■デーン不変量と二面角の幾何学(その10)

 R^2の正多角形は無限個ある.それに対して,R^3のなかの正多面体は5種類,R^4では6種類,5次以上では正(n+1)胞体(正4面体の拡張),正2n胞体(正6面体の拡張),正2^n胞体(正8面体の拡張)の3種類しか存在しないことが知られている.

 すなわち,五次元以上のn次元の場合は,2n個の頂点と2^n個の辺をもつ双対立方体(三次元では正八面体),2^n個の頂点と2n個の辺をもつ立方体,n+1個の頂点とn+1個の辺をもつ正単体(三次元では正四面体)の3つですべての正多面体をつくしているのである.

 今回のコラムでは,この3種類の正多胞体の二面角(注:二胞角というべきですが3次元の場合の用語を転用)を求め,それらの間に成り立つ元素定理について述べることにする.

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【1】高次元の正多胞体

 n次元空間において,標準正多胞体以外に正多胞体がなく,二面角がそれぞれ72°,120°より大きければn+1次元においても標準正多胞体以外にはあり得ません.二面角はnとともに増加するので,n次元以上の空間では3種類の標準正多胞体しかありえないことになります.このような状況はn=5で生ずるので,6次元以上の空間でも3種類の標準正多胞体に限られることになります.

 高次元の正多胞体といっても,5次元以上では3種類の標準正凸多胞体しかなく,5次元正多胞体の胞数は正6胞体,正10胞体,正32胞体になるというわけです.なお,5次元以上では凹正多胞体も存在しないわけですから,その意味では平凡な次元といってよいのですが,それに対して4次元は本質的に多彩です.三次元の場合はこれらの他に2つの正多面体<正十二面体と正二十面体>があり,四次元の場合は他に3つ<正24胞体,正120胞体,正600胞体>あるといったほうがわかりやすいかと思われます.その意味で,3次元・4次元は特殊な次元なのです.

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【2】n次元立方体の二面角

 0次元の点がまっすぐ動くと1次元の線分になる.1次元の線分が平面の上で自分と直角の方向に同じ長さだけ動くと,2次元の正方形になる.2次元の正方形が3次元空間の中で自分と直角方向に1辺の長さだけ動くと,3次元の立方体となる.この3次元立方体が4次元空間の中で自分と直角方向に1辺の長さだけ動くと,同じ大きさの8個の立方体からなる4次元の立方体(正8胞体)になる・・・.こうしてn次元立方体(正2n胞体)ができあがる.

 n次元立方体は,

  頂点数: 2^n,

  稜数:  2^(n-1)n,

  四角形数:2^(n-3)n(n−1)

からなっている.このうち,頂点は(±1,±1,・・・,±1)であるから,確かに2^n個あり,各頂点からはn本の稜がでるということがわかるだろう.この超立方体の稜の長さは2である.

 面心の座標は

  (±1,0,・・・,0)

  (0,±1,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・・

  (0,0,・・・,±1)

で,体心の座標は

  (0,0,・・・,0)

であるから,たとえば,隣接する2面の面心

  (1,0,・・・,0)

  (0,1,・・・,0)

を選べば,超立方体の二面角はつねに90°になる.したがって,これによる空間充填形は何次元でも可能ということになる→超立方体による空間充填形(4,3,・・・,3,3,4).

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【3】n次元双対立方体の二面角

 それに対して,n次元双対立方体では

  頂点数: 2n,

  稜数:  2n(n−1),

  三角形数:2n(n−1)^2/3

であり,各頂点からは2(n−1)本の稜,すなわち,n=3では4本,n=6では10本の稜がでる.各頂点のまわりには(n−1)^2個の三角形,また,各稜のまわりにはn−1個の三角形が集まっている.

 また,n次元双対立方体の各頂点の座標は

  (±1,0,・・・,0)

  (0,±1,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・・

  (0,0,・・・,±1)

で表される.

 例えば,6次元双対立方体の頂点が

  (+1, 0, 0, 0, 0, 0)

の場合,10個ある稜の対蹠点の座標は

  ( 0,±1, 0, 0, 0, 0)

  ( 0, 0,±1, 0, 0, 0)

  ( 0, 0, 0,±1, 0, 0)

  ( 0, 0, 0, 0,±1, 0)

  ( 0, 0, 0, 0, 0,±1)

であり,稜の長さは√2である.

 もう1個ある頂点

  (−1, 0, 0, 0, 0, 0)

との距離は2であり,これとは結ばれない.すなわち,中心を通るもの以外のすべての対角線を入れればよいことがおわかり頂けるであろう.

 面心の座標は

  (±1/n,±1/n,・・・,±1/n)

で,体心の座標は

  (0,0,・・・,0)

であるから,たとえば,隣接する2面の面心

  (1/n,1/n,・・・,1/n)

  (−1/n,1/n,・・・,1/n)

を選べば,面心間距離は

  cosθ=(n−2)/n

二面角はその補角であるから

  cosδ=−(n−2)/n

と計算される.n=2のとき90°→正方形による平面充填形(4,4).n=4のとき120°→4次元正16胞体による空間充填形(3,3,4,3).

