■眼から鱗が落ちるかも(その3)

 コラム「テータ関数の応用」(その2)では合同数の問題,(その3)では等スペクトル問題に対するテータ関数の応用を扱った.今回のテーマは二平方和問題,四平方和問題,八平方和問題に対するテータ関数の応用である.

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【1】n=x^2+y^2(二平方和問題)

 和の順序や整数の正負も区別すると,2は2つの平方数の和で4通りに表せる.

  2=(±1)^2+(±1)^2

しかし,3は2つの平方数の和では表せない数である.5は

  5=(±2)^2+(±1)^2

  5=(±1)^2+(±2)^2

と書けるから8通りに表せる.そこで

[Q]どんな整数nが2つの平方数の和として表されるか? 正の整数nを2

つの平方数の和で表す方法の総数r2(n)を表す式を求められるか?

 どのような自然数mが2つの平方数の和の形に書くことができるのでしょうか? 2つの平方数の和になる数m=4n+3はありません.mの素因数分解におけるp=4n+3の形のすべての素因数の指数が偶数であるときに限り,2つの平方数の和の形に表すことができるのです.すなわち,

  p=1   (mod3)

  q=−1  (mod3)

  m=2^aΠp^bΠq^c

において,すべてのcが偶数のとき,m=x^2+y^2に対する解は存在するのです(必要十分条件).

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 そして,正の整数nの約数で4k+1の形のものの個数をd1(n),4k+3の形のものの個数をd3(n)とすると

  r2(n)=4(d1(n)−d3(n))

が成り立ちます.

(証)θ(τ)=Σq^(n^2)

より

  θ(τ)^2=Σr2(n)q^n,q=exp(πiτ)

すなわち,r2(n)の母関数はθ(τ)^2と一致する.

 また,

  θ(τ)^2=1+4Σq^n/(1+q^2n)

       =1+4Σ{q^n/(1−q^4n)−q^3n/(1−q^4n)}

       =1+4Σ(d1(n)q^n−d3(n)q^n)}

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【2】n=□+□+□+□(四平方和問題)

[Q]正の整数nはすべて4つの平方数の和として表されるか? 正の整数nを4つの平方数の和で表す方法の総数r4(n)を表す式を求められるか?

 4k+3の形の整数は2つの平方数の和として表せない,8k+7の形整数は2つの平方数の和として表せない,しかしながら,「すべての正の整数は高々4個の整数の平方和で表される」というのが,ラグランジュの定理です.すなわち,ラグランジュの定理は4次元空間内の原点を中心とする半径√nの球面には必ず格子点があることを主張しているわけです.半径√nの2次元の円,3次元の球には格子点が存在するとは限らないのです.

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 σ1(n)をnの約数全部の和とすると,nが4で割り切れないとき

  s1(n)=σ1(n)

nが4で割り切れるとき

  s1(n)=σ1(n)−4σ1(n/4)

となる.

 ここで,4で割り切れないnの約数の和をs1(n)と書くことにすると,

  r4(n)=8s1(n)

が成り立つ.

(証)θ(τ)=Σq^(n^2)

より

  θ(τ)^4=Σr4(n)q^n,q=exp(πiτ)

 ここで,アイゼンシュタイン級数をかなり巧妙に変形した関数

  E2(τ)=ΣΣ1/(mτ/2+n)^2−ΣΣ1/(mτ+n/2)^2

を導入すると,

  θ(τ)^4=−π^-2E2(τ)=1+8Σs1(k)q^k

を示すことができる.

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【3】八平方和問題

 これらの出発点となった考え方は,

  {Σq^(n^2)}^4=ΣR(n)q^n

   =1+8nq^n/(1-q^n)

の2つの表現のq^nの係数を比較することであって,Σq^(n^2)はテータ関数です.R(n)を求めるのにヤコビはテータ関数を用いたのですが,それ以来,モジュラー形式などの解析的理論が数論へ応用されるようになり,ヤコビは2,4,6,8個の平方の和に分解する仕方の数,エルミートは3,5個の平方の和に分解する仕方の数を得ています.

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 8個の平方の和に分解する仕方の数をr8(n),σ3(n)をnの約数の3乗和とすると,nが偶数のとき,

  s3(n)=σ3(n)

nが奇数のとき,

  s3(n)=σ3e(n)−σ3o(n)

       =nの偶数の約数の3乗和−nの奇数の約数の3乗和

と書くことにすると,

  r8(n)=16s3(n)

が成り立つ.

(証)θ(τ)=Σq^(n^2)

より

  θ(τ)^8=Σr8(n)q^n,q=exp(πiτ)

 ここで,アイゼンシュタイン級数の類似物

  E4(τ)=Σ1/(n+mτ)^4

ここで和は反対の偶奇性をもつ整数n,m全体にわたってとるものとすると,

  θ(τ)^8=48π^-4E4(τ)=1+16Σs3(k)q^k

を示すことができる.

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[補]母関数

 nの約数の個数をd(n),nの約数のm乗和をσm(n)で表す.それぞれの母関数は

  Σd(n)z^n=Σz^n/(1−z^n)

  Σσm(n)z^n=Σn^mz^n/(1−z^n)

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