エンゲルは2つの異なる38面体の存在を示している.ひとつは26^122^116^112^16^45^44^143^12(頂点数70),もう一つは26^122^116^110^16^45^84^183^14(頂点数70)である.前者をタイプ1,後者をタイプ2と呼ぶことにするが,エンゲルはその後,さらに2つの異なる38面体(タイプ3,タイプ4)の存在も示している.

 意外なことに,エンゲルの38面体を6個を組み合わせると空間充填18面体に酷似した多面体が得られる.

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 切頂八面体(ケルビンの14面体4^26^8,1887年)は

(1)面数最多の空間充填多面体

(2)唯一の空間充填14面体

(3)最小表面積の空間充填多面体

と信じられていたが,(1)に対する反例がここに掲げた多面体である.空間充填可能な凸f面体すべてを決定することは現在でも未解決になっている.現在は4≦f≦38であるすべてのnに対し,空間充填可能な凸f面体が存在することが判明している.

 f=38に対してはエンゲルが4つの異なる38面体の存在を示したのであるが,この空間充填38面体はどのような着想で得られたものなのだろうか.それはコクセター群(鏡映により生成される群)と関係している.鏡映とは折り返しのことであるが,n次元空間の平行移動も回転運動も高々n+1個の鏡映の積として表すことができることが証明されている.3次元の場合は高々4つの鏡映の積ということになるが,その詳細を述べると

定理:等長変換は1,2,3または4つの鏡映の積である,

   2つの鏡映の積は平行移動または回転である.

   3つの鏡映の積は映進または回転鏡映である.

   4つの鏡映の積は2つの半回転の積である.

コクセターはn次元の万華鏡を探求する方法を発見したのである.

 f≧39に対して空間充填凸f面体が存在するか否かはいまだ不明である.なお,(2)に対する反例がウィリアムスのβ14面体(4^25^86^4,1968年)であり,(3)に対する反例がウィア・フェランの極小曲面(12面体と14面体が1:3の割合で並ぶもの,1994年)である.ウィリアムスのβ14面体,ウィア・フェランの極小曲面は曲面をもつ空間充填多面体である.

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【5】非周期的空間充填多面体

[1]黄金菱形多面体による非周期的空間充填

 要素を配置するときの規則によって周期的配置(結晶),乱雑配置,準結晶的配置の3種類に分類されるます.準結晶とは厳密な規則によって配列が一意に決定されるのですが,周期的ではない配置のことを指します.3次元空間の非周期的充填では5種類の黄金平行多面体によるものが知られています.

 ケプラーは,すべての面が合同な菱形である菱形多面体は,対角線の比が白銀比になっている菱形を12個組み合わせてできる菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形を30個組み合わせてできる菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしたのですが,実はあと2つ,1885年,フェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体第2種があります.

 黄金菱形平行6面体には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,細めで尖ったほうがacute(扁長菱面体),太めで平たいほうがobtuse(扁平菱面体)と呼ばれていますが,2つずつacute とobtuse が集まれば菱形十二面体(第2種),5つずつ集まれば菱形二十面体,10個ずつ集まれば菱形三十面体となります.このうち,菱形二十面体と菱形三十面体は5重の対称軸をもっています.

 これらはコクセターにより,A6(acute),O6(obtuse),B12(Bilinsky),F20(Fedrov),K30(Kepler)と名づけられていて,それぞれ3次元から6次元までの立方体の投影の外殻になっています.すなわち,黄金平行多面体は5種類あり,黄金菱形をある方向に平行移動させたものがA6,O6であり,それをさらに平行移動させるとB12が,続いてF20が,最後にK30が生まれます.

 したがって,A6とO6は3次元の,B12は4次元の,F20は5次元の,K30は6次元の立方体とそれぞれ同等になります.また,B12の中には2つずつのA6とO6が,F20の中にはひとつのB12と3つずつのA6とO6が(いいかえればF20の中には5つずつのA6とO6が),K30の中にはひとつのF20と5つずつのA6とO6が(いいかえればK30の中には10個ずつのA6とO6が)それぞれ入っていることになります.

 2種類の黄金平行多面体を用いて,3次元を隙間なく埋める非周期的構造を作ることができることは前述したとおりですが,この黄金平行多面体による充填図形の平面への投影はペンローズ・パターンと呼ばれる準周期性平面充填となります.すなわち,ペンローズのタイル貼りは,三次元空間を2種類の黄金菱面体で非周期的に埋めつくしたときの平面への投影図であり,5回対称性という物質の新しい状態を2次元的に模似したものになっています.

[2]コンウェイの二重プリズム

 1974年にイギリスの数理物理学者ペンローズの発見した2種類の菱形を組み合わせて平面を非周期的に敷きつめるものが最も構成要素の少ないものです.それでは空間の非周期的タイル貼りについてはどうでしょうか?

 1993年に1種類の凸多面体の非周期的な仕方だけで空間全体を完全に埋めつくすことができる立体「二重プリズム」が英国の数学者コンウェイによって発見されました.この立体は4枚の合同な三角形と4枚の合同な平行四辺形からなっていて,2個の傾斜した三角プリズムをねじって接合したものとみなせるため「二重プリズム」と呼ばれています.

 平面全体を一種類だけで非周期的に埋めつくすことのできる図形はまだ知られていません.したがって,非周期的なタイル張りに関しては3次元の場合(コンウェイの二重プリズム)のほうが2次元の場合(ペンローズ・タイル)を超えているといえるのです.

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