■射影平面のモデル

 コラム「位相幾何学における2つの定理」では,射影平面のモデルとしてボーイの曲面を説明した.もうひとつの射影平面のモデルがシュタイナーのローマン曲面である.シュタイナーのローマン曲面は代数曲面であるが,ボーイの曲面型の代数曲面が存在するかどうかはまだ知られていない.

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【1】ボーイの曲面

 ボーイの曲面は射影平面のモデルで,いかなる特異点ももたず,また至る所連続な単側曲面である.

 ボーイの曲面は1つだけ3重点をもっている.原点を通る3枚の曲面をxy,yx,zxの3平面に対応させると,2重線はx,y,z軸に対応する.そして,x軸の正の方向から出る2重線はy軸の負の方向に繋がる.あとは循環的にy軸正とz軸負,z軸正とx軸負を繋ぐ.これが自己交差のすべてである.

 この曲面は3重の回転対称軸をもっていて,この曲面を作るには正方形からでなく,六角形から始めるとよい.ボーイの曲面から1点を除いたものはメビウスの帯に同相である.また,クラインの壷には鏡面対称性があり,対称面で切ると2つのメビウスの帯に分かれる.このことから,ボーイの曲面は射影平面Pと同相,クラインの壷Kは2Pと同相であることがわかる.すなわち,クラインの壷Kよりも射影平面Pの方が基本的なのである.

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【2】シュタイナーのローマン曲面

 正八面体において,ひとつおきに正三角形面を取り去り,内部の対角面に3枚の正方形を入れると,表と裏の区別の付かない閉じた多面体「単側7面体」が得られる.原点は3重点になる.内部の3枚の正方形の交差線を稜と考えなければ,アルキメデス立体のように正多角形が各頂点のまわりに同じ状態で集まっている.正八面体と同じく12の辺と8つの頂点をもつことになる.(これと同様に,立方八面体のすべての正方形面を取り去り,内部の対角面に4枚の正六角形を入れると「単側12面体」が得られることになる.)

 単側7面体に変形することができるような簡単な単側閉曲面が,シュタイナーのローマン曲面

  y^2z^2+z^2x^2+x^2y^2+xyz=0

と呼ばれる4次曲面である.

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【3】雑感

 トーラスに変形することができるような簡単な両側閉曲面が,デュパンのサイクライド曲面である.

 固定して置かれた3つの球のすべてに接する無数の球を考えたとき,それらの一連の球の中心は楕円上にあり,その包絡面はデュパンのサイクライド曲面となる.逆にいうと,ある楕円上に中心をもち,ある1つの球に接する球面全体の包絡面ということになる.

 サイクライド曲面にはトーラスと違い太い部分と細い部分があるが,トーラスはサイクライド曲面の特別な場合であって,すべてのサイクライド曲面はトーラスを反転させることによって得られる.

 ある曲面のすべての点に法線をたてると法線焦点は一般に曲面を描くが,サイクライド曲面はこの焦曲面が曲線に退化する唯一の曲面であり,また,曲率曲線がすべて円である唯一の曲面はサイクライド曲面であることが知られている.実際,サイクライド曲面はさまざまな切り口において円の断面が見られるなど,さまざまな面白い性質をもった数学曲面である.

 デュパンのサイクライドはジャグリングの際の球の動きと関係しているらしい.この曲面をイメージしながらジャグリングしているそうであるが,素人の私にはボーイの曲面やシュタイナーの曲面の方がジャグリングにマッチしているように見えるのである.

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