■相転移モデル(その9)

 ウルフラムの天才ぶりについて,紹介したい.

 『ウルフラムは1975年,16歳でオックスフォード大学に入学後1年でそこを去り,カリフォルニア工科大学の研究員の地位を得る.20歳で博士号を取得し最年少でマッカーサー特別研究員の第1期生となった.しかし,後のMathematicaの原型となるSMPの著作権をめぐって大学と抗争となりそこを去る.そして,多数の論文,著作を残した量子色力学の研究を放棄して,セルオートマトン理論の研究に参入する.』

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【1】数式処理システムMathematicaの歴史

 数式処理ソフトというと,MathematicaやらMAPLEやら,いまでは多くの種類があるが,パソコンで手が届くようになったのはユタ大学のハーンによってReduceが開発されて以来のことである.なかでもMathematicaは代表的な数式処理ソフトであり,数式処理ソフトの中でも別格といってよいものであろう.

 その開発者ウルフラム(イギリスの理論物理学者:1959-)は,1975年,16歳でオックスフォード大学に入学後1年でそこを去り,カリフォルニア工科大学の研究員の地位を得る.20歳で博士号を取得し最年少でマッカーサー特別研究員の第1期生となった.

 しかし,後のMathematicaの原型となるSMPの著作権をめぐって大学と抗争となりそこを去る.そして,多数の論文,著作を残した量子色力学の研究を放棄して,セルオートマトン理論の研究に参入する.70年代のライフゲーム(コンウェイ)のブームが下火となった80年代前半に,ウルフラムは2次元モデルが中心であったセルオートマトンに1次元モデルを導入し,物理現象を表す偏微分方程式をコンピュータで近似するかわりに,セルオートマトンを用いるスキームを開発した.

 1次元セルオートマトン法では,セルの並びを横一列だけとして初期配置と状態変化の規則を設定し,その時間ステップごとの変化を縦に並べる.すると,2次元にある模様が現れる.ウルフラムはこうして得られた1次元セルオートマトンモデルが作り出すパターンを系統的に研究することによって,クラス1(均一),クラス2(周期的),クラス3(カオス的),クラス4(複雑)の4つのクラスに分類し,さらにセルオートマトンと微分方程式系との対応を初めて明らかにした.セルオートマトンによって偏微分方程式の近似解が与えられ,自然界の様々なモデル化が可能であることを指摘した.

 これが1984年に発表された有名な論文の要旨である.コンピュータを使う限りはすべて離散量で扱っていることになるので,ウルフラムは微分方程式よりも彼のスキームのほうがデジタル・コンピュータに適していると主張する.このことによってセルオートマトン法は再び注目を浴び,様々な分野に適用されている.

 当時,ウルフラムはプリンストン研究所と同時にロスアラモス研究所に所属していたのであるが,ウルフラムによるMathematicaの開発は,彼のセルオートマトンに対する理解と重なっているように見える.また,実際そうであったに違いない.ウルフラムについては「おそろしく頭のいい奴」とその天才ぶりを評する以外にないだろう.

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