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【4】n次元正単体の二面角

 線分,三角形,四面体(三角錐)はそれぞれ最も簡単な1次元図形,2次元図形,3次元図形であるが,次元数nより1つ多い数の頂点によって作られる高次元図形を単体(シンプレックス)と呼ぶ.線分は一次元単体,三角形は二次元単体,三角錐は三次元単体とも呼ばれる所以である.

 n次元正単体の場合,

  頂点数: n+1,

  稜数:  (n+1)n/2,

  三角形数:n(n^2−1)/6

である.すなわち,各頂点からはn本の稜がでて,すべての頂点を結ぶと単体ができあがることになる.各頂点のまわりにはn(n−1)/2個の三角形,また,各稜のまわりにはn−1個の三角形が集まっている.

 n次元正単体の頂点の座標を

  (1,0,・・・,0)

  (0,1,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・

  (0,0,・・・,1)

としよう.これらの頂点間距離は√2である.

 これらの座標が与えられたとき,残りの1点の座標は

  (x,x,・・・,x)

とすることができる.他の頂点との距離は√2であるから,

  (x−1)^2+(n−1)x^2=2

すなわち,

  nx^2−2x−1=0

を満たさなければならないことより,

  x={1−√(1+n)}/n

が得られる.

 n+1個の頂点:

  V1(1,0,・・・,0)

  V2(0,1,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・

  Vn(0,0,・・・,1)

  Vn+1(x,x,・・・,x)

の中心座標(体心)は

  ((x+1)/(n+1),・・・,(x+1)/(n+1))

底面

  (1,0,・・・,0)

  (0,1,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・

  (0,0,・・・,1)

の重心(面心)は

  (1/n,1/n,・・・,1/n)

それに隣接する面

  (x,x,・・・,x)

  (0,1,・・・,0)

  ・・・・・・・・・・・

  (0,0,・・・,1)

の重心(面心)は

  (x/n,(x+1)/n,・・・,(x+1)/n)

であるから,2つの連接する面心ベクトルは

  (1/n−(x+1)/(n+1),1/n−(x+1)/(n+1),・・・,1/n−(x+1)/(n+1))

  (x/n−(x+1)/(n+1),(x+1)/n−(x+1)/(n+1),・・・,(x+1)/n−(x+1)/(n+1))

より,面心間距離は

  cosθ=−1/n

二面角はその補角であるから

  cosδ=1/n

と計算される.n=2以外のときは4直角の整数分の1にならないが,これは正三角形による平面充填形(3,6)に他ならない.

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【5】n(≧5)次元の正多胞体元素定理

  正n+1胞体 → cosδa=1/n,sinδa=√(n^2−1)/n

  正2n胞体 → cosδb=0,sinδb=1

  正2^n胞体 → cosδc=−(n−2)/n,sinδc=2√(n−1)/n

より,

  u=1/n+√(n^2−1)/ni

  v=i

  w=−(n−2)/n+√(n−1)/ni

とおく.|u|=1,|v|=1,|w|=1

 3種類の正多面体での分解合同(分解相似?)の関係式

  n1δa+nδb+n3δc≠kπ

  n1δa+nδb+n3δc≠0  (mod π)

は,δb=π/2より,

  N1δa+N2δc≠0  (mod π)

とより簡潔に書くことができる.

 u=1/n+i√(n^2−1)/nについては,

  u−1/n=i√(n^2−1)/n

より,uは2次方程式nu^2−2u+n=0の解である.

  nu^2=2u−n

  n^2u^3=2nu^2−n^2u=2(2u−n)−n^2u

      =(4−n^2)u−2n

帰納法により

  n^m-1u^m=a1u+b1   (a1≠0,b1=0 mod n)

を示すことが出来る.

 同様に,w=−(n−2)/n+2√(n−1)/niについては,

  w+(n−2)/n=i2√(n−1)/n

より,wは2次方程式nw^2+2(n−2)w+n=0の解であり,

  n^m-1w^m=a2w+b2   (a2≠0,b2=0 mod n)

がいえる.

 ここで,複素数の積

  Z=n^N1-1u^N1・n^N2-1w^N2

を考える.複素数の掛け算は偏角の足し算に対応し,実数n^N1-1,n^N2-1の偏角はすべて0であるから,Zの偏角

  Arg(Z)=Arg(u^N1・w^N2)=Arg(u^N1)+Arg(w^N2)

がnπにならないこと,すなわち,u^N1・w^N2の虚部

  Im(u^N1・w^N2)

が0にはならないことがいえればよいことになる.

 結局

  Z=(a1u+b1)(a2w+b2)=Re+Imi

  Im≠0

  a1≠0,b1=0   (mod n)

  a2≠0,b2=0   (mod n)

に帰着されれば,N1δa+N2δcは有理係数で線形独立であり,必要な原子が最低3種類という結論が主張できることになる.実際,

  Im=√(n−1)/n^2{2a2(a1+b1n)+a1(a2+b2n)√(n−1)}

と展開されるが,a1(a2+b2n)≠0により,Im≠0がいえる.すなわち,n(≧5)次元の正多胞体の元素数は≧3である.

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