■ゴールドバーグの14面体

 14面体というと,ケルビンの14面体,ウィリアムスの14面体の他に,重角錐台型(4^126^2)やねじれ重角錐台型(5^126^2)も考えられます.ねじれ重角錐台型はケルビンの14面体と区別するために「ゴールドバーグの14面体」と呼ばれています.ゴールドバーグの14面体はspace fillerではありませんが,ウィア・フェランの14面体にでてくる多面体です.

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【1】ゴールドバーグの14面体

                 五角形面  平均会合面数  空間分割

  α−14面体(4^66^8)    なし    5.143    可

  β−14面体(4^25^86^4)  あり    5.143    可

  重角錐台 (4^126^2)     なし    4.286   不可

  ねじれ重角錐台 (5^126^2)  あり    5.143   不可

  m≦6−12/f<m+1

とおいて,どの面もm角形またはm+1角形からなる多面体をメディアル多面体と呼びます.6−12/fが多面体の平均辺数になっているからです.

 f≧12のとき,メディアル多面体の構成は5^126^(f-12)になります.f=11のときf4=1,f5=10,f=13のときf5=12,f6=1となるのですが,f=11,13のときメディアル多面体は存在しません.

 また,4≦f≦15(f≠11,13)のとき,メディアル多面体はちょうどひとつあります.とくにf=4,6,12に対し,メディアル多面体は正四面体,立方体,正12面体になっています.f≧16のとき,メディアル多面体は少なくとも2種類あります.

 f=14のときメディアル多面体は5^126^2型のねじれ重角錐台(truncated double skew pyramid)となります.もし,ゴールドバーグの予想が正しければ,f=14のときの等周比の最小値はケルビンの14面体(4^66^8)ではなく,ゴールドバーグの14面体(5^126^2)によって達成されることになります.

  M. Goldberg: The isoperimetric problem for polyhedra, Tohoku Math. J. 40, 226-236(1935)

によれば

          等周比

  4^66^8    150.123

  5^126^2    143.89   (軸の傾き:26°50′)

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【2】等周不等式

 「周長Lの等しい平面領域で,最大の面積Sをもつものは円である.」これを別の表現にしたものが,等周不等式

 「L^2≧4πS   等号は円に対してのみ成り立つ.」

です.

 この節では,多面体に対する等周問題と取り上げますが,任意のn次元の等周不等式は,

  S^n/V^(n-1)≧n^nvn   (vnはn次元単位球の体積)

         =n^nπ^(n/2)/Γ(n/2+1)

で表されます.

 n次元等周比(Cn)において,とくに,n=2のときとn=3のときについては,

  C2=4π,C3=36π

すなわち,

  L^2≧4πS

  S^3≧36πV^2

がわかります.以下,

  C4=2^7π^2,C5=8/3*5^4π^2,C6=6^5π^3,・・・

となりますが,等周比が有理数(整数)×πの形となるのは,2次元・3次元だけのようです.

 また,凸体Vを囲む曲面Sにおいて,平均曲率は,

  H=1/2(1/R1+1/R2)

で定義されます.ここで,平均曲率の積分を

  M=∫Hds

で表すと,ミンコフスキーの不等式

  S^2−3VM≧0

  M^2−4πS≧0

これから直ちに

  S^3≧36πV^2

が導かれます.

 ともあれ,3次元凸集合に対し,表面積をS,体積をVとすると,

  S^3≧36πV^2

が成り立ちます.等号成立は球のときだけで,すべての立体中で球が表面積に対して最大の体積をもっています.

 多面体の等周問題は,単位球に外接する多面体では,

  V=S/3

となることから,

  S^3/V^2=9S=27V

が成り立ちます.したがって,与えられた面数nをもつ多面体に関する等周問題は,最小の体積または最小の表面積をもち,球に外接するn面体を定めるという問題に帰着されます.

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【3】ゴールドバーグの14面体の計量

 5^126^2型のねじれ重角錐台は一意には決まりません.単位球に外接し,さらに球の中心と各面の重心を結ぶ直線がその面と直交するという条件をつけてみましょう.

 ねじれ重角錐(n^25^2n)の五角形の頂点をA,辺CDが正n角形と組み合わさる辺とします.そして,空間座標を

  A(0,y3,z3)

  B(−x2,y2,z2)

  C(−x1,y1,1)

  D(x1,y1,1)

  E(x2,y2,z2)

また,放射線の中心を

  F(0,0,z0)にとります(z3=−z2).

5角形面の重心は

  G(0,Y,Z)

  Y=(2y1+2y2+y3)/5,Z=(2z1+2z2+z3)/5

で与えられます.

 ここで∠OFB=θとすると

  y1/(z0−1)=y2/(z0−z2)=y3/(z0−z3)

 =Y/(z0−Z)=Z/Y=(y2+y3)/2z0=tanθ

  z0=1/sinθ,Y=cosθ,Z=sinθ

また,

  x1/y1=x2/y2=tan(π/n)

  x2/(y2+y3)=tan(π/2n)

 さらに

  y1^2=(Y−y1)^2+(Z−1)^2

より,

  y1=(1−sinθ)/cosθ

  y2+y3=2z0tanθ=2/cosθ

  x2=(y2+y3)tan(π/2n)=2tan(π/2n)/cosθ

  y2=x2/tan(π/n)=2tan(π/2n)/cosθtan(π/n)

  y3=2z0tanθ−y2

  Y=(2y1+2y2+y3)/5

   =(2y1+y2+2z0tanθ)/5=cosθ

に代入すると

  2(1−sinθ)/cosθ+2tan(π/2n)/cosθtan(π/n)+2/cosθ=5cosθ

に帰着されます.これはcosθに関する4次方程式になり,数値解は

  n=4のとき,θ=28.20°

  n=5のとき,θ=26.56°

  n=6のとき,θ=25.66°

で与えられます.

  M. Goldberg: The isoperimetric problem for polyhedra, Tohoku Math. J. 40, 226-236(1935)

の数値解とは約1°の差がありますが,いまのところ原因不明です.

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【4】ウィア・フェランの極小曲面

 同じ体積の泡が集まっているときに,境界面積が最小となる泡の形は何だろうかという問いに対して,ケルビンの14面体(4^66^8)は100年以上もの間,最も効率よく空間を充填する多面体として最善の答であったが,本当に表面積を最小化する多面体であるのかというと否定的であって,実はこの問題はいまでも未解決問題となっている.

 もし,体積が同じで形の異なる2種類の多面体を組み合わせてみたら,ケルビン問題の反例がみつかるのでは・・・.そして,1994年,アイルランドの物性物理学者,ウィアは合金構造をヒントにもっと面積が小さくなる解を発見した.それは同じ体積の2種類の多面体による空間充填であって,不等辺五角形の面をもつ12面体(5角形12枚)と14面体(5角形12枚と6角形2枚:ゴールドバーグの14面体)が1:3の割合で並ぶものである.

 もちろん,この12面体は正十二面体ではないし14面体もケルビンの14面体ではない.そして,ウィアの空間充填ではウィリアムズの14面体(4^25^86^4)の場合と同様に辺や面には微妙な曲がりが含まれている.また,ウィアの空間充填ではウィリアムズの14面体よりも多くの五角形の面をもつという特徴もあげられる.

 そしてこれらの多面体の表面積はケルビンの14面体よりも0.3%小さいことが判明したのである.曲面の高精度計算がコンピュータでできるようになったことがこの新発見に繋がったのであるが,辺や面を微妙に調節することによって空間充填が可能となる.

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