■良い配置(その6)

【1】グレコ・ラテン方陣の存在・非存在

 n行n列の正方形の升目に文字を配列し,各行各列に文字の重複がないものをn次ラテン方陣という.

  [a,b,c]  [a,b,c]

  [b,c,a]  [c,a,b]

  [c,a,b]  [b,c,a]

は3次のラテン方陣であるが,縦も横も同じ文字が重複なく1回ずつしかでてこない.ラテン方陣を作るには,最初の行をa,b,cとして一行下がるごとに左に(あるいは右に)ひとつずつ巡回置換させればよい.

 ラテン方陣では属性はひとつであったが,次に属性を1つ増やして2つの属性を有する対象を升目状に並べた配列を考える.同じ組が現れずすべて異なる配列が「グレコ・ラテン方陣」である.グレコ・ラテン方陣はオイラーにちなんで「オイラー方陣」とも呼ばれる.

  [a,b,c] [α,β,γ] [aα,bβ,cγ]

  [b,c,a]+[γ,α,β]=[bγ,cα,aβ]

  [c,a,b] [β,γ,α] [cβ,aγ,bα]

は3次の左巡回ラテン方陣と右巡回ラテン方陣を組み合わせて,グレコ・ラテン方陣にしたものである.このように,合併してグレコ・ラテン方陣になる2つのラテン方陣を(比喩的に)直交するという.

  [1,2,3] [1,2,3] [11,22,33]

  [3,1,2]+[2,3,1]=[32,13,21]

  [2,3,1] [3,1,2] [23,31,12]

は3次のラテン方陣を組み合わせて,グレコ・ラテン方陣にしたものである.

 しかし,4次のラテン方陣を組み合わせても</P>

  [1,2,3,4] [1,2,3,4] [11,22,33,44]

  [4,1,2,3]+[2,3,4,1]=[42,13,24,31]

  [3,4,1,2] [3,4,1,2] [33,44,11,22]

  [2,3,4,1] [4,1,2,3] [24,31,42,13]

のように同じ数字が2回でてきてしまう.失敗の原因は,これらは非直交であるため,4次のグレコ・ラテン方陣とはならないことによる.

 一般にnが奇数の場合,2つのラテン方陣を組み合わせるとグレコ・ラテン方陣ができるが,偶数のときはダメである.実は4次の魔法陣はまったく別の方法で作ることができるのだが,それには「有限体」を理解することが必要になる.

 有限アフィン平面F4×F4を利用して作った以下の2つのラテン方陣は直交していて,これらを組み合わせるとグレコ・ラテン方陣になる.

  [0,1,2,3] [0,1,2,3] [00,11,22,33]

  [1,0,3,2]+[3,2,1,0]=[13,02,31,20]

  [2,3,0,1] [1,0,3,2] [21,30,03,12]

  [3,2,1,0] [2,3,0,1] [32,23,10,01]

 すべてのnに対してグレコ・ラテン方陣は存在するのか? また,そうでないとしたらどのようなnに対してグレコ・ラテン方陣は存在するのだろうか?

 1779年,オイラーは36人士官問題を出したが,この問題は直交する6次ラテン方陣の非存在と同値である.オイラーの予想が正しいことを最初に証明したのはタリー(1900年)である.そして,1960年にはn≠2,6ならば直交する2つのラテン方陣が存在することが証明された.すなわち,n=2と6の場合だけグレコ・ラテン方陣が不可能であることが判明したのである.

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【2】完全直交系と有限射影平面

 グレコ・ラテン方陣では直交するラテン方陣が一組存在すればよいのであるが,次に問題になるのは,互いに直交するn次ラテン方陣の個数N(n)の決定である.この問題は1930年代にフィッシャーにより創始された統計学における実験計画と関係しているので,統計分野の人にとってはなじみの問題かもしれない.

  N(1)=1,N(2)=1,N(6)=1

  N(n)≧2(n≧3,n≠6)

 そして

  N(n)≦n−1

であることは容易にわかるのだが,

  N(n)=n−1

が成立するとき,互いに直交するn−1個のラテン方陣を完全直交系という.

 完全直交系が存在するnを決定することは有名な未解決問題である.有限体を用いると,素数pの累乗n=p^rに対して,n次ラテン方陣の完全直交系が存在することがわかっている.そして,各直線上にn+1個ずつの点があるのが「有限アフィン平面」で,nが素数または素数の累乗のとき有限アフィン平面は存在する.

 すなわち,有限アフィン平面の存在は,n−1組の互いに直交するラテン方陣の存在と同値であって,この逆も成り立つのである.

  『n次の有限アフィン平面の存在←→(n−1)個の互いに直交するラテン方陣の存在』

 n次のアフィン(射影)平面が存在すれば,方程式

  z^2=nx^2+(-1)^((n(n+1)/2)y^2

がすべて0でない整数解をもつことが示されていて,たとえば,n=6の場合,

  z^2=6x^2−y^2

が整数解をもたないことを示すことができるので,6次のアフィン(射影)平面は存在しないことになる.

 さらに,n=4k+1,4k+2の場合にn次のアフィン(射影)平面が存在すれば,

  n=x^2+y^2

となる整数が存在するということも証明されている.このことからn=6,14,21,22,・・・の場合,n次のアフィン(射影)平面が存在しないことがわかるということである.

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