■群と月光(その5)

 ここでは単純リー群の分類とルート系との関連をひとこと.定義も証明もなしですから(その4)の補足程度と思って軽く読みとばしてください.

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 対称群の列挙の歴史は19世紀後半,クライン(ドイツ)とリー(ノルウェー)に始まる.クラインは離散群を,リーは連続群(リー群)を取り扱った.単純リー群を決定するという問題は,有限単純群の分類にも大きな影響を与えた.

 単純リー群の分類は100年あまり前にキリングが着手したが,彼の結果には見落としがあり,単純リー群の分類に完全に成功したのはエリー・カルタンである(1894年).その結果は4個の無限系列(An,Bn,Cn,Dn)と5個の例外群(E6,E7,E8,F4,G2)からなる.括弧内はカルタンの命名による慣用の記号である.

 のちにワイルはカルタンの分類を手がかりにしてこれらの群の表現論を完成させた(1925年).連続群の分類は20世紀数学の大きな業績であるが,最終的にルート系の分類に帰着されるのである.ひとたびこのような一般理論ができてしまうと,その理論から逆にルート系を幾何学的に決定することによってカルタンの分類が再構成できる(ファン・デル・ヴェルデン,1932年).

 なお,ルート系のグラフ表現,表記法を日本ではディンキン図形と呼ぶのが習慣であるが,シュレーフリ・ディンキン図形,ウィット・ディンキン図形などのとも名で呼ばれることもある.奇妙なことにディンキン図形はいろいろな場面に現れ,何度も再発見されているようだ.

